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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数581

全581件 241〜260 13/30ページ

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No.341
(8pt)

絶対に「ザ・プロフェッサー」から読むべし

新たに誕生したリーガルミステリーの傑作「トム・マクマートリー」シリーズの第2弾。KKK誕生の地・テネシー州ブラスキを舞台に、人種差別犯罪に立ち向かうトム、リック、ボーの戦いを描いた熱血法廷ミステリーである。
前作でトムに協力した黒人弁護士・ボーが逮捕された。45年前、5歳のときにKKKによって自分の面前で父親をリンチ殺人されたボーが、父の命日に当時のKKKのリーダーで主犯と思われた地元の有力者・ウォルトンを殺害したという。遺体はボーの父と同じように木に吊るされ、火をつけられており、復讐犯罪なのは明白だとして死刑を前提にした裁判にかけられたボーは、恩師であるトムに弁護を依頼する。トムと相棒のリックは地元を離れ、ブラスキまで駆けつけて弁護を始めるのだが、今なお露骨な人種差別がはびこる町で、しかも相手は就任以来負け知らずの女性検事長・ヘレン、さらに目撃証言や物的証拠も不利なものばかりという逆境で、いかにして活路を見出すのか。トムとリック、ボーはわずかな可能性にかけ、不屈の粘りで戦うのだった・・・。
本作も、人間のつながり、不屈の精神、貫き通す正義など、感情を揺さぶる要素が満載のヒューマンドラマである。がしかし、前作に比べるとミステリーの側面が強くなっている。反面、主役以外の人物、特に悪役がやや類型化されている印象である。
前作の主要登場人物が揃って登場し、前作のエピソードに関連するストーリー展開もあるので、絶対に前作「ザ・プロフェッサー」から読むことをオススメする。
ロバート・ベイリー:黒と白のはざま (小学館文庫)
ロバート・ベイリー黒と白のはざま についてのレビュー
No.340
(8pt)

大阪府警にも働き者のデカがいる!

大阪府警シリーズの第8作。新登場のコンビが、若い女性の連続猟奇殺害事件を追うサスペンス・ミステリーである。
殺害された若い女性はセーラー服に着替えさせられ、なおかつ全身に剃毛が施されていた。大阪府警捜査一課のベテラン刑事・谷井と若手の矢代のコンビは制服マニアか、コスプレマニアの犯行を疑って捜査に取りかかったのだが、今度は女子大生の格好をさせられた若い女性の遺体が発見され、連続殺人事件の様相を呈してきた。さらに、ほどなくしてOLの格好をした女性の遺体が発見された。女性を着せ替え人形のように扱う犯人はサイコパスだと推測されたが、被害者はなぜ選ばれたのか、谷井と矢代は被害者に共通する背景を必死に追及し、女性の恋愛感情を利用して高額な宝石や呉服を売りつける恋人商法が関係しているのではないかと結論付けた。同じ頃、府立高校の教員・足立由実は知り合って間もないファッション・メーカーの社員・大迫との仲を徐々に深めつつあった・・・。
今回主役の刑事コンビは、このシリーズには珍しく仕事ひとすじである。それでも、大阪府警らしいとぼけた味わいは忘れておらず、要所要所でクスりとさせる。さらに、メインとなる事件がサイコ・ミステリーとしてしっかり構成されていて、真犯人解明までのプロセスも破綻が無い。また、被害者予備軍の女性教諭の視点からのサスペンスも読み応えがある。
大阪府警シリーズではやや異色の作品だが、シリーズファンには必読。さらに、サイコ・サスペンスや警察ミステリーのファンにもオススメする。
黒川博行:アニーの冷たい朝 (創元推理文庫)
黒川博行アニーの冷たい朝 についてのレビュー
No.339
(8pt)

人種差別と、女性蔑視と、二日酔いと。戦い続ける生きのいいヒロイン!

