(アンソロジー)

犯罪の中のレディたち



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犯罪の中のレディたち 上―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-26)

1979年06月29日 犯罪の中のレディたち 上―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-26)

アンソロジストとしても名高いクイーンが編集した本書は、偉大な女性の名探偵と大犯罪者たちの絢爛たる業績を収めた全二巻のコレクション! 上巻――ミニヨン・エバーハート「スパイダー」スチュアート・パーマー「緑の氷」ポール・ギャリコ「単独取材」メアリ・ロバーツ・ラインハート「棒口紅」カール・デッツァー「撮影所の殺人」マーガレット・マナーズ「スクウィーキー最初の事件」他三編。(「BOOK」データベースより)




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犯罪の中のレディたちの総合評価:7.80/10点レビュー 5件。Cランク


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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

序文が復刊を妨げている所以か?

アンソロジストとしても名高いエラリー・クイーンが犯罪に纏わる女性が登場するミステリを集めたアンソロジーが本書。女性探偵物に女性犯罪者の短編がカテゴリー別に集められている。

まず「女性の名探偵―アメリカ編―」の劈頭を飾るのはミニヨン・エバハートの女性ミステリ作家兼探偵のスーザン・デアが活躍する1編「スパイダー」だ。
怪しげで決して仲が良いとは云えない老女たちがもたらす暗鬱な雰囲気の中に部外者のスーザンが放り込まれ、事件が起きる。そして神経症の発作を起こした依頼人のスーザンはマリーが他の部屋で話していたのだと思えば、実は自分の部屋にいたというドッペルゲンガーを髣髴させる奇妙な体験をする。
実に古式ゆかしいゴシック風のミステリだが真相はなかなかトリッキー。
幻想的な謎とその合理的解決と黄金期ミステリそのものと云えよう。

次は昨年クレイグ・ライスとの合作が訳出されたスチュアート・パーマーの女教師兼探偵のヒルデガード・ウィザーズが登場する「緑の氷(グリーン・アイス)」は宝石を盗み出した強盗をウィザーズとその相棒のオスカー・パイパー警部が追う話だ。
警察の無線を傍受して事件の捜査に無理矢理介入するのがヒルデガード・ウィザーズの探偵スタイル。つまり相棒の警部オスカー・パイパーにとって捜査の邪魔をする目の上のタンコブという設定だ。
本作の事件は行方の知れない宝石泥棒を捕まえるというものだが、ミステリとしては凡作かと。

ポール・ギャリコの生み出した女性探偵サリー・ホームズ・レインはその名前から「シャーロック」の愛称で呼ばれている女性新聞記者で、編集者のアイラ・クラークと結婚している。「単独取材」では農場で宝探しごっこをしていた少年たちが農場主の夫人に散弾銃で襲撃されるという事件をサリーが潜入取材して調べるという物。
衝撃的な真相に未だに身震いしそうになる。21世紀の現代でもこの結末には戦慄を覚える事だろう。

1作目のミニヨン・エバハートと共に<HIBK“もしも知ってさえいたら”>派の代表としてベストセラー作家だったメアリ・ロバーツ・ラインハートによる女探偵ルイーズ・ベアリングが登場する「棒口紅」は精神科医に通っていた妻が突然自殺した奇妙な事件の物語。
夫婦生活の秘訣は適度な距離感だと云う事を改めて知った次第だ。

「撮影所の殺人」のカール・デッツァーは今では全く知られていない作家だが、彼の創作した女性探偵ローズ・グレアムは映画会社の監督助手という特殊な職業に就いている。
監督助手とは撮影中断されたシーンが再開される際に繋がれるシーンと食い違いがないかを確認する役目を担う。つまり観察力が要求される職業で、まさに探偵役にうってつけの役割と云えよう。
真相はいささか肩透かし気味だが、映画監督助手の探偵という設定はなかなかに面白い。

