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解読! アルキメデス写本
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解読! アルキメデス写本の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.67pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全15件 1~15 1/1ページ
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科学史が大好きでしたが、学生時代に古典をじっくり読んでいては確実に落ちこぼれてしまいます。退職して、やっと時間ができたときに、この解読!写本に出会えて感激です。すぐに本の参考図書に紹介されている最良のアルキメデスの全古典解説本(英訳)を購入しました。オークションで落札したのはスティーブ・ジョブスさんなのかな?とかってに想像していますが、誰であれ、すばらしい人物です。 | ||||
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ある人物がアルキメデスの写本をオークションで高額で落札し、解読を学芸員に託すとこから始まります。 ミステリー、推理小説のような話です。 古代文字解読のドキュメント、チャドウィックの「線文字Bの解読」に似た興奮があります。 古代であるが故にミステリアスです。 ダン・ブラウンの小説「ダ・ヴィンチ・コード」のようでもあり、ポランスキーの映画「ナインス・ゲート」のようでもあります。 マルクスの新しい全集(新MEGA:Marx-Engels Gesamtausgabe)の編纂を思い出させます。 新たな発見はあるのでしょうか? | ||||
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紀元前200年頃の数学者アルキメデスの写本を解読する物語です。 イギリスの哲学者ホワイトヘッドが、 「西洋の哲学の歴史は全てプラトンに対する脚注である。」と言ったように、 「西洋の科学の歴史は全てアルキメデスの脚注である。」と言える 人類史上最も偉大な科学者であると語られています。 2200年の時を越えてかすかに浮かび上がる言葉から、 アルキメデスの思考そのものを取り出す作業は、 まさにサスペンス小説を読むような気分です。 人間の「思考」そのものに触れる感覚が これほどドキドキするものとは思いませんでした。 理科の時間で習う「アルキメデスの原理」を発見した人だとは知っていましたが、 2000年以上前に、すでに私の不得手な微積分学や順列・組み合わせにも 到達していたと知りさらに驚愕です。 | ||||
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アルキメデスの著作の伝本は、古代ローマ帝国の滅亡後、教会に羊皮紙の写本として残された物が3冊しかなく、そのうちの2冊は途中で失われ、最後の1冊が数奇な運命で、アメリカの博物館の学芸員をしている今回のプロジェクト・チームの発起人に渡り、上書きされて読み取れない内容をいかに復元するかという苦闘が始まった、それが本書のストーリーです。推理小説のような数奇なめぐり会いと、アルキメデスと写本に関わったさまざまな人々が織りなす歴史、そして、上書きされて読めなくなったアルキメデスの本文を最新の科学技術を駆使して読み解く謎觧き、地味で目立たない古典文献学が現代科学と結合して、こんなに豊かな世界を見せてくれるのかという楽しさと驚きを味わわせてくれる一冊です。 日本にもこうした失われた写本や古文書がたくさんありますが、こんな形にして読者に提供すれば、現代的な意味が十分に見直されるという学術行為のマーケティングの成功例でもあります。日本の古典や近代の文学や語学の研究者、歴史研究者にお勧めしたい1冊です。 | ||||
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原著の表題は、“The Archimedes Codex: Revealing the Secrets of the World’s Greatest Palimpsest”。 本書は、アルキメデスの「『浮体について』のギリシャ語原語版や、革新的な『方法』と 遊び心のある『ストマキオン』という驚くべきふたつの論考の唯一の版を収め」た唯一の マニュスクリプトである「C写本とそこに記されていた内容をめぐる驚くべき真実の物語で ある。この写本がいかにして何世紀もの歳月を生き延び、発見され、再び姿を消し、そして ようやく擁護者たる人物にめぐり合ったのかを明らかにする。また、根気のいる保存修復 作業や最先端の技術、ひたむきな研究によって、消されていた文書をよみがえらせるまでの 顛末も追う」。 