現役の女性弁護士でもある作者の本邦初訳で、MWA最優秀長編賞にノミネートされた作品。型破りではあるが憎めない、生きのいい女性弁護士が奮闘する社会派リーガル・ミステリーである。
ユタ州ソルトレイクシティで刑事弁護士を開業しているダニエルに持ち込まれたのは、知的障害者の黒人少年・テディが麻薬密売を行ったとして逮捕された案件だった。本人に会ってみれば「幼児レベル」の知性しか無く、しかも未成年であるため、容易に不起訴に持ち込めると思ったのだが、なぜか検察も判事も成年犯罪として扱うことにこだわっていた。テディは当日の行動を理路整然と説明することが出来ず、しかもテディに同行したという3人の白人少年たちの証言まであった。圧倒的に不利な状況にもかかわらず、弱者が人権を踏みにじられるのが許せないダニエルは、テディを守るために自分が持てる力のすべてを発揮して権力への戦いを挑むのだった・・・。
ヒロインのキャラクター設定が最高に面白い。自分が浮気したことが原因で別れた元夫に(夫と一緒に暮らしている息子にも)執着し、元夫の再婚話が進むと酒浸りになり(毎回のように二日酔いで法廷に出て、判事や検察に嫌がられている)、ほとんどストーカー行為を繰り返すという、性格破綻者レベルのダメ人間なのだが、一旦、理不尽なことに直面すると何ものをも恐れぬ火の玉となる激しい女性でもある。さらに、ダニエルを支えてくれる調査員、友人などのキャラクターも秀逸で、シリーズ化を期待したい。また、悪人側になる判事や検察もキャラ立ちしていて、波乱万丈なストーリー展開が無理なく頭に入って来る。
作者はアフガニスタン出身の人権派弁護士ということもあって、アメリカ社会の様々な差別に対する強烈な批判がビシビシ伝わって来る。がしかし、ヒロインの魅力を十分に引き出したユーモアのあるエンターテイメント作品でもある。
社会派のリーガル作品ではあるが、予備知識なしで十分に楽しめるエンタメ作品として多くの人にオススメしたい。
ヴィクター・メソス:弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.338
(8pt)

妻としては悪女、母としては聖女

ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレント・シリーズの第8作(訳者あとがき)。これまでウィルの人間性に大きな影響を与えながら影の存在だったアンジーが主役として登場する、サスペンス・ミステリーの傑作である。
プロバスケットのスター選手リッピーが所有するビル建設現場で元警官の惨殺死体が発見された。実はリッピーは数ヶ月前に強姦で訴えられ、ウィルが捜査したのだが強力な弁護団によって不起訴に持ち込まれていた。被害者は悪徳警官として知られ、退職後はリッピーのマネージャーに雇われ汚い仕事をしていたことから、リッピーの尻尾をつかめるのではないかと期待したウィルだったが、現場に残された銃が別居中のウィルの妻アンジーのものだったことで激しく動揺する。しかも、現場を血の海にした多量の出血は被害者ではなく、現場から逃げた女性のものだと判明。さらに、その血液型はアンジーと同じで、数時間以内に死に至る可能性があるという。アンジーが殺害犯なのか、どこに隠れているのか、正常な判断力を失ったような状態で必死に走り回るウィルに対し、恋人であるサラ、相棒のフェイス、上司のアマンダたちは複雑な感情を抱くのだった。
凄惨な殺人と複雑な犯行態様、底知れぬ闇をかかえた事件の背景など、サスペンス・ミステリーを盛り上げる要素が満載で一級品のミステリーである。さらに、今回主役のアンジーが複雑怪奇かつ直情的な、極めて存在感が強いキャラクターでヒューマン・ドラマとしても読み応えがある。アンジーは聖女なのか、悪女なのか、あるいはそうした判断を許さない超越的な存在なのか?
シリーズでも屈指の傑作として、シリーズ愛読者はもちろん、本作が初めての方にも自信を持ってオススメする。
カリン・スローター:贖いのリミット (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター贖いのリミット についてのレビュー
No.337
(8pt)

おかしくて切ない、男と女(非ミステリー)

