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不機嫌な青春
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思春期なんてその最中にあるとイライラしっぱなしで、何でも無い事ですぐに「死にたい」なんて思っちゃったり色々と不安定で自意識バリバリの面倒臭い事この上ない時期ではあるんだけど、長い人生においてはほんの短い季節に過ぎない。 そんな短いくせに歳を重ねまくって中年期にどっぷりと片足どころか両足まとめて突っ込んでしまった年齢になると妙に懐かしく、同時に愛おしくなる様な日々を敢えて中年期の視点から眺める……そんなちょっとばかり変わった趣向で楽しませてくれるのが今回刊行された壁井ユカコの新作短編集。 新作といっても発表時期は2011~2012年頃に各誌で発表された作品が三作に書き下ろしが一作という構成。最近は「2.43」シリーズなどスポーツマンたちが主役の作品を続けざまに発表してきた作者だけども、今回はそんな爽やか一辺倒(失礼!)から距離を取ってまさに思春期の苛立ちをテーマに、SF色強めな味付けで仕立て上げた作品がメインとなっている。 思春期がテーマという事でちょっと身構えるファンも多いかもしれない。帯にもある様に作者もデビュー20周年という事で当時は思春期真っただ中だった読者も30代、40代となり「思春期ものは青臭さが強すぎてちょっと……」と思うその心理はイヤになるほどよく分かる。 が、そこは流石にベテランの域に達した作家だけあってひと工夫が施されている。確かに主役は思春期の少年少女なのだけど、読者の視点を着地させるキャラとして中年期以上の人物を用意しているのが心憎い。 その「中年期の視点から思春期を振り返る」という趣向が際立っているのが「flick out」と題された作品で、中年期にある男が中学生になる息子が足を真っ黒にしてどこかから戻って来たと思しき異変が生じている事に気付く場面から始まる。実はこの男、自身の思春期時代に「他人の悪意を感じ取るとどこか別の場所にテレポートしてしまう」という不思議な能力に振り回されていた経験の持ち主。 ただでさえ自意識バリバリで他人の視線や悪意、身近な同級生との僅かな優劣が気になって仕方ない年頃に「また飛ばされた!俺に悪意を向けるのは誰なんだ!」と尖った自意識に染まり切って精神的に追い詰められていく様などまさに思春期そのものなのだが、男の回想が次第に息子の異変へと重なって当時の自分を息子と重ねて「大変だけど、それも人生の一ページなのだ」と少しばかり距離を取って見守る様な態度を取って見せる様など思春期がとうに去った身としては「確かにこんな見守り方をするだろうなあ」と大いに納得させられた次第。 同様に新作書下ろしとなった「ハスキーボイスでまたよんで」は理不尽な事件で妻を失った40代半ばの男がタイムスリップしてきた中学生時代の妻と過ごすという実にSFチックなテイスト。無責任な母親に勝手に産み落とされた挙句に捨てられて祖母の手で育てられた幼い妻の(中学生なんて十分に幼い!)奔放で尖った感性に振り回される男の視点と「自分が将来結婚する相手」である主人公を「妙なおっさんだ」と敬遠しながら戻った過去の世界で意識せずにはいられない少女の視点の使い分けが実に見事。 少女が主人公を務める壁井作品は久しぶりに読んだけれども「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち」のキズナといい、奔放で気の強いタイプの女の子を描かせると壁井ユカコは実に上手いのである。最近男臭い作品ばかり読んできたので久しぶりに別の形で壁井作品の魅力を思い出させて頂いた。 ストーリーの起伏の付け方も稀代のストーリーテラーである作者の本領が発揮されたものとなっており、時間軸の移動のさせ方を用いて最後まで飽きさせない仕様になっている。 趣向の面白さという点ではもっともSF色の強い作品である「ヒツギとイオリ」は白眉の出来。意識しないままに思考が他者の頭の中に漏れだしてしまう「サトラレ」の感覚版といった風合いなのだが、触覚に限らず痛覚、温感・冷感みたいな感覚そのものが他人に伝わってしまう描写は小松左京の傑作短編「盗まれた味」を真逆の視点から覗かせて貰っている様で「よくこんなアイデアを思い付いたものだな」と感心させられる事しきり。 特に用便が近くなり下腹部が突っ張る感覚が近くにいた全員に伝わってしまう様子など腹を抱えて笑わせて貰ったが、何より性交の感覚が他人に漏れてしまう場面など「濡れ場の表現にこんな手法があったのか」と唖然とさせられた。いったい女流作家である作者はどうやってこの男性が射精に至るまでの感覚を知り得たのかと変な所まで気になった次第。 ここ10年ばかり「2.43」シリーズを中心に展開してきたことで「作者はすっかりスポーツ小説の人になってしまったな」と思い込んでいたのだが、元来のユーティリティで幅広い作風を持つ作家としての特性を思い出させて貰った一冊であった。 | ||||
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