(アンソロジー)

新 世界傑作推理12選



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    初公開日(参考)1982年07月
    分類

    アンソロジー

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    新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)

    1986年12月01日 新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)

    E・クイーンは1941年いらい、四十余年の長きにわたって「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」(EQMM)を編集してきた。その間、掲載された作品は六千余―その膨大な作品群の中から、きびしい選択眼で選び抜いた名品を集めたのが、この本である。文字どおり、世界のミステリー界をリードしてきたEQMM「ベスト・ミステリー決定版」である。(「BOOK」データベースより)




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    No.1:
    (7pt)

    かつて日本ミステリが世界のクオリティに近づいた頃の短編集

    日本人読者向けに編んだ『世界傑作推理12選&ONE』がよほど好調だったのか、続いて編まれたのが本書。但し前回の「&ONE」に当たる編者クイーン自身の短編は収録されておらず、代わりに日本人作家、当時日本を代表していた夏樹静子氏と松本清張氏からそれぞれ1編ずつ収録されているのが特徴的だ。

    このアンソロジーの幕開けを担うのが執事ジーヴスシリーズが本書刊行20数年後に大ブレイクを果たしたP・G・ウッドハウスの「エクセルシオー荘の惨劇」だ。
    イギリスの下宿屋で突然亡くなった船長の死因はコブラの毒によるものだった。21世紀の現代ならさほど珍しいとは思わないが本作が書かれた1914年はコブラのような毒蛇に噛まれると云う死因はあり得なかったのだろう。だからこそホームズの「まだらの紐」のトリックが当時は斬新であったがゆえに今なお語り継がれているのだろう。
    被害者はその毒舌ぶりから決して周囲から好かれているわけではない船長だが、どうやってコブラの毒が彼に回ったのかは判らない。
    正直事件の中身は小粒だが、事件を解き明かす意外な探偵役を立てた功績は大きい。

    次は短編の名手エドワード・D・ホックの「三人レオポルド」。
    流石短編の名手ホックである。上手い!そしてそつがない。
    面白いのは通常ならば偽名を使った犯人を突き止めるというプロットになるのに、本作は逆に犯罪者が自分を逮捕しようとしている警官を突き止めようとする、しかもそれがシリーズキャラクターであるレオポルドであるところだ。しかしホックはミステリに求める水準をいつもクリアする安定した作家であると再認識した。

    私は彼女は長編も書けるが短編もまた書ける作家だと思っていたが、それを証明してくれたのがルース・レンデルの「生まれついての犠牲者」だ。
    いやあ、やはりレンデルは上手い!
    いつもながら我々の周囲にいそうな「ちょっと困る人」をミステリのテーマに取り入れ、そして全てが犯罪に向かうように実に上手く物語を運ぶ。
    本作では村に突如引っ越し来た発展的な都会派の女性ブレンダが実は自分の話とは異なり、それほど情事を重ねて訳でもなく、実は普通の女性だったことが発覚する。しかし妻に悪影響を与える前に最近起きた強盗殺人事件に見せかけて殺してしまおうと企む。
    事件は上手く行くのだが、結末はいつものレンデルらしい皮肉を見せながら予想外の方向へ進む。
    最後の運命の皮肉とも云うべきラストに読者が納得する形で結実するところがすごい。

    やはりこの作家も選出されていた。EQMMの常連作家で短編の名手ヘンリー・スレッサーの「世界一親切な男」は本当に親切な男の話だ。
    妻を過失とはいえ、死なせてしまった男たちに夫が仕組んだことは過剰なまでの恩返しだった。飲む・打つ・買うにそれぞれ執着する者たちに断酒をしようと決意すれば高級なお酒をしこたま送り付けて重度のアル中にし、女好きの男が自分にとって最高の女と結婚したかと思った矢先に、それをはるかに上回る美貌の女性を送り込んで、情事を起こさせ、妻を逆上させ、ギャンブル好きな男には定期的にギャンブル資金を送ってマフィアに借金までさせる。そう、それぞれが最も好む方法で人生を破綻させるのだ。