短編のみアンソロジーに収録され紹介されており、まとまった短編集はまだ編まれていないマーガレット・マナーズは先のカール・デッツァー同様に森英俊氏の労作『世界ミステリ作家事典』にも収録されていない作家だ。その彼女のシリーズ探偵スクウィーキー・メドウが登場するのが「スクウィーキー最初の事件」だ。
色々な何気ない伏線が最後の真相に結びつく点、そして取り調べを重ねるうちに人物像が反転する価値観の逆転が起こる点はミステリとしては及第点だが、昔のミステリにありがちな捜査の部外者が堂々と事件現場に立ち入って素手で色々と物色する描写を読むと、解ってはいるが何とも現実感の無さに辟易してしまうし、何しろスクウィーキーの傍若無人ぶりが好きになれなかった。
1作目でいきなり殺人課の刑事と友人と云う設定も都合よすぎか。今では忘れられた作家であるのも解る気がする。

ハルバート・フットナーのマダム・ロージカ・ストーリーが活躍する「ジゴロの王」は本書では86ページと最も長い1編だ。
観光地に巣食う金持ちのマダム達をターゲットにしたジゴロたちの犯罪グループを壊滅するという、それまでの女性探偵が関わる事件よりもスケールの大きな犯罪に挑むマダム・ロージカ・ストーリーは金持ちのマダムでありながら、犯罪者たちの陥穽を見極め、また犯罪者たちを目の前にしても動じない肝の据わった女性で、犯人の脅迫にも屈しない。現代女性もこの女性の強さには憧れを持つのではないか。
事件はマダム・ストーリーが自らを囮となって組織犯罪のからくりを暴こうとするもので、書物を使った暗号のやり取り等、クライム小説のような展開を見せながらも最後に明かされるグループの元締めの正体でサプライズを仕掛けるなど、なかなかに凝った作品で、最も分量の多い作品だが、決して冗長ではなく、起伏に富んだ展開で読ませる。
この作家の作品、いやマダム・ストーリーシリーズをもっと読みたい気にさせてくれた。

これまた今では知られていないフレデリック・アーノルド・クンマーの「ダイヤを切るにはダイヤで」ではエリナー・ヴァンスというどこかで聞いたような名前の女性探偵が登場する。
冤罪を晴らすために容疑者に探偵が接近するのではなく、冤罪を掛けられた関係者を近づかせて逆に罠を仕掛けてぼろを出させるという解決方法が珍しい。
最後の最後でタイトルの意味が解るのもなかなかだ。

シャーロッキアンとして有名らしいヴィンセント・スカーレットの女性探偵サリー・カーディフが登場する「オペラ座の殺人」は文字通りオペラ公演中に起きた殺人事件の謎を探る作品だ。
公演中の劇場で起きる衆人環視の中での殺人事件はクイーンやカーも扱った題材で謎としては魅力的なのだが、その魅力的な謎に比肩する魅力的な真相になかなか出会えないというのが実情だ(そういう意味では『ローマ帽子の謎』はかなり意外な佳作と云える)。ヴィンセント・スカーレットの本作も演劇の出演者が犯人だという意外性は買えるものの、謎解きの内容を読むとやはり無理を感じざるを得ない。
また探偵役のサリー・カーディフもいわゆる美人で聡明と云う男の願望を具現化したようなキャラクターでこれと云った特徴がないのが残念だ。この作家の作品の訳出が進まないのももしかしたら探偵役に魅力的な特徴がない故かと勘繰ってしまった。

クイーンの紹介文によれば恐らくこの作品が唯一の作品となるらしい。ヴァイオラ・ブラザーズ・ショアなる作家による女性探偵グウィン・リースが活躍する「マッケンジー事件」は39ページの分量ながらも実に起伏に富んだ展開を見せる。
この作品は実によく出来たミステリだ。

H・H・ホームズはアンソニー・バウチャーの筆名だが、本作「フットボール試合」は原稿用紙から印刷された出来立てホヤホヤの作品とのこと。
フットボールの試合に勝つために容疑に掛けられているフットボールの花形選手を釈放させるためにその付添いのかつての名選手が嘘の証言をすると云うのがいかにも熱狂的なフットボールファンの多いアメリカらしい。かなり強引な展開なのに何故か納得してしまう。
しかしながら犯人の手掛かりが賭博師の手にしたゲームの負けカードの数字に隠されていたというダイイング・メッセージを使いたかっただけの物語で、ダイイング・メッセージ好きのクイーンには大いに受けただろうが、トリックありきの作品になったのは非常に残念だ。