「何事にも時があり、天の下の出来事にはすべて定められた時がある」(『コヘレトの言葉』 第3章第1節)。 このテキストが辿った数奇な「時」、風化させた「時」に抗い、その「時」を巻き戻すように、 閉ざされたことばを掘り起こす技術の成熟に要した「時」、稀代の頭脳が解き明かす 2300年の「時」を隔てたアルキメデスの魔術的なまでの知性の数々。 失われた時。見出された時。 複雑怪奇に入り組んだこのテキストをめぐる諸要素が、「定められた時」の巡り合わせに 従って、一筋の糸へと解かれていくがごとく、あでやかに花開き実を結んでいく興奮が 凝縮された驚異のテキスト。 本書の主たるテーマであろうテキスト解釈、すなわち『方法』において「アルキメデスが 何も知らずに近代の微積分学を先取りしていたわけではなく、既に最初の一歩を踏みだして いたこと」や、『ストマキオン』において「アルキメデスははじめて組み合わせ論の研究を おこなった」といった推理の切れ味だけでも既に星5つ級の爽快感。 その議論の下支えとなる技術者たちの研鑽や丁々発止のやり取りだけでも、並大抵の フィクションでは太刀打ちできぬスリルとカタルシスに満ち溢れている。 それら解読のためのスキルのことごとくが元をたどればアルキメデスの知見に負う、と いうのも物語としてもはや出来過ぎなほど。世界へと繋がれてしまうこの感覚表現だけでも 本書の価値は神憑り的。 一冊のテキストの軌跡が明らめる社会史のテキストとしても非凡。 人間の営為としてのscienceを志向する者ならば必ずやときめかずにはいられない、 自然科学史の持つ面白みがこれでもか、と詰め込まれた途轍もない名著。 | ||||
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名前は公表されていませんが、ある人物がアルキメデスの写本をオークションで高額で落札し、それの解読を学芸員に託すことから物語は始まります。三大数学者の一人と呼ばれる人物ですが、他の大数学者であるニュートンやガウスより年代的に相当隔たりがあるため(約2000年の隔たり)、その業績についてはあまり知られていないと感じます。アルキメデスとはどのような事を行ったのか?アルキメデスの写本は長い歴史の中でどう翻弄されたのか?目視では読めない程ボロボロの状態の写本を解読する方法はあるのか?等、読者の感心を惹き立て、納得のいく説明を試みています。ハイテクの大企業でも使えないような最新機器(粒子加速器)と専門家の高い学識を武器に写本の解読作業に没頭する学芸員達の姿は、彼等のアルキメデスに対する関心の高さと情熱を表しています。 また、アルキメデスの幾つかの業績の内、扇形状の図形の面積を求める方法が紹介されていますが、それは幾何学と自ら発見した梃子の原理を用いており、正に天才の証であり読者の度肝を抜くものです。この解法を知るだけでも価値があると思います。 | ||||
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パリンプセスト palin(再) psan(こする) というギリシア語から派生したこの言葉は、まさに文字通り「リサイクル」本であった。 かつてはアルキメデスの理論を解説してあった本の羊皮紙から記してあったものを削り取り、そこにキリスト教の祈祷文が書かれ、「再利用本」として保管してあったのである。 しかしそれを21世紀の英知が見逃す筈もなく、あらゆるハイテクが用いられ、アルキメデスの思考が改めて読み解かれていく。まさにスリルとサスペンス、飽きさせない記述が凄い。 特に素晴らしいと思われるのが、共著者のコンビネーションである。ウィリアム・ノエルは古文書を専門に扱う学芸員、彼は当初「アルキメデスとピタゴラスの区別もつかない」(ネッツの記述による)人物だったが、古文書修復のために各地を飛び歩いて最新の技術を求め、それをいかにも学芸員らしい好奇心に溢れた、しかも客観的なタッチで描写していく。 対するリヴィエル・ネッツは数学史とギリシア語を専門としており、彼にとってアルキメデスはまさに全能のヒーローだ。少年のような憧れと純粋な情熱と驚きをもって、少しずつ稀代の天才の業績に迫っていく様は、思わず顔がほころんでしまうほどに純粋で美しい。 この二人によって、アルキメデスという人物が、20世紀までに考えられていたよりも遥かに奥深い理論を極めていたことが(しかもそれをゲームのように遊び心で探求していたことが)証明されたのだった。 また巻末にはこのプロジェクトに関わった斉藤憲氏のあとがきが掲載されている。 とてもわかりやすい筆致で概略をしめしてあり、改めてこのホンの凄さを認識できた。 たまにはこういう本もいいものです。 | ||||