    あまり知られていない作家だが、クイーンは別のアンソロジー『クイーンズ・コレクション』にも彼の作品を選出している。ハロルド・Q・マスアは当時現役の弁護士でもあった作家で「受難のメス」も裁判を扱ったミステリだ。
    手術の失敗の訴訟から脱税容疑へと僅か30ページ足らずの作品なのに目まぐるしく展開が変わる本作は現役の弁護士の作品ともあって裁判や訴訟内容にリアルを感じさせ、実に読み応えがある。
    本作で起きる殺人事件は半分以上も過ぎてであり、正直その犯人は見え見えのミスディレクションでミステリ読者なら容易に想像がつくだろうが、最後の一行は洒落ている。内容的にも小説としての面白みを感じる作品だ。

    ジョイス・ポーターはシリーズキャラのドーヴァー警部が登場する「臭い名推理」が選出された。
    正直云ってワンアイデア物である。確かにこの着眼点は面白いが、アンソロジーに選ぶほどの物かと云えば、ちょっと疑問だ。

    パット・マガーことパトリシア・マガーはトリッキーな本格ミステリが特徴的だが、「完璧なアリバイ」はオーソドックスな題材のミステリだ。
    上手い!起承転結がはっきりとし、しかも詰将棋の如く無駄なく妻殺しへと物語が収束していき、そしてツイストの利いた皮肉なラストへつながる。これぞミステリのお手本とも云うべき作品だ。

    ビル・プロンジーニの「朝飯前の仕事」はシリーズ探偵“名無しのオプ”が登場する。
    私は“名無しのオプ”シリーズの読者ではないので詳しいことは解らないが、てっきりハードボイルドもしくはサスペンス系の作風と思っていたら、本格ミステリで、しかも機械的トリックを使った非常に原理主義的など真ん中の内容であったことに驚いた。
    しかし本書の読みどころは上流階級と下流階級の溝を扱っているところだろう。上流階級の者たちは下流階級を蔑み、また逆に下流階級は顎で使う上流階級を妬み、そんな2つの階級に横たわる断層を皮肉っている。

    ドナルド・オルスンは初めて読む作家だが、その作品「汝の隣人の夫」は選ばれるだけの出来栄えだ。
    これはウールリッチの有名作「裏窓」と編者クイーン自身の『中途の家』をうまくブレンドさせた佳作である。
    月の半分も出張している夫エドワードとその間家を守る妻セシル。やがて隣に若夫婦が越してきて、しかも隣人の夫は若くてハンサムでいつも庭で筋トレをして逞しい身体を晒している。これが子供もいなくて不在がちな夫を持つ人妻の好奇心をそそらざるを得ない。
    しかしそこで情事に至るのではなく、妻の妄想上の恋が日記に綴られていく。つまり実際に浮気は起きないのだが、いつも隣人夫との情事を想像しているがゆえにセシルは彼を意識して普通に接することができなくなる。
    本作で書かれているのはミステリとしては実にありきたりなシチュエーションや動機なのだが、物語を一人家に籠りがちな妻の視点を中心に描き、彼女が書く妄想常時日記の内容に上手く読者を惹きつけることでサプライズを演出している。つまりそれほど奇抜な動機や登場人物の設定を案出しなくても書き方を工夫するだけで十分読み応えのあるミステリが書けるのだと証明した、良いお手本のような好編だ。

    かつてはミステリランキングの常連作家だったピーター・ラヴゼイの「レドンホール街の怪」は捻りの効いた作品だ。
    1979年に書かれた本作は前年に『マダム・タッソーがお待ちかね』でCWA賞を受賞し、まさに脂ののった時期に書かれた作品であり、たった20ページ強の作品なのにツイストを利かせた作品となっている。
    素性の知らない紳士が間借人となっているが、彼を警察が訪ねて来て彼のことに疑惑が生じる。さらに追い打ちを掛けるように彼の借りている部屋は家具などが一切ないがらんどう状態。
    家主は犯罪者に貸したのではないかと気を揉みながら警察が来たことを話すと、なんと1枚500ポンドから1,000ポンドほどの値がつく希少な切手ブラック・ペニイとブルー・タペンスを昔の間借人が壁紙代わりに一面に貼り付けたという逸話があり、彼はそれを手に入れるために部屋を借りたのだという。そしてそれは確かに存在し、自分はもう十分にお金を手に入れたので残りは全て家主に差し上げると述べる。
    反転に次ぐ反転でしかも最後は詐欺なのか果たして真実なのかと疑問を投げかける抜群の結末を見せる。いやあ、まさに最上のミステリではないか。