2004年〜05年に雑誌掲載された連作短編集。連作とは言っても、温泉を舞台にした男女の物語という共通点があるだけの独立した5つの話である。
登場する5組の男女の関係は中年に差しかかった夫婦から高校生まで様々だが、どの作品でも二人は上手く行ってるようで上手く行ってないような、どこかですれ違いがある関係で、そのズレがドラマになっている。主人公たちはみんな善人というか、悪人ではなく普通の人。普通の人が普通に恋をして、普通に生きて行こうとするのだが絵に描いたようには生きられない。そんなささやかな悩みや苦しみを温かく描いてあって、読後感は爽やかである。
ハートウォーミングな人間ドラマを読みたいという方にオススメする。
吉田修一:初恋温泉 (集英社文庫)
吉田修一初恋温泉 についてのレビュー
No.336
(8pt)

重要容疑者の心の中を覗く使命に悩むヴィゥティング警部

ノルウェーで大人気の「ヴィスティング警部」シリーズの第12作、邦訳では2冊目となる作品である。本作も、邦訳第一弾「猟犬」と同様に過去の事件を巡って、ヴィスティングを中心とする警察チームが緻密な捜査で真相を暴いて行く北欧ミステリーらしい作品である。
24年前の10月10日に行方不明になったカタリーナ・ハウゲンの事件は、いつまでもヴィスティングの心をとらえており、毎年、10月10日にはカタリーナの夫・マッティンを訪れ、様々に語り合うのが恒例になっていた。ところが今年、マッティンは留守で、しかも職場を休み、所在が確認できない状態だった。その翌日、ヴィスティングの勤務する警察署に来訪した国家犯罪捜査局の捜査官・スティレルが、カタリーナの一件の2年前に起き、ノルウェー社会を揺るがせた少女誘拐事件にマッティンが関与している疑いがあるという衝撃のニュースをもたらせた。さらに、スティレルはマッティンと親しいヴィスティングに、マッティンと交流することで証拠をつかむように依頼した。本来の目的を隠し、ヴィスティングはマッティンにさらに接近し、一緒に山小屋に行くことに成功する・・・。
二つの古い未解決事件が思いもよらない理由でつながり、一挙に解決するというのはありがちなパターンだが、本作はそれぞれの事件の解明プロセスがしっかりしているので、無理なく納得できる。さらに、ヴィスティングとマッティンの関係、ヴィスティングとスティレルの関係が極めて丁寧に描かれており、人間観察力に優れた作品となっている。また、前作同様、娘・リーネがジャーナリストとして関わり、重要な役割りを果たしているのも、物語を深みがあるものにしている。派手さは無いが、どんでん返しというか思いもよらぬ展開もあり、サスペンス・ミステリーとしての完成度も高い。
邦訳第一冊「猟犬」は早川、本作は小学館と分かれたため翻訳者も変わっているが、シリーズとしての違和感は感じない。ひとつ気になったのが表紙イラスト。どこかで見たと思ったら「犯罪心理捜査官セバスチャン」と同じイラストレーターだった。同じジャンルの別作家と同じイラストを使うのって、どうなんだろう?
シリーズ物だが「猟犬」が第8作、本作が第12作であり、あえて順番に読まなくても十分に楽しめる。北欧ミステリーファンには自信を持ってオススメする。
ヨルン・リーエル・ホルスト:警部ヴィスティング カタリーナ・コード (小学館文庫)
No.335
(8pt)