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アルキメデスは、「歴史上<<最も偉大な>>数学者3人だけをあげよ」と質問されたら、その答えのリストに必ず含められる数学者だと言われる。(E・Tベル著 「数学をつくった人びと」) 微積分学、幾何学、組み合わせ論の分野におけるアルキメデスの貢献について知ることができる。 他のレビューで書かれているように、興味深い点がいろいろ盛り沢山の本だ。 それらに加えて、ギリシャ数学における独特の図の使い方が書かれていたことが興味深かった。 ギリシャ数学では、具体的な図形ではなく、むしろ概念図を用いることによって精密な推論を行った。 たとえば、多角形の辺を直線ではなく曲線で描く幾何学など、これまで一度も教えられたことがなく、考えついたこともない。 “斬新な”幾何学に出会ってドキドキした。 もう一つは、ストマキオンについて。 ストマキオンとは、14片のピースを正方形に並べるゲームで1万7152通りの正解がある。 アルキメデスが取り組んだストマキオンは、最近のパズルゲームより高度で、自力で一つでも発見するのはひどく大変そうだ。 (p359にビル・カトラーのプログラムによる、ストマキオンの72例の正解が9行8列の表に並べて印刷されています。 上から3行目、左から2列目に置かれた“正解”には15片のピースがあることを発見しました。ミスプリントでしょうね。^^ ) | ||||
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くそボロッちくて(たぶん)臭い、小さなしわしわの「もうどうしようもない」カビまみれの本をめぐるいくつもの物語。 莫大な金をポンと出して本を買い取る人の話、本を書いた本人の話、それを解読する人たちの話、この本をここまで無茶苦茶にしてしまった人たちの話、本が発見されるまでの話、幸運に恵まれずに失われてしまった無数の本の話 目の前に幸運がころころ転がってきて、そのまま通り過ぎようとしているとき、人間にはためらっているひまなどないのです。 | ||||
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700年以上前に作られた「アルキメデスC写本」の解読を託された学芸員と、古代数学史家が解読の過程を明かしたドキュメンタリーです。 アルキメデスが原本を書いたのは紀元前3世紀。大切に書写され後世に伝えられましたが、1204年の十字軍によるコンスタンティノープルの破壊により、多くの古典とともにアルキメデス写本も散逸してしまいました。 AとBの写本はイタリアに流れ着いてギリシャ語からラテン語に翻訳されましたが、一部内容の異なるC写本はルネッサンス期にも読まれた形跡がありません。 というのも、C写本はバラバラに解体され、再利用されてしまったからです。羊皮紙の表面を再加工したあと半分に切断し、キリスト教の祈祷文が上書きされていきます。 祈祷書となった写本は、エルサレム近くの修道院で19世紀まで使われ、20世紀のはじめにコンスタンチノープルで“発見”されます。 文献学者が薄くなった文字を解読して学術誌で発表したあと、第一次世界大戦の混乱のさなかにC写本は再び姿を消しました。 ニューヨークのオークションで再び世の中に姿を現わすまでの写本の流離譚は、破壊の魔の手から逃れるサスペンスドラマのようにスリルに満ちています。 古代数学史家が明かしてくれる解読の過程や、アルキメデスについての新たな発見の意味も、興味深いものでした。 久しぶりに「この先、どうなるんだろう」とドキドキしながら本を読みました。 ページをめくるのがもどかしく感じられる、という点では歴史ミステリー『ダ・ヴィンチ・コード』にも負けていません。 これほどワクワクさせてくれるのは、やはり歴史上の人物が書いたという事実の重みのおかげでしょう。 古代史や数学に関心のない人でも、人の考えが伝わる不思議さ、書物の運命の不思議さに思いを馳せるに違いありません。 本好きにはたまらない一冊です。 | ||||
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勉強の大事さや面白さを知るという意味でも、人間の営為の連続への畏怖に打たれるって意味でも、 何年かぶりの大感動でございます。 オークションで落札された羊皮紙の祈祷書。それはアルキメデスの写本を再生利用したもので、祈祷文 の下には、現存する唯一のアルキメデスの論文が眠っていた。って、再現されたアルキメデスの記述も、 紀元前3世紀のシラクサでご当人が書いたものでは当然なく、中世までに延々写筆されたものが、羊皮 紙を再利用した結果、たまたま現存したもの。 復元・解読・保存プロジェクトの指揮をとった学芸員氏(ウィリアム・ノエル)のノンフィクション的記述と、 数学史研究者氏(リヴィエル・ネッツ)の文献学的事情や解読された数学的内容の解説。これが交互 に配される構成。 このアルキメデスC写本の解読による発見の内容や、それが数学史にもたらすインパクトについては、おそ らく私は、5%も理解してはいないだろうということに自信あり。 