さてここからは第2部「女性の名探偵―イギリス編―」。先陣を切るのはギルバート・フランカウの「サントロぺの悲劇」は船上で起きた事件を探偵キラ・ソクラテスコが捜査にあたる。
本書が特徴的なのは探偵が推理を間違え、ワトスン役によって過ちを犯すところを救われるという異色の結末を迎えるところだ。
ただ何となく物語が上滑りな感じがするのが残念だ。

翻って次のF・テニスン・ジェスの「ロトの妻」は実に濃厚。
この作品の探偵ソランジュ・フォンテーヌの造形が見事。悪を予感する霊的能力を持っている女性と作者は述べているが、このようないわゆる感受性の強い女性なのだが、このような設定はえてして実に都合のいい能力と捉えがちだが、作者はソランジュを通じて彼女の接する人物を実に精緻に描いていく。
つまり人物分析を詳しく書くことで真相が明かされた時のサプライズが実に効果的に生きているのだ。
特に渦中の人物アンガスの描写が印象的だ。印象は実に善良に感じるのだが、心底そうではなく、また邪悪かと疑えば、それもまた違う。
新しい恋に目覚めた男が離婚に同意しない妻の呪縛を解き放つという表向きのストーリーが整然であるがゆえに、その裏に隠されたストーリーの陰鬱さが際立つ傑作だ。
この霊感が強いソランジュ・フォンテーヌという女性探偵は使い方によっては万能すぎて読者は鼻白んでしまうが、本作はその特徴が見事に融合して成功している。

17ページという短い分量のグラディス・ミッチェルの「百匹の猫の事件」は女性探偵ミス・ブラッドレーが周期的な記憶喪失に悩まされる患者にあうことになる。
正直この前に読んだ「ロトの妻」が鮮烈すぎてこの作品の印象はその分量と同様とても、薄い。

ヴァレンタインの「銀行をゆすった男」はハリウッド映画にもなりそうな個性豊かな探偵チームが登場する。
実に面白い。
資金は潤沢にあるために報酬は不要とする<調整者>たち。その名の由来は「犯罪者と被害者の間にある不公平を調整するため」に存在しているからだ。この<調整者>たちは10代の娘しか見えない愛らしいダフネ・レインを中心に運動万能の伯爵の1人息子、探検家、演出家、刑事弁護士というメンバーで構成されており、悪を正すために有罪を証明するのが困難な犯罪者に立ち向かい、作戦を立てて悪を懲らしめるのだ。
う~ん、この明快さが何とも気持ちがいい。映画化するに相応しい題材だ。こんな作品が1929年に書かれていたことが驚きだ。

ファーガス・ヒュームの想像した女性探偵ヘイガー・スタンレーは質屋を営んでいるという変わり者だ。「フィレンツェ版の珍本」は彼女の店に持ち込まれたダンテの<神曲>の第2版を巡る物語だ。
100ポンドもの高価な本に隠された伯父の財産の在処が隠されているという魅力的な謎の真相が小学生の時に私がマンガで読んだ手法だったのに脱力した。

ステーシー・オーモニアの「恐怖の一夜」は寺院町イージングストークのミス・ブレースガードルが南アメリカから帰郷する妹を迎えに行った宿泊先のホテルの部屋にいつの間にか見知らぬ男性が寝ているという状況に出くわす。
貞淑なミス・ブレースガードルは男と一つの部屋にいることに恐怖を覚え、どうにかこの状況を脱しようとするが、やがてこの男性が死体であることに気付く。
正直この作品はこれだけの話である。
イングランドの外にも出たことがなく、男性との付き合いもしたことのない箱入り娘が出くわす見知らぬ男が部屋にいるというシチュエーションに戸惑い、最悪の状況を想定する動揺ぶりが細かく綴られるだけである。つまり世間ずれしていない女性にとっては見知らぬ男と一緒にいる事自体が一夜の冒険だというのがこの物語のテーマなのだろう。