「自由が奪われるのは何故か」を追求した、警世の力作

2017年に刊行された書き下ろし長編。様々な自由が知らず知らずに制限され、やがては奪われてしまう恐ろしさを、読み応えのあるサスペンス・ミステリーに仕上げた力強い社会派エンターテイメント作品である。
興信所を営む鑓水と修司のもとに、かつて因縁のあった政治家から奇妙な依頼がもたらされた。白昼、渋谷のスクランブル交差点で天上を指差しながら死んだ老人の意図を探って欲しいというのだ。雲をつかむような話だが、一千万という報酬を無視できず、鑓水と修司は死んだ老人・正光の過去を調査し始める。一方、相馬刑事は極秘裏に、こつ然と姿を消した公安刑事・山波の行方を探すように命じられる。捜査を進めると、山波が失踪したのは老人が死んだ同じ日で、しかも山波と老人に接点があったことが判明する。やがて二つの事件は密接につながり、三人は失踪した山波を追って瀬戸内海の小島にたどり着く。のどかな日常が繰り返されているだけのひなびた村で見つけたのは、戦争の苦難をくぐり抜けてきた老人たちが抱え続けている消せない傷だった。一方、正光の死と山波を繋ぐ出来事の裏には、社会を揺るがすような陰謀が隠されているのだった。それに気が付いた三人は、存在のすべてをかけて巨悪に挑戦する。
本作の最大のテーマは「社会は、なぜ自由を維持できなくなるのか」という点で、報道の自由が奪われるプロセスを詳細に検討し、自由を制限しようとする権力の暴挙がまだ小火のうちに消さなければ、結果としてだれも抵抗できなくなるという警鐘を鳴らしている。政権に批判的なジャーナリストが次々に登場機会を奪われ、政権におもねるタレントばかりが登場する現状の日本を見るとき、本作の訴えは絶対に無視してはいけない。
極めて社会性、現代性のある硬質なテーマだが、サスペンス、ミステリーとしても一級品で、決して退屈することは無い。
現在を生きる人、すべてに読んでもらいたいオススメ作品である。
太田愛:天上の葦 上 (角川文庫)
太田愛天上の葦 についてのレビュー
No.334
(8pt)

日本の司法制度の矛盾に、真っ向から異議申し立て

「犯罪者」でデビューした著者の第2作。冤罪事件をテーマにした書き下ろし社会派ミステリーの力作である。
修司を仲間にして興信所を運営する鑓水が依頼されたのは、23年前に行方不明になった、当時小学6年生の水沢尚を探してくれという奇妙な依頼だった。しかも、依頼者である尚の母親は関連資料を渡したあと、鑓水たちの前から姿を消してしまった。調査費を受け取った以上、仕事するしかないと諦めた鑓水と修司は、失踪当時の尚に関する聞き込みから調査を始めることにした。一方、交通課に左遷された相馬は、元高級検察官僚の孫娘が誘拐された事件の末端で足を棒にして不審車両の目撃情報を集めていたのだが、事件現場に立ち寄ったとき、ある模様が残されているのを見つけ、激しい衝撃を受けた。それは、23年前に当時友だちだった尚が姿を消した場所で目にしたものと同じだったのだ・・・。
23年前に起きた事件と、その8年前の事件、それに現在進行形の事件が重なり合って描き出されるのは、「罪を犯したものが正しく裁かれている」という司法制度への信頼は本当なのか?という、スケールの大きな問いかけである。加害者、被害者の心理、信念などではなく、事実を争うはずの裁判が本来の機能を発揮できているのかという問いかけは、司法にたずさわるものだけではなくすべての国民に向けられている。
社会派ミステリーのファンには絶対のオススメ。なお、物語としては独立しているのだが、主人公たちのキャラクターを理解した方が楽しめるため、前作「犯罪者」を読んでから手に取ることをオススメする。
太田愛:幻夏 (角川文庫)
太田愛幻夏 についてのレビュー
No.333
(8pt)