しかしながら、平行線をズラしていって線分の比率を“釣り合わせる”ことから、放物線の切片の面積を 求めていく件りには読んでいて声を出してしまいましたよ。「おおおおお!!!」とかって。 いろんな専門家が知恵を出し合って、ひとつのプロジェクトを進めていく様は圧巻。 学校の科目でいえば、数学とか語学とか理科(文献保存・再現の手法あれこれ/画像解析技術あれ これ)とか社会(歴史的経緯の追跡過程もろもろ)とかに別けられる内容が、密接に関係し合っている 様は、ちょっと感動的。大人になってみて、学校で勉強したことがこんな“おもしろい”ことだったって知って 「なぜ教えてくれなかったかね?」とか恨んでみたり。 また、目的と手段が相互に互換的に支援しあっている様も印象深い。内容を解読することによって得ら れた知見から“文献史学”に貢献するための手段(解読)に“数学”が利用され、同時に“数学”に貢献 するための手段として“文献史学”的な方法が利用される。 考えてみれば、こうしたいろんな方法と学術がコラボレートして結果を出すのは、多くの分野に当てはまる ことだし、それ以上に、現在の私たちにとって、いろんな方法や学術が利用可能であるということは、アル キメデスだけでなく、いろんな人々の営為が、学術・技術・方法として無記名のまま、破壊から逃れて現 在に伝わっているからであり、そこには知りようもない多くの人の何千年にも及ぶ、当人の意図を超えた 連続があるからであったりも。 そう思えば、もう、何というのか、人間の営みすべてに惜しみない賛辞を、っとか思って感動は醒めませぬ。 本書を読んだり、アルキメデスの証明の末端をわずかに理解したりして、自分もその営みの末席の末席 に少し参加できた気分。 | ||||
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『誰も読まなかったコペルニクス』のレビューで書誌学の本はあまり面白くないなんて言いながら、「数学史を覆す世紀の大発見」に引かれて(まあ、騙されて。って、世紀の大発見とは何ぞやの問題だから、騙したというのはいかんか)買ってしまった。 アルキメデスの著書の写本の羊皮紙がリサイクルされた古写本(インクを削って祈祷書にした)が、オークションに掛けられてから解読に至る物語。こう言う重複使用された古写本を「パリンプセスト」と言うそうな。落札した大金持ち(Mr.B だそうな。B は Bill ではないとか。そうすると、Steven Ballmer かしら。)から世話役に指名されたウィリアム・ノエルと数学的内容の解釈をしたリヴィエル・ネッツが、書誌学的な古写本の解読の話と、解読された数学の意味を交代に書く形式である。 いずれも、なかなか面白そうなのだが、個人的には、解読に出てくる手法が私にとっては原理が既知のものばかりで、イマイチ面白くなかった。「一番いいのはXRFで元素マッピングだよなあ」と思っていたら、最後に出て来て快刀乱麻で読めるようになったと言う落ち。もちろん、それを使うのが簡単ではないとは思うけれども、「なあんだ」という印象は否めなかった。 一つ面白かったのは、個人所有で所有者が解読の費用を持ったことが、解読を効率よく進めた事実。これが、公的な研究費を使っていたのでは、研究費の請求、審査、交付、に時間がかかるし、足りなくなった時にはどうしようもない。もちろん、所有者が悪ければ正反対の結果になるわけで、一般論として個人所有が良いわけではない。この辺は「王制」と「民主制」の関係にも似て、制度を考える切り口になる。 数学の方については、実無限が認識されていたというのは、あまり説得されなかった。もう一つの新発見「組み合わせ問題」の方も含めて、面白いことは面白いのだが、西欧の数学の体系がここから転がり出したとは思えない。ここまでなら、アラビアでも出来ていただろうし、わが国が生み出した和算もある。これが、数学の体系になっていくところこそが、現代につながる西欧文明の本質なのだろうから、アルキメデスがこれを考えていたことが「世紀の大発見」は、ちょっと言い過ぎなのではないだろうか。 | ||||
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紀元前三世紀、シチリア島。第二次ポエニ戦争に向けた緊張が高まる中、シラクサに住む一人の天才が、友人に向けた手紙に一通の論文をしたためた。手紙の筆者は当代髄一の数学者アルキメデス。受取人は、あらゆる分野に博識を持ち、当時に最も影響力のあった知識人、“アレクサンドリア大図書館館長”エラトステネス。 「アルキメデスよりエラトステネスへ。ごきげんよう! 学に励み、自然科学の優れた教師であり、ご自身が出会ったあらゆる数学的研究に大変な関心を持っているあなたですから、ある特別な方法についてここに記、お伝えするのにふさわしいと考えましたここで説明する方法によって、当世だけでなく後世の人々のなかにも、まだわたしたちが共有するに至らない新たな定理を発見できる人が現れると考えています」 当時の文明的水準では、アルキメデスの研究内容を真に理解し、さらに発展させるだけの数学的素養を持つ人間は限りなくゼロに近かった。