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【東野圭吾】
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分身の評価:
6.63/10点 レビュー 8件。 B ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです
平均点6.63pt
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
先駆的作品だったんだね
多彩な作風を繰り広げる東野圭吾氏のジャンルの1つに医学系サスペンスというのが挙げられる。古くはスポーツミステリ『鳥人計画』も人間の能力を科学的に向上させるある計画が通奏低音であったし、東野圭吾氏の作風の転機となった作品『宿命』と『変身』も医学の闇をテーマにして人間の心の謎を扱った作品だった。さらに変化球としては女性版ターミネーター、タランチュラが登場する『美しき凶器』もまた当て嵌まるだろう。そして本書はその2文字の題名からして『宿命』、『変身』に連なる作品といえるだろう。本書は全く同じ容貌をした氏家鞠子の章と小林双葉の章が交互で語られる形で物語は進む。題名とこの構成からも明らかだろうからネタバレにならないので敢えて書くが、この2人は同一の遺伝子から生まれたクローンなのだ。体外受精で生まれた子供たちが成長した姿である。本書で語られる学問は発生学という耳慣れない学問。刊行されたのが93年なので現在同じ呼称なのか判らないが、細胞分裂の過程でどの細胞が目となり、口となるのか、その現象を探る学問と作中では書かれている。即ち『宿命』、『変身』と脳から遺伝子へと続く系譜が本書で垣間見える。『宿命』では何が過去に起きていたのかを巧みに隠し、それが最終的に晃彦、勇作、美佐子の三人の隠された関係へ発展していくのに対し、『変身』、『分身』では先に何がなされているのかが判るようになっている。つまり医学的なミステリがこれら2作の主眼ではなく、それに伴う人間ドラマがメインテーマなのだ。そして本書で描かれるのは母性。たとえ本当の自分の子ではなくとも母は子供を愛するのだという深い母の愛だ。しとやかなお嬢様として育てられた氏家鞠子の母、男勝りの活発な女性として育てられた小林双葉の母、それぞれ方法は違っても、根底に通じるのは鞠子、双葉への献身的な愛だった。だからこそ2人は性格の違うのにも関わらず、我が子と自らの境遇の行く末を思い、悲嘆に暮れるのだ。特に事件の発端となった、頑なに禁じていた我が子のTV出演を叱りつける事無く、受け流した小林志保の母性が印象に強く残った。鞠子と双葉がお互いの出生の秘密を探る道筋は交錯しながらもなかなか交わらず、なかなか邂逅に至らない。この最後に2人が出逢うラストシーンは作者が本書でやりたかった事なのは判るが、そこに至るまでが濃厚だっただけに最後は駆け足で過ぎた感じがするのが残念だ。鞠子、双葉それぞれの旅程のパートナーだった下条、脇坂講介が途中退場するのもこの構成のために致し方ないがなんとも尻切れトンボのような結末に感じてならない。 ▼以下、ネタバレ感想
卓越した構成力
発表されたのが1992〜3年、東野圭吾が大きく変身し始めていたのが実感できる力強い作品である。函館生まれで札幌の大学に通う18歳の鞠子は、母親の自殺を巡る謎を解くために、昔父親が通った東京の大学を訪れて、父親の過去を探り始めたが、その途中で自分と瓜二つの女性がテレビに出ていたことを知らされる。東京の女子大生20歳の双葉は、アマチュアバンドでテレビに出演することになったが、なぜか母親からテレビに出ることを強く反対される。母親の反対を押し切ってテレビに出た双葉だったが、その後、轢き逃げされて死亡した母親の遺品を整理していて不思議なスクラップブックを発見、さらに母親の過去を知っているという旭川の大学教授から誘われて母親の秘密を探るために旭川に出掛けることになる。誰もが見間違えるほどそっくりな顔形、体型の鞠子と双葉。二人には、本人たちがまったく知らなかった強い結びつきがあった。それぞれが自分の出生にまつわる謎を解明するために、鞠子は東京で父親の、双葉は北海道で母親の過去を探し始めるが・・・。タイトルや物語のイントロから分かるように、人口受精やクローン作成が主テーマだが、作者の巧みな構成力によって、単なる医学技術批判の物語だけには終わらない、謎解きとサスペンスが楽しめる、エンターテイメントしても良質な作品に仕上がっている。