口も腕も立つ、大阪府警の新コンビ登場

2016年から19年にかけての雑誌連載に加筆・修正し改題されたノンシリーズの長編作品。大阪府警捜査二係の刑事コンビが無尽で集めた金を持ち逃げした犯人を追って沖縄、奄美に渡り、沖縄近海に沈んだ交易船から宝物を引き揚げるというトレジャーハンティングの出資話にたどり着き、詐欺事件として立件するという警察小説である。
大阪泉尾署で詐欺や横領など経済事案を担当する新垣と上坂のコンビに新たに割り当てられたのは、沖縄出身者たちの無尽である模合で金を持ち逃げした解体業者・比嘉を探し出し逮捕することだった。事務所を皮切りに足取りを追うと、比嘉は出身地である沖縄、石垣島に逃げたようだった。冬が近づく大阪から南国へ、リゾート気分で追いかけた新垣と上坂だったが常に比嘉に一歩先を行かれ捕まえることが出来なかったのだが、そうするうちに、比嘉が怪しい沈船ビジネス詐欺の常習犯と一緒に行動していることを発見。詐欺事件をして立件することを視野に入れ、深く追求して行くと、背後に暴力団も絡む大掛かりな犯罪が見えてきた・・・。
大阪府警が舞台だが従来の大阪府警シリーズには分類されず、単独作として扱われている。ただし、主役の上坂は「落英」でも主役となっており、二度目の登場である。ストーリーの基本は仲間の金を持ち逃げした詐欺・横領事件と大掛かりな沈船詐欺の捜査だが、暴力団が絡むことでいつも通りの黒川博行ワールドのエンターテイメント作品になっている。二人の刑事を始めとする警察、詐欺グループ、暴力団のキャラクターがきちんと描かれているため、ストーリーが分かりやすく、話の展開もスピーディで一気読みの面白さだ。途中に何度も挿入される映画マニア・上坂の映画トリビアも読みどころ。
黒川博行ファン、警察ミステリーファン、軽めの犯罪ミステリーファンにオススメする。
黒川博行:桃源 (集英社文庫)
黒川博行桃源 についてのレビュー
No.332
(8pt)

家族を愛する、現代のワイルド・ウェスト・ヒーロー登場

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第1作。発表直後から各種新人賞を獲得し、多くの評論家から絶賛されたというのも納得がいく力強いアクション・ミステリーである。
新任の猟区管理官・ジョーは地元民・キーリーの密猟現場に出くわし、違反切符を切ろうとして拳銃を奪われて笑い者にされたのだが、その因縁の男・キーリーがジョーの家の裏庭で死んでいるのが見つかった。エルク狩りのキャンプ場で何者かに襲われて負傷したままジョーの家まで馬で来たようだった。ジョーと仲間の猟区管理官、保安官助手の3人でキャンプ場に行き、テントから銃を持って出てきた男を射撃したのだが、そこではキーリーの仲間二人が殺されていた。犯人が撃たれて入院したため一件落着とされたのだが、キーリーが持っていたアイスボックスに残された獣の糞が気になったジョーは、その疑問を解明しようとする・・・。
無口で大人しく、一見、無能にも見られるジョーだが実は、何事にも屈せず、真っ正直に自分の信念を貫いて行く正義の男である。融通が利かず、上司や仲間の受けは悪いのだが、何者にも流されない強さを持ち、しかも心底から家族を愛する心優しい、アメリカ人好みのワイルド・ウェスト・ヒーローで、このシリーズがベストセラーを続けているのもうなずける。さらに、ワイオミングの大自然が眼前に浮かんで来る情景描写も魅力的。
清々しい読後感が得られるアクション・エンターテイメントとして、多くの人々にオススメしたい。
C・J・ボックス:沈黙の森 (創元推理文庫)
C・J・ボックス沈黙の森 についてのレビュー
No.331
(8pt)

狂気を秘めた隣人たち

1996年の推理作家協会賞短編部門賞を受賞した表題作を始めとする全5作の短編集。現代の狂気と平常のすき間に起きたような事件を警察と犯人の両方から描いたエンターテイメント作品集である。
特に印象的だったのは、表題作「カウント・プラン」と「鑑」。どちらもかなりビョーキの人物を中心に据えながら、かなりの力業で意表をつく結末に導き、しかも深く納得させるのが凄い。短編ならではの面白さである。
ストーリー展開、会話の軽快さは折り紙付き。黒川博行ファンには絶対のオススメだ。
黒川博行:カウント・プラン (文春文庫)
黒川博行カウント・プラン についてのレビュー
No.330
(8pt)