さて第2部を締めくくるのは二大巨匠の手による作品。ガストン・ルルーの女性探偵レディ・モリーの「インヴァネス・ケープの男」とアガサ・クリスティーのミス・マープルが登場する「村の殺人」だ。
前者はある人物の失踪事件を扱った物。
しかしこのトリックが商店街を荒らし回る方法として有効なのかよく解らない。
一方後者の方はさすがの逸品といった作品だ。
片田舎で起きた一人の夫人の死。しかし平穏な村ではその事件でパニックに陥ることなく、牧歌的な雰囲気で物語は進行する。小さな村では村人は皆家族のような物であり、当然ながら被害者の過去も知っている。昔女中として勤めた屋敷で盗難事件が起きたことなど。そんなゆったりとした時間の中でミス・マープルによって明かされる事件の真相は穏やかな村に潜むどんよりとした悪意を読者に知らしめてくれる。
やはりクリスティーの物語は深い。

次の第3部「女性の大犯罪者―アメリカ編」では2編紹介されている。ジョン・ケンドリク・バングズによるパロディ、ラッフルズの妻が主人公の「鉄鋼証券のからくり」とフレデリック・アーヴィング・アンダソンの「贋札」だ。
前者はミセス・ラッフルズの所有する時価10万ドルの鉄鋼証券を担保に150万ドルをせしめる詐欺の一部始終が語られる。
これは古き良きアメリカだからこそ実行可能な詐欺だ。
何とも原始的だが、交通網が発達していない当時ならば有効な手だったのだろう。
後者は最後の最後まで女性犯罪者の正体が判明しないという特殊な作品。
紹介文にあるようにこの作品で語られる犯罪が明かされるのは物語の最後でそれまでは何が起こっているのか読者には解らない。
何が事件なのか解らぬまま、その裏に事件の翳が隠されているという趣向は当時かなり斬新だったのではないだろうか。

最後の3編は「女性の大犯罪者―イギリス編」。そのうち2編エドガー・ウォーレスの「盗まれた名画」とロイ・ヴィガーズの「グレート・カブール・ダイヤモンド」は女怪盗物だ。
それぞれ見つからない盗品を探すという同じテーマでしかも双方とも盗んだと見せかけて実は屋敷から持ち出していないというトリックを扱った物。
前者の女怪盗フォー・スクウェア・ジェーンは義賊でぬくぬくと肥え太った金持ちから有名な絵画を盗み出し、返却の代償として小児医院に5000ポンドの寄付を強要する。そして寄付の後、女怪盗はご丁寧に絵を返却する。
後者は女怪盗フィデリティ・ダヴがアメリカの鉱山王夫人が所望しているあまりにも有名な大型ダイヤモンド、グレート・カブールを所有者から見事盗み出すが、この怪盗は一歩もダイヤは屋敷から出ていないという。所有者は警察の手を総動員して屋敷中を探すが見当たらず、翻ってミス・ダヴはこのまま見つからなかったら、自分が20000ポンドで屋敷ごと買い取ると宣言するという話。
これはどちらかと云えばポーの「盗まれた手紙」を想起させ、そう考えるとチェスタトンの件はミスディレクションだったと思えるのだが、あまりにヒントが明らさますぎた。あと厳重なセキュリティ・システムのかいくぐってダイヤを盗み出す方法が全く語られておらず、「ミス・フィデリティ・ダヴならばこれくらい朝飯前」で済まされているのには苦笑を禁じ得ないが。
しかし両者はこれぞミステリとも云うべき女性版怪盗ルパンの登場だ。ミステリど真ん中の怪盗譚は明快で気持ちのいい物語だった。

最後を飾るのはフィリップ・オッペンハイムによる「姿なき殺人者」だが、物語のテーマはイギリスを騒がせている大犯罪王マイクル・セイヤーと隠退した元ロンドン警視庁刑事ノーマン・グレーズの静かな戦いだ。
逃げる犯罪王に追う元刑事。
一人の女性犯罪者の誕生を登場人物それぞれの視点で描いた佳作だ。