だからこそ、彼は世界の知識が集う場所の、もっとも信頼できる友人に自分の思考を遺し、委ねたのだった。 本書は、この一通のパピルスの巻物に書かれた論文が、戦乱の略奪や劫火から辛うじて逃れ、写本へと姿を変え、文字を消されて祈祷書へと再利用されながらも、二十世紀に再び発見され、激しい損傷を受けながらも、消滅の寸前にようやく真の理解者を得るまでの戦いの物語である。 古代西洋文明の政治・文化情勢を解くための様々な鍵を収めた書物が、様々な災厄に襲われながらも、幾重もの幸運に恵まれた末、デジタル化されて姿を留めることを許された。同じ棚に収められたであろう同胞たる書物がごっそりを姿を消していく中、約二千二百年もの時を経て声を伝えることを許された。 アルキメデスの論文だけではない。この祈祷書には、アルキメデスの論文以外にも、さまざまな文献から切り離された羊皮紙が再利用されている。アリストテレスの古代から伝わる注釈、ヒュペレイデス(古代の十大弁論家)の失われた演説、十世紀後半の賛美歌集、ある聖人の生涯、未だ出典が未知の少なくともふたつの写本 発見された時点で既に欠落してしまったページも多いとはいえ、とりあえずは、この偉大なる発見の物語にささやかな祝杯をあげたい。 本書のもう一つの見所は、この写本の解読プロジェクトで、これだけでも一冊の本になりえるだけの面白さがある。スポンサーにして写本の落札者『ミスター・B』は、この写本の展示と研究を申し出てきたウォルターズ美術館学芸員、ウィリアム・ノエルを解読プロジェクトのリーダーに選び、最大の信頼をもってこの写本を託した。 自称「本が好きなだけの陽気な男」は、アルキメデス写本の解読に必要な技術は殆ど持っていなかったが、“アルキメデスの友”として情熱的に本プロジェクトの調整・伝達・手配に携わり、彼のもとには、この写本を研究するために最も相応しい傑物たちが、あたかも惹き付けられるように集ってゆくことになる。 写本の解読に従事した古代ギリシア数学史家、リヴィエル・ネッツによる解説も、アルキメデス数学を一般向け初等幾何学レベルに抑えて分かりやすくまとめられており、この写本の内容と意義を伝えるのに相応しい。 X線元素分析法が解読の決め手になったという展開は必然であると言えるが、読み取られた文字や文章は、それを理解できる人間の目に触れて、はじめて意味を持つ。この写本が彼に出会えて幸福であったことは、『ストマキオン』序文からの再発見のくだりを読めば理解できるだろう。 この写本が発見されなかった間に、大いなる回り道を経て現代数学が誕生したのは周知の通りである。しかし、アルキメデスがその源流の一端を担っていたことは明らかであり、今回の発見からも、その偉大さには瑕疵が生じるどころか、ますます輝きを増している。 | ||||
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西洋書誌学に関心のある人は絶対にのめりこみます。 アルキメデスの著作の、現存唯一のギリシア語原典写本であるはずのものが、中世において文章が削られ、その上にキリスト教の祈祷が書写されてしまい(「パリンプセスト」)、さらに20世紀になってから偽の絵をはられてしまいました。 そのアルキメデス写本がアメリカの競売にあらわれ話題となり、その隠された本文を解読していこうという、古典文献学者、古代数学史家、画像工学者、果てはCIA関係者など多くの協力者たちの奮闘が、この本に記されています。 | ||||
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この本を読み進めると,何か偉大な知恵を授かった気になる.また同時に,遠大な計画に自ら参加している気分になる.そのため物語が大詰めを迎えると実に仕合せな気分に包まれる.こんな物凄い読後感は,はじめての経験である.素晴らしい本として強く推薦したい.以下は私的なノート.アメリカの博物館の curator という名の職は学芸員より遙かに高い.展示の部門の長を意味する.Will Noel 氏は手写本稀購本部長と考える方がよい.一方 Stanford の放射光の地獄にまで行き,義務を果した Abigail Quandt 女史は,図書原稿保守技術長である.研究や行政が仕事の curator とテクニシャンとは欧米に広く見られるように互いに別の指揮系統の下にある.それから,解説 (大阪府立大の斉藤憲氏による) は,本文の精神とは異質の意見の押し付けがあるので,読まないほうがよい.本文でハイベアと書かれている学者の名は Johan Ludvig Heiberg である. | ||||
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