嵐のような沖縄戦後史を、若者の物語として

2018年の直木賞受賞作。圧倒的な米軍基地の存在に我が身一つで挑戦して行く若者たちの熱情を描いた、沖縄の現代史的ノワール・エンターテイメント作品である。
1950年代の沖縄には米軍から様々な物資を盗み出して周辺住民に分け与える、現代義賊のような「戦果アギヤー」と呼ばれる者たちがいた。中でもコザで英雄と称えられるのがオンちゃんだった。ある日、親友のグスク、弟のレイたちを引き連れ、恋人のヤマコを金網の外に残して侵入した嘉手納基地で、オンちゃんがリードするグループは米軍に追いかけられ、散り散りになって逃げ出した。以来、オンちゃんの消息は不明で、グスク、レイ、アヤコたちはそれぞれの道を歩まざるを得なくなった。それから20年、基地を巡る様々な問題、本土復帰の戦い、沖縄のアイデンティティーを求める情熱で身を焦がしながら、3人は3様の人生を送るのだが、そこには常にオンちゃんの影が差していた。そして1972年の沖縄返還を前にした70年のコザ暴動で4人の運命が交差することになった。
敗戦後の沖縄現代史を不良少年のような若者たちの成長と挫折の物語として描いていて、単なるノワール作品ではない。米軍基地を押し付けられた沖縄の苦悩、それが現在まで続いている、さらにより過酷になっている状況を意識しながら読まなくてはいけない。そういう意味では、読む者の覚悟を問う作品だが、直木賞受賞の実績が示すように、エンターテイメントとして楽しめる作品でもある。
沖縄の歴史や現状に関心を持つ人はもちろん、無関心な人にこそ読ませたい、オススメ作品だ。
真藤順丈:宝島
真藤順丈宝島 についてのレビュー
No.329
(8pt)

前作より進化した印象

刑事事件専門の女性弁護士アイゼンベルク・シリーズの第2作。殺人容疑で逮捕された友人の女性映画プロヂューサーを弁護することになり、警察とは別に、アイゼンベルクが独自に犯人探しをするサスペンス・ミステリーである。
友人であるユーディットが恋人を爆弾で殺害したとして逮捕され、アイゼンベルクに弁護を依頼してきた。ユーディットは無実を主張するのだが、彼女の自宅から爆薬の包装紙、爆破に使われたと思われる使い捨て携帯が発見され、警察はユーディットの犯行と決めつけ、他の可能性を捜査しようとはしない。アイゼンベルクもユーディットの犯行ではないかと疑いながらも事件の様相に違和感を持ち、独自に背景を探り始めた。すると、ユーディットの事業を巡る陰謀が見え隠れし、事件は思わぬ様相を呈して来るのだった・・・。
本筋は、ユーディットの犯行か否か、ユーディットが無実なら誰が、何のために事件を仕組んだのか、という犯人探し、犯行の動機探しである。これに、5年前に起きた連続女性殺害事件とアイゼンベルクの姉の死にまつわる隠されてきた秘密という、二つのエピソードが絡んでくる。前作はストーリー展開にやや強引な印象があったのだが、本作は各エピソードの連関も納得がいき、ミステリーとしてもサスペンスとしても完成度が高くなっている。
北欧ミステリーファン、弁護士ものの謎解きミステリーのファンにオススメする。
アンドレアス・フェーア:突破口 (弁護士アイゼンベルク) (創元推理文庫)
No.328
(8pt)

大洪水に流されない1本の立ち木になれるのか?

3年後に発売された「モダンタイムス」と合わせて「魔王」シリーズと呼ばれる作品。2004年と05年に雑誌掲載された2本の連作を合わせた、社会派エンターテイメントの中編集である。
両親を交通事故でなくし、学生時代から理屈っぽいと言われてきた兄と直感型の弟の兄弟二人で暮らす安藤兄弟。前半の「魔王」は兄が主人公で、後半の「呼吸」は5年後の弟が主人公である。2作品に共通するテーマは、社会の流れが大きく変わろうとする時、個人に何が出来るのか、である。現実の日本の政治状況に限りなく近いフィクションの世界で、ファッショ化する国を動かして行くのが誰なのか、どんな思想や意思、あるいは無意識、無関心なのかを超能力というファンタジーを使いながら解き明かして行く。もちろん完全なフィクションであり、特定の政治的な視点に基づくものではない。ただ、時代の気分という大洪水(ファシズムへの道)に遭遇したとき、それに気が付き、自分の考えで行動できるかどうかが要点であるということは書かれている。これは、他の伊坂幸太郎作品にも共通する視点である。
極めて現代性を帯びた社会派エンターテイメントとして、多くに人にオススメしたい。
伊坂幸太郎:魔王 (講談社文庫)
伊坂幸太郎魔王 についてのレビュー
No.327
(8pt)

市警を裏切ったのか、ボッシュ?