題名が示す通り、女性が犯罪にメインで関わる作品を集めたアンソロジー。

本アンソロジーもクイーン自身による、本書が編まれることになった経緯を語ったはしがきから幕を開ける。そこには古書収集家のクイーンらしく、女探偵の登場の変遷から現在に至るまでの道のりなど、歴史的価値の高い資料としての情報がいっぱい詰まっているのだが、このはしがきの内容は平成の世では実に問題が多い、男尊女卑の考えが明らさまに出ていて苦笑を禁じ得ない。このはしがきの内容のせいで復刊されないのかと勘繰ってしまうほどだ。

さて登場する女探偵たち、もしくは女犯罪者たちは概ね有閑マダムの暇つぶしのような探偵や犯罪者が大半で、中には退屈な日々を紛らすために警察との知恵比べや障害を乗り越えるため、つまりスリルを味わうために犯罪をしていると堂々と述べるキャラクターもいるほどだが、女探偵の場合はそんな中にも探偵を副業として正規の職業に携わっているのが特徴的だ。作家兼探偵、教師兼探偵、新聞記者兼探偵、映画監督助手兼探偵と、特徴的な職業を持ってるがゆえに事件に関わってしまう者もおり、そこに探偵小説の進化を読み取れたりもする。

女性は家を守るものとされていた時代で女性探偵が職を持っているのは非常に珍しいと思う。逆に時代に先駆けて自立した女性だからこそ探偵業も成せるという裏返しなのかもしれないが。

しかし本書に収められた短編ではまだまだ小説創作の技法が幼く、その特色を物語に活かせていないのが残念だ。

上下巻24編が綴られた本書の中で個人的ベストを挙げるとそれはポール・ギャリコの「単独取材」だ。女性新聞記者が探るニュー・ジャージー州の片田舎で起きた牧場主による子供への銃撃事件を取材すべく、お手伝いとして牧場に潜入したサリー・ホームズ・レインが最後に行き着くおぞましい牧場の秘密は今でも総毛だつほどだ。現代でも十分通じる本当のミステリだ。

そして次点ではヴァイオラ・ブラザーズ・ショアの「マッケンジー事件」とF・テニスン・ジェスの「ロトの妻」、アガサ・クリスティーの「村の殺人」とそして最後のフィリップ・オッペンハイムの「姿なき殺人者」を選ぶ。単なるサプライズに留まらず、読後心に「何か」を残す作品たちだ。

「マッケンジー事件」はパトリシア・ハイスミスを思わせる成り替わり劇がもたらす運命の皮肉を、「ロトの妻」は惜しまれつつ亡くなったルース・レンデルが見せる価値観の逆転とそのためにじわじわと巻き起こる登場人物の真意の怖さを、「村の殺人」はのどかな片田舎に潜む悪意を、「姿なき殺人者」は犯罪者の誕生を実に印象的に語っている。

また収録されている作家たちにも着目したい。
まず第1作目を飾るのがミニヨン・エバハートというのがご時世を表していて興味深い。当時コンスタントに年1、2冊発表していた作家でアメリカ探偵作家クラブの会長も務めたほどの才媛だったようだ。恐らく本書が編まれた当時は作家として円熟期にあったのだろうが、現代ではもはや翻訳本は全て絶版であると時代の流れの残酷さを感じてしまう。

また森英俊氏による『世界ミステリ作家事典』に紹介されていて、今なお紹介が進んでいない、まだ見ぬ巨匠たちは彼女たち以外ではスチュアート・パーマー、ヴィンセント・スカーレット、フレデリック・アーヴィング・アンダスン、エドガー・ウォーレスだが、それ以外にも同事典に収録されていない作家がわんさかといた。個人的には上に挙げたベスト5の作家だけでも埋もれた作品を掘り起こしてほしいものだ。

私が選出した作品は5編だが、上に書いたそれぞれの感想に述べたようにそれ以外にも光る作品は多々あった。
24分の5。打率にして2割ちょっとだが、それでも本書は復刊されうるアンソロジーだと思う。
やはり障害はあの序文かな。そんな瑕疵に目を瞑って、ぜひとも復刊してもらいたい。


▼以下、ネタバレ感想

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No.4:
(5pt)

