枕アイドル
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夢中になれた「カリスマ」ほどではなかったけど、普通のドラマを惰性で見るよりは楽しめました。途中でトリック(真相)に気づけるけど、シラケずに最後まで読ませてくれたのはわたしが著者と馬が合うからかも。 本当はこんなトリックは不要で、主人公が芸能界を枕でのし上がる様をもっともっとドギツくエロく描いてくれたほうが好み。 | ||||
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すみません。以前枕女王読んだのですが、また違うのでしょうか?買いますが。 | ||||
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テーマや人物造形が衝撃的で「骨」に来る小説というのは時々拝読する事があるのだけど、「胃」に来る小説ってのは中々お目に掛れない。どストレートなタイトルに惹かれて今回初読となった作家、新堂冬樹だったけど予想以上に吐き気を催す世界を見せてくれた。 物語は地下アイドルとして大して集客も良くない会場で精一杯ドルオタに媚びを売り、物販に繋げようとする未瑠の遣る瀬無い日常から始まる。アイドルを名乗りながらまるで華も無い他のメンバー二人に嫌気が差していた未瑠を更に苛つかせるのはブログに頻繁に中傷コメントを寄せる「樹里亜」の存在。 その日も自分の顔を整形だと決めつけるコメントを投稿してきた樹里亜にゲンナリさせられた未瑠だったが、最悪な気分を決定付ける様にマネージャーの坂巻が制作会社のプロデューサー相手の枕接待をセッティングした事を告げてくる。 枕営業を半ば強要された事よりもその相手がテレビ局のプロデューサーではなく大した権限も無い制作会社のプロデューサーである事に不平を漏らす未瑠だったが、渋々と円山町のラブホテルに向かう羽目に。初心なフリをしながら手慣れたテクニックで接待相手の石田を焦らしつつ対価を要求した未瑠だったが石田が提示したのは「BSドラマの5番手」という微妙な役柄。 それでも次に繋がるチャンスだと自分を納得させた未瑠は果てさせた石田を置いて去る事に。石田に対して全ての会話を録音して約束を破れば全てを関係者にばら撒くという脅しの言葉を残して…… いやもう本編が始まって40頁でタイトルが予想させる通り枕接待の場面が始まってしまうのだけど微塵もエロティックさを感じさせない事に驚いた。17歳の女の子が中年男に跨りながら自分の要求を呑ませる姿が行為の一つ一つに至るまで詳細に描かれているのにも関わらず「女の子がエッチをしている」じゃなくて「人間みたいな形をしたクリーチャーが獲物を捕食している」としか見えないのである。エロとグロは紙一重とは言うが、もうこの場面でかなり「うわあ……」とドン引きした。 物語の方はこの「枕営業の何が悪いの?栄達を手にしない人生なんて意味あるの?」という世間の倫理・道徳なんか知ったこっちゃないとエゴの塊みたいなアイドル未瑠のシンデレラストーリーが一つの軸となっている。冒頭で接待した制作会社プロデューサーの石田が用意した次に繋がりそうもないショボい役とメインヒロインを演じる大手事務所の女優とそのマネージャーから受けた仕打ちにキレて「もう誰にも頼らず、自分の手で覇道を成し遂げる」と決意してからは凄まじい勢いで未瑠の物語が展開される。 何しろ公共の電波でいきなり「自分は枕接待で今の立場を手にしましたが、何か?」とカミングアウトしてしまうので読者の方もかなり度肝を抜かれるかと。しかもそのキャラを裏表にわたって貫き通し次から次へと男を股に掛けていくのだから恐れ入る……まさにエゴの怪物としか言えない未瑠の在り様に胸倉を掴まれたままページを捲らされている様な気分になった。 そんなエゴの怪物と化していく未瑠の物語がA面だとしたらB面で描かれるのは未瑠のブログに中傷コメントを送り続ける樹里亜の物語である。この娘もまた高校中退でデリヘル嬢をやってる様な割ととんでもない設定なのだけれども、彼女が未瑠と同じエゴの怪物なのかと言えばさにあらず。彼女はもう一匹の「エゴの怪物」に捕食される存在として描かれる。 デリヘルの仕事で呼び出されたホテルで客として現れたのが何と実の父親である英輝なのだけど、登場シーンでは実の娘がデリヘル嬢として現れた事やその事実を突き付けられる哀れな父親かと思わされたのだが、この父娘の関係が明かされるにつれ英輝の恐るべき怪物性が顔を覗かせ始める。 幼い頃から実の父親から性的虐待を受け続け、精神的に追い込まれた母親からは不潔な娘と精神にも肉体にも暴行を受け続けた樹里亜の人生だけでも相当に吐き気がこみ上げてくるのだが、たった一人の友人とその家族を人質に取った英輝により最初は脅していた父親と樹里亜の関係は逆転。まさに性の奴隷として扱われるので読み進めるにつれ本気で嘔吐感がこみ上げてきた。 この対照的な未瑠と樹里亜だけれども前半ではブログを通じた交流しか描かれず、読者としては「いつになったらこの二人が直接対決に至るの?」と困惑しながら読み進める事に。そして折り返し地点で遂に二人が対峙する場面を迎えるのだけど、ここまで徹底したリアリズムで構築されてきた世界にいきなり白昼夢みたいな出来事が生じるので「え?」と目を疑った。 そしてその「あり得ない出来事」は読者の脳裏に一つの真相を想起させる。そしてその「突飛ではあるが、そう考えれば全てに説明がつく」という真相を確かめたいという欲求が猛烈に頁を捲る手を加速させる。前半は未瑠と樹里亜の過激な人生で引っ張り、後半はこの二人の秘密を確かめたいという欲求で読者を500頁以上グイグイと引っ張るのだから作者である新堂冬樹の「読ませる力」は本物だと言って良いだろう。 その読者が追い求めた真相は追い込まれた樹里亜により迎えた破局と共に突き付けられるのだけれども、エゴの塊である未瑠の物語でキーとなっていた人物の真相も明かされるので「読者の予想の一歩上を行く」という作家としてのイマジネーションにも大いに唸らされた次第。 この真相が明かされた事で読者としては「ああ……」と絶句させられるのだけれども、終盤の数十頁がちょっと……いくら叙情酌量の余地が大いにあって心神耗弱の状態と言っても殺人で数年経たずに世間で野放しというのはいくら何でもリアリティに欠けるし、最後に新キャラを出して話を纏めさせるという手法も些か中途半端に感じられた。 いや、並走していた主役二人の破局に至るまで500頁を「いったいこの物語はどういう形で決着するんだ?」という想いに駆られて猛烈な勢いで読み進めるという体験をさせて貰っただけでも十分に元が取れるぐらい楽しめた訳で着地でチョイとグラついたからと大幅減点にするつもりは無いのだが。途中の演技が完璧だっただけに最後のジャンプとその着地も「ピタッ!」と決めて欲しかったというのが読者としての正直な所。 ともあれ、相当にエグい描写を積み重ねながらもそのショッキングな部分だけに頼らず、エゴの塊とエゴを押し潰された存在という対照的な二人のヒロインの物語を一つに縒り上げる物語の構築能力には大いに感心させられた。未読の作家さんの中にもまだまだこういうパワフルな「読ませる力」を持った方がおられるのだと思い知らされてウキウキした気分にさせられた一冊。 | ||||
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