雪煙チェイス
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初版刊行(参考)
種別
長編
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評判
雪煙チェイスの評価:
6.17/10点 レビュー 6件。 B ランク
雪煙チェイスの総合評価:
5.78/10点 レビュー 79件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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実業之日本社文庫から文庫書下ろし刊行されているスキー場を舞台にしたこのシリーズも早や3作目。新たなシリーズとして定着しつつある。ちなみにこのシリーズは『スキー場シリーズ』と呼ばれていることを最近になって知った。
今回も登場するのは前作、前々作に引き続いて根津昇平と瀬利千晶の二人。そして瀬利は既にプロスノーボーダーを引退していることが判明する。
このシリーズでは今まで『白銀ジャック』、『疾風ロンド』で見られたように読者にページを速く捲らせる疾走感を重視したストーリー展開が特徴的だが、本書も同様に冤罪の身である大学生の脇坂竜実と彼の協力者で友人の波川省吾の2人が警察の追手から逃れて自分の無実を証明する「女神」を一刻も早く捕まえなければならないというタイムリミットサスペンスで、くいくいと物語は進む。
ウェブでの感想を読むと謎また謎で読者を推理の迷宮に誘い込むのではなく、非常に解りやすい設定を敢えて前面に押し出してその騒動に巻き込まれる人々の有様を描いているこのシリーズに対する評価は賛否両論で、特にストーリーに深みがないと述べている意見も多々見られるが、それは敢えて東野氏がこのシリーズをスキーまたはスノーボードの疾走感をミステリという形で体感できるようにページターナーに徹しているからに他ならない。それを念頭に置いて読むと実に考えられたミステリであることが判る。
単純な設定をいかに退屈せずに読ませるか、これが最も難しく、しかもこのシリーズでは最後の1行まで演出が施されていて飽きさせない。
もっと読者は作者がどれだけ面白く読み進めるように周到に配慮しているか、その構成の妙に気付くべきである。東野氏は数日経ったら忘れてしまうけれど、読み終わった途端に爽快感が残るような作風を心掛けていることだと理解すべきである。
特に本書では一介の大学生脇坂が同じ大学で法学部の友人波川と共に自分の無実を証明する証人を捜すために里沢スキー場に向かうわけだが、この波川を配置したことで警察が行う捜査の常套手段を先読みして次から次へとその裏を潜るように行動を指示しているところが小気味良い。
また警察もさるもので大学生が思いつく抜け道をすぐに察知して次の手を打つ。
この逃走者と警察の騙し合いがまた愉しい。
特に有力容疑者として目された脇坂が友人と共にスノーボードを持って逃走しているという不可解な事実に対して警察やその手伝いをする女将さんがいろいろな理由を考えつくのもまた面白い。その人その人の価値観で警察は捜査を攪乱するためのフェイクだと推察し、スキー場を愛する女将さんは逮捕される前の最後の晩餐、最後に極上のパウダースノーを存分に愉しんでから自首しようと思ったりと人間の考え方のヴァラエティの豊かさが垣間見える。
またただ軽いというわけではない。東野氏がスキー場を舞台にしたミステリを文庫書下ろしという形で安価に提供する目的として自らもスノーボードを嗜む氏が経営困難に瀕している全国のスキー場に少しでも客足が向くように読者に興味と関心を与えていることだ。
従って、ただの爽快面白エンタテインメントに徹しながらも物語の所々にスキー場で働く人たちの心情や厳しい現状が綴られている。
例えば主人公の1人瀬利千晶にしても、プロボーダーを引退した後の去就は両親が経営する保育園を継ぐことを決意し、今回のゲレンデ・ウェディングを自分のスノーボード人生の最後の花道とし、今後は一切にウィンタースポーツには関わらないと決めていること。
また根津は建築士として父親が経営する建築事務所で働いており、いつかアミューズメントパークのようなスキー場を作ることを夢見ているが、現実の厳しさに直面し、ほとんど手付かずの状態である。
また今回容疑者の脇坂竜実を追う所轄の刑事小杉をサポートする居酒屋の女将川端由季子も旅館も経営しているが先に逝かれた夫の後を継いで女手一つで両方を経営し、スキー場に少しでもお客の足が向くように笑顔でサービスに努めている。だからそんな大切な場所に刑事が大勢詰めかける前に事件を解決したいと願って小杉に協力するのだ。
またスキー場のパトロール隊員は滑降禁止エリアの立入を厳重に監視しているのも怪我なく楽しんでお客さんに帰ってほしいがためだ。彼らは注意するときは決して高圧的でなくむしろ懇願しているかのようだとも書かれている。スキー場を愛するが故の行為であるからだ。
さて冤罪を逃れるために脇坂たちが探す幻の女―書中では「女神」と称されている―。なかなかその正体は判明しない。
また今回は冤罪に問われた脇坂と警察との鬼ごっこが前面になっているため、福丸老人を殺害した真犯人の捜査がなかなか進まないのも特徴的。
しかし何とも甘い結末である。やはりゲレンデは恋の生まれる場所ということか。
リゾートの恋は長続きしないから気を付けないと、などとついつい余計なことを思ってしまった。
このシリーズが終焉を迎えるかは解らないが、シリーズの舞台はあくまでスキー場。東野氏がウィンタースポーツを愛する限り続いていくような気がする。
さて次はどんな事件がゲレンデで起こるのか。不謹慎ながらも次作を期待して待とうとしよう。
▼以下、ネタバレ感想