分身の感想
作者の真骨頂とも言える理系ネタものであり、クローン技術がテーマになっています。20年も前の作品であり、当時と比べて現在では既に絵空事ではなくなっているのですが、これを賞味期限切れなどと評価するのはおかしいだろう。この作品は、技術的な部分をどうこう言っているのではなく、進歩する科学・医療に対する、人間の倫理や尊厳といったものを主眼としています。そして、そのタブーに足を踏み入れてしまった者達の葛藤や苦悩が描かれた作品です。鞠子と双葉という二人の女性が主人公で、章毎に交互に登場する構成になっています。視点の切り替わりは、非常に先が気になるタイミングに設定されており、読み手の「読む意欲」を掻き立て非常に効果的です。二人は、お互いにその存在を知る事なく、それぞれがそれぞれの方法で真相に近づいていきます。真相に対する近づき度合いもその時時で両者異なるのですが、それだけでなく、ワンステップ先に進めるための手掛かりも二人で異なっているのです。違った切り口からのトライが、交互に描かれるのです。おかげで、読み手には全く息をつく暇がありません。 ▼以下、ネタバレ感想
多彩な作風を繰り広げる東野圭吾氏のジャンルの1つに医学系サスペンスというのが挙げられる。
古くはスポーツミステリ『鳥人計画』も人間の能力を科学的に向上させるある計画が通奏低音であったし、東野圭吾氏の作風の転機となった作品『宿命』と『変身』も医学の闇をテーマにして人間の心の謎を扱った作品だった。さらに変化球としては女性版ターミネーター、タランチュラが登場する『美しき凶器』もまた当て嵌まるだろう。
そして本書はその2文字の題名からして『宿命』、『変身』に連なる作品といえるだろう。
本書は全く同じ容貌をした氏家鞠子の章と小林双葉の章が交互で語られる形で物語は進む。題名とこの構成からも明らかだろうからネタバレにならないので敢えて書くが、この2人は同一の遺伝子から生まれたクローンなのだ。体外受精で生まれた子供たちが成長した姿である。
本書で語られる学問は発生学という耳慣れない学問。刊行されたのが93年なので現在同じ呼称なのか判らないが、細胞分裂の過程でどの細胞が目となり、口となるのか、その現象を探る学問と作中では書かれている。即ち『宿命』、『変身』と脳から遺伝子へと続く系譜が本書で垣間見える。
『宿命』では何が過去に起きていたのかを巧みに隠し、それが最終的に晃彦、勇作、美佐子の三人の隠された関係へ発展していくのに対し、『変身』、『分身』では先に何がなされているのかが判るようになっている。つまり医学的なミステリがこれら2作の主眼ではなく、それに伴う人間ドラマがメインテーマなのだ。
そして本書で描かれるのは母性。たとえ本当の自分の子ではなくとも母は子供を愛するのだという深い母の愛だ。
しとやかなお嬢様として育てられた氏家鞠子の母、男勝りの活発な女性として育てられた小林双葉の母、それぞれ方法は違っても、根底に通じるのは鞠子、双葉への献身的な愛だった。だからこそ2人は性格の違うのにも関わらず、我が子と自らの境遇の行く末を思い、悲嘆に暮れるのだ。特に事件の発端となった、頑なに禁じていた我が子のTV出演を叱りつける事無く、受け流した小林志保の母性が印象に強く残った。
鞠子と双葉がお互いの出生の秘密を探る道筋は交錯しながらもなかなか交わらず、なかなか邂逅に至らない。この最後に2人が出逢うラストシーンは作者が本書でやりたかった事なのは判るが、そこに至るまでが濃厚だっただけに最後は駆け足で過ぎた感じがするのが残念だ。
鞠子、双葉それぞれの旅程のパートナーだった下条、脇坂講介が途中退場するのもこの構成のために致し方ないがなんとも尻切れトンボのような結末に感じてならない。
▼以下、ネタバレ感想