歴史的価値が高い推理小説短編集。≪女性が颯爽と活躍するミステリ≫を読みたい方にはオススメです

本格推理小説が好きな私としては、星五つは付けすぎかなと感じるのですが、推理小説の歴史の早い時期に
書かれた≪女性が活躍する推理小説短編の数々≫ーー読む価値は充分にあります。歴史的価値が高いです。
小説として価値が高いだろう短編も幾つか含まれていますので、星五つを付けます。
また、≪女性が颯爽と活躍するミステリ≫を読みたい方には最高の推理小説短編集となるでしょう。
「スパイダー」⇒おもしろい。本格推理小説。女探偵?スーザン・デアが推理。
「緑の氷」⇒おもしろい。ヒルデガード・ウィザーズ(女探偵)の大活躍。
「単独取材」⇒サスペンス。
「棒口紅」⇒ヒロインの危機。
「撮影所の殺人」⇒ローズ・グレアムが犯人を指摘する。
「スクウィーキー最初の事件」⇒デズデモーナ・メドウ(女探偵)の大活躍。
「ジゴロの王」⇒大犯罪集団に対してマダム・ロージカ・ストーリーが挑む。
「ダイヤを切るにはダイヤで」⇒エリナー・ヴァンスの見事な知略。
「オペラ座の殺人」⇒サリー・カーディフが劇場殺人事件に挑む。
犯罪の中のレディたち〈上〉―女性の名探偵と大犯罪者 (1979年) (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:犯罪の中のレディたち〈上〉―女性の名探偵と大犯罪者 (1979年) (創元推理文庫)より
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No.3:
(3pt)

女探偵の活躍が光るがミステリとしては今一つか

9作の中で完成度の高いのはミニヨン・エバーハートの「スパイダー」と思う。重厚な雰囲気の中で本格推理が会話劇で進んでいく。容疑者は3人と少ないがその分各人物がよく描かれている。結末の意外性も見事。ただ、老女たちの孤独や悲哀が描かれ全体的に暗く重い。主人公の探偵役、スーザン・デアは聞き役に徹して地味であるがそれが容疑者からうまく証言を引き出しいる。ただスーザンの本業は忙しい推理作家で本事件も渋々引き受けるという設定である。ラストで早く帰りたがるシーンがあるのは作者の自虐的な皮肉かもしれないがやや興ざめであった。

ハルバート・フットナーの「ジゴロの王」は美貌のスーパーヒロイン、マダム・ストーリーが悪のジゴロ集団を相手に鮮やかな活躍をみせる軽快な娯楽サスペンスで一気に読めた。マダムといつも行動をともにするコンパニオンのベラが物語の語り手であるが、ごく普通の女性であるベラの驚きとともにマダムの異彩ぶりがうまく描かれていく。謎解きは天下り的でありミステリとしては不満が残るが娯楽小説として割り切って読めるので読後感はさわやかであった。

ヴィンセント・スターレットの「オペラ座の殺人」は本格推理ミステリとして緻密に捜査が進められていき緊迫感をもって読み進められたが最後の解決があまり根拠がなく納得がいかない。探偵役のサリー・カーディフも途中からあまり登場しなくなるなど、やや中途半端な感じがした。
犯罪の中のレディたち 上―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-26)Amazon書評・レビュー:犯罪の中のレディたち 上―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-26)より
4488104266
No.2:
(4pt)

女性が主役

クイーン編纂の女性の名探偵、犯罪者を集めたアンソロジー
アメリカ、イギリスの名探偵。両国の犯罪者が一同に介します
出版の権利か何かの問題でミス・マープルの作品があまり相応しい物でないのと
「茶の葉」が収録されていないのが残念なところ
犯罪の中のレディたち 下―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-27)Amazon書評・レビュー:犯罪の中のレディたち 下―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-27)より
4488104274
No.1:
(4pt)

テーマ別アンソロジー

クイーンお得意のテーマ別アンソロジーの一つ
原題は「種の中の牝」とかいうタイトル
英米の女性探偵と犯罪者を網羅した作品ですが
上巻はアメリカの女性探偵だけしか載っていません
時代を彩った女性探偵たちの競演が見所の一つです
他では読むのが難しい探偵も多数収録されています
犯罪の中のレディたち 上―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-26)Amazon書評・レビュー:犯罪の中のレディたち 上―女性の名探偵と大犯罪者 (創元推理文庫 104-26)より
4488104266



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