    クイーンの日本人推理作家のアンソロジーでは常連の1人である夏樹静子の「足の裏」は本当にありそうなお話である。
    色々と考えさせられる話だ。人口3万5千人ほどの小さな市で起きた銀行強盗を端緒に由緒ある寺で昔から行われていたスキャンダルが暴かれることになる、まさに社会問題を扱ったミステリだ。
    今でも行われているのか知らないが、本作ではお賽銭を寺の住職や僧や事務員たちも含めて山分けする慣習があるらしい。つまり新聞やニュースで報道されるお賽銭の金額は予め見積もられた金額であり、それよりオーバーした金額については関係者で山分けする習慣があるとのこと。タイトルはこの金銭を足の裏と呼ばれていることに由来する。
    本作は昭和時代の作品だが、今にも通ずるテーマであり、令和の世でもあるのだろう。全く人間とは金銭に関しては成長していない動物なのだと思い知らされる。

    さてアンソロジーの最後を飾るのはもはやクイーンにとってもお気に入りの作家となった感のある松本清張氏の「証言」だ。
    愛人を囲うある会社の課長が逢瀬の時にたまたま家の近所の人間と出くわす。昭和のどこか淫靡な雰囲気漂うシチュエーションに、近所の人間が後日殺人事件の容疑者として逮捕され、自分の証言で無実になると究極の選択を迫られる。こんな時、あなたならどうすると読者自身の倫理観を問われるような作品だ。
    今でも愛人報道は後を絶たず、ワイドショーの格好のネタとして大々的に報じられているが、昭和も平成も令和も男と女は変わらないことを思い知らされる。
    そしてそんな窮地に陥っても主人公は逢っていないと自らの保身のために嘘をつきとおす。
    本作の狙いは世の中嘘で凝り固まってできているという皮肉だ。それぞれが嘘で塗り固められた生活を送っていると警鐘を鳴らしているのだ。
    これが冤罪の構図なのだろう。曖昧だった記憶が警察の執拗な事情聴取でやがて頭の中で事実にすり替わっていく。たとえそれが嘘であっても自分が信じたい方向へと脳が働きかけるからだ。
    とにもかくにもついた嘘は自分に返ってくるという戒めの物語だ。


    訪問すれば本格ミステリの巨匠として手厚くもてなされる日本人はクイーンにとっては実に愛すべき読者、ファンだったのだろう。日本人読者向けに『世界傑作推理12選&ONE』の続編として編まれたのが本書だ。
    しかも収録作品はクイーンのアンソロジーに含まれた作品は―私の知る限りでは―ゼロであり、また前のアンソロジーとは異なって日本人作家の作品がたった12の席のうち2席をも占めるまでになったのは日本人読者に対するサーヴィス精神の表れだろう。

    その中身は今回もまたヴァラエティに富んでいる。

    殺人事件の犯人捜し、自分を逮捕する潜入捜査官探し、復讐譚に脱税、浮気相手との結婚を考えた妻殺し、窃盗、主婦の妄想恋愛、詐欺、そして冤罪。様々なヴァリエーションを駆使して質のいいミステリを提供している。

    クイーンが日本人ミステリ読者のために向けて編んだアンソロジーだけあって実に粒揃いであるが、その中でベストを挙げるとすればルース・レンデルの「生まれついての犠牲者」とピーター・ラヴゼイの「レドンホール街の怪」、夏樹静子氏の「足の裏」になるか。

    「生まれついての犠牲者」は名作『ロウフィールド家の惨劇』を彷彿とさせる、その事件の犯人が最初の一行目で解る導入部に始まり、登場人物全ての設定が最後の皮肉な結末へ結実する。
    実に計算された作品だが、その人物設定が我々の周囲にいる誰かを彷彿とさせるため、じつにリアルに感じられるのだ。つまり情理のバランスが実に上手くとれている作品なのだ。

    「レドンホール街の怪」が上手いのは最後のオチで真相の2パターンが想定されることだ。
    しかもこの作品、たった24ページなのだ。う~ん、実に濃い内容だ。

    「足の裏」は寺の住職たちの賽銭横領と云う社会問題を扱ったミステリ。とにかくこのスキャンダラスな真相が発覚するまでのプロセス、そしてそれを補強する物語の舞台設定が実に緻密なのである。
    日本のどこかにありそうな全国で知られる有名な寺を観光資源として抱える小さな市という舞台設定とそこで起きた銀行強盗の事件という発端が最後の真相に寄与するきめの細かい物語運びに感嘆した。そして明かされる最後の真相については今でも行われているのではないかと考えさせられるものであった。

