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ネヌウェンラーの密室



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ネヌウェンラーの密室の評価: 4.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.50pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

インディ・ジョーンズみたいだった

古代エジプトの遺跡の中で起こる連続殺人事件。
そう聞くと誰もが殺人事件の謎解きを連想するだろう。私もそうだったが、さにあらず、これは“ミステリ”というよりも“ミステリー”の方が正解と云える作品。
つまり本作で主眼となっているのは遺跡に仕掛けられた殺人装置の謎解きなのだ。

本作では情報文化大学の遺跡発掘チームの面々に、同行する漫画家梓美紀ら一行、道中で大学チームの元同級生に出逢い、同行する事になった雑誌記者の新郷の合わせて11名が主たる登場人物なのだが、このうち8名もの死者が出る陰惨な物語となっている。しかし彼ら・彼女らはあくまで誰かの手によって殺されるのではなく、ネクエンラー王が王墓内に仕掛けた数々の殺人装置によって殺され、生き残りと閉じ込められた王墓からの脱出を図る、インディ・ジョーンズ風な冒険謎解き物になっているのだ。
こういう趣向であれば、本作の題名は明らかに不適切であろう。“密室”を冠していながら、実は王墓に残されたパピルスの暗号解読が主眼であるから、ここは『ネヌウェンラー王の墓の謎』という風にすべきではないだろうか?
確かに結論から云えば、王墓という大きな密室から脱出する謎なので密室の謎解きと云えるのだが、どうも歯切れが悪く、読後の今としてはどうも期待外れのような感が否めない。
加えて云えば、作中どうしても気になった梓美紀の不可解な行動。これに関する言及がなく、本当に霊感の強い人で終わってしまっているのも消化不良な感じだ。

しかし、本作の主眼となっているエジプト王に関する薀蓄、そこから派生している謎はなかなかに興味深い。
恐らく作者の創作だと思われるが、連綿と続いていたファラオの歴史に第十七王朝と第十八王朝に王不在の<大空位時代の謎>と、それの解釈については一種の叙述トリックであり、なかなか面白いものがあった。以前読んだ『バビロン空中庭園の殺人』にも同様の趣向があったが、完成度で云えばこちらの方が上である。

また、マイナーな作家のためか、あまり広く知られていないが、小森氏の諸作も伊坂幸太郎氏や初期の島田作品に特徴としてあった、各々独立した作品が実は地続きで繋がっている、登場人物らが一つの作中世界を共有しているという趣向が凝らされている。
本作ではまず『バビロン~』に登場した葦沢教授、『ローウェル城の密室』で名のみ登場した漫画家の梓美紀が登場してくる。しかも後者は本作で語り手を務める新郷の元恋人という意外な事実が明かされる。
で、本作では梓美紀が死に、葦沢教授は存命であるから、時系列的には『バビロン~』よりも前の事件ということになるだろう。

作者の古代エジプトに関する知識が十分に横溢し、ヒエログリフでしか成しえない謎の設定とこの作者ならではの意欲的な特徴が込められた本書だが、作品の方向性に違和感を覚えてしまった事が残念だ。
特にこの作者の自分の身の回りの事しか題材にしない作風だったという今まで私が抱いていた不満を解消するように、エジプトのルクソールでの風景や街の喧騒、日本人から観たエジプト人の奇妙な行動などなど活き活きとした描写があった。自ら取材のために旅行したと思われ、その成果が十分に発揮されて物語の皮の部分にも興味深い内容が盛り込まれているだけにその思いはひとしおなのだが。
次作に期待しよう。

Tetchy
WHOKS60S

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