    次点でドナルド・オルスンの「汝の隣人の夫」とを挙げる。前者の最後のオチはこの手の出張しがちな夫に対して最初に抱きやすい疑惑なのだが、それを妻の妄想を中心に描いたことで見事にミスディレクションに成功しているからだ。また本作はある意味、編者の『中途の家』の変奏曲な構成であるのも興味深い。

    特に面白く感じたのはまだこの頃は機械的なトリックを扱った本格ミステリが書かれていたことだ。
    また意外性を放つどんでん返しの作品、特に運命の皮肉めいた作品が多くあり、そしてそれらのアイデアは秀逸である。

    クイーンは数多のアンソロジーを編んでいるが本書のようにEQMMに掲載した、自身が掲載検討した作品に基づくものが多々あったように思える。
    しかし精選されたとはいえ、EQMMは月刊誌であり、現在も刊行が続いている雑誌である。従ってかなりの量の選から漏れた短編が蓄積されているはずだ。

    隔月刊行されている早川書房のミステリマガジンでさえ、EQMMに掲載された短編は網羅されていないだろう。つまりかなりの数の埋もれた短編がEQMMにはあるはずなのだ。

    エラリー・クイーン亡き後、それらが日の目を見ないのは悲しすぎる。やはりクイーンの衣鉢を継ぐアンソロジストの登場を望みたい。

    本書収録作品は1976年から1980年と古典と呼ぶにはまだ早い時期の作品群が連ねているが、この頃はまだアイデアがそれぞれの作家で潤沢にあったのだろう。ほとんどの作家が鬼籍に入ったアンソロジーは、かつての名声を馳せた作家たちの最盛期の実力を知るにもってこいだった。

    そして現代もまだこの流れは続いていると思いたい。短編集は売り上げが落ちると云われているが、これに懲りず、ミステリ好きな読者たちを唸らせる短編のアンソロジーを刊行する習慣は続けてほしいものだ。

    しかしクイーンのアンソロジーに日本人作家の作品が2作も選ばれたことを考えると、日本のミステリも一旦は世界に認められ、世界に近づいたのだ。
    しかし現代の日本人作家のミステリが劣るかと思えば、必ずしもそうではない。クイーンのような世界に発信する人物が欠如しているだけなのだ。

    世界のどこかで本書のようなアンソロジーが編まれるとき、そこに日本人作家の作品が収録され、やがて日本人作家の作品ばかりで編まれたアンソロジーが世界で広まることを夢見て、本書の感想を終えよう。

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    No.1:
    (4pt)

    新世界傑作推理12選"Ellery Queen's Criminal Dozen" 1982

    序文=親愛なる日本の読者のみなさまへ エラリー・クイーン
    01.エクセルシオーの惨劇 "Death at the Excelsior" P・G・ウッドハウス Pelham Grenville Wodehouse (1881-1975)
    02.三人レオポルド "Captain Leopold Incognito" エドワード・D・ホック Edward D. Hoch (1930-2008)
    03.生まれついての犠牲者 "Born Victim" ルース・レンデル Ruth Rendell (1930-2015)
    04.世界一親切な男 "The Kindest Man in the World" ヘンリイ・スレッサー Henry Slesar (1927-2002)
    05.受難のメス "Trial and Terror" ハロルド・Q・マスア Harold Q. Masur (1909-2005)
    06.臭い名推理 "Dover and the Smallest Room" ジョイス・ポーター Joyce Porter (1924-1990)
    07.完璧なアリバイ "In the Clear" パトリシア・マガー Patricia McGerr (1917-1985)
    08.朝飯前の仕事 "A Nice Easy Job" ビル・プロンジーニ Bill Pronzini (1943-)
    09.汝の隣人の夫 "Web of Circumstance" ドナルド・オルスン Donald Olson (1938-)
    10.レドンホール街の怪 "Behind the Locked Door" ピーター・ラヴゼイ Peter Lovesey (1936-)
    11.足の裏 "The Sole of the Foot" 夏樹静子 (1938-2016)
    12.証言 "The Secret Alibi" 松本清張 (1909-1992)
    新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)より
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