ハリー・ボッシュ・シリーズの第18作。ロス市警を生き甲斐としてきたボッシュがリンカーン弁護士・ミッキー・ハラーと組んで強姦殺人の容疑者を弁護するという、変則的な警察・法廷ミステリーである。
定年延長制度中にも関わらず市警を退職させられたボッシュは、異母弟のハラーを代理人に立てて市警への異議申し立てを行い、古いバイクの修理でリタイア生活を過ごそうと計画していた。ところがハラーから、女性公務員が強姦殺害された事件の犯人として逮捕された元ギャング・フォスターの弁護活動の調査員になってくれと頼まれた。被害者に残された精液のDNAがフォスターのものと一致したとして逮捕された上、刑事弁護士に協力するのは警察に対する裏切りになると考えるボッシュは協力を渋っていたのだが、事件の詳細を知るにつれ、冤罪ではないかと疑い始める。さらに、ボッシュが調査を進めると何者かがそれを妨害する事態が頻発し、ボッシュは身の危険を感じるようになった・・・。
強姦殺人の犯人探しと事件の構図を描いた黒幕の追求という、大きな二つの物語がテンポよく進み、最後はリンカーン弁護士の鮮やかな法廷戦術で幕を閉じる。つまり、フーダニットの警察ミステリーとワイダニットの法廷ミステリーの二重奏である。警察からは蛇蝎のごとく嫌われているハラーに協力することで苦悶するボッシュだが、その正義を貫く態度が警察内にも仲間を作り出し、信念を貫き通す美学は本シリーズの真骨頂である。
ボッシュ・シリーズ、リンカーン弁護士シリーズのファン、コナリーのファン、さらに警察ミステリーのファンに自信を持ってオススメする。
マイクル・コナリー:贖罪の街(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー贖罪の街 についてのレビュー
No.326
(8pt)

金のために誘拐するなら極道だ!

雑誌連載の長編小説。病院で知り合った素人3人組が暴力団組長を誘拐して身代金を取ろうとする、痛快なノワール・アクションである。
交通事故の骨折で入院した友永は入院中に知り合った稲垣に誘われ、稲垣の仲間であるケンと三人組でノミの元締めの暴力団幹部を誘拐し、見事に一千万という身代金を獲得した。それぞれの分け前を手に解散した三人だったが、その三ヶ月後、懐が寂しくなりかけた友永は、もう一度誘拐をやろうという稲垣からの誘いに乗った。今度の狙いは組織暴力団の金庫番と言われる組長・緋野で、身代金は三千万と目論んだ。緋野のあとを付け、追突事故に見せかけて誘拐に成功し、緋野の組から金を届けさせようとしたのだったが・・・。
金の受け渡し、人質の交換を巡る無鉄砲な三人と極道のメンツを賭けたヤクザの丁々発止のやりとりが本作の読みどころ。陰謀あり、心理戦あり、カーチェイスあり、暴力あり。著者の十八番である関西弁でのテンポのいい会話とスピーディーな展開が理屈抜きに楽しめる。
黒川博行ワールドにはまっている方には絶対のオススメ。和製ハードボイルド、ノワールのファンにも文句なしのオススメ作である。
黒川博行:迅雷 (文春文庫)
黒川博行迅雷 についてのレビュー
No.325
(8pt)

プロ同士は騙される方が間抜けという

90年代後半の雑誌掲載作品5本を収録した連作短編集。古美術の世界でひと儲け、濡れ手に粟を企む男たちの容赦ない騙し合いを描いた、古美術コンゲーム小説である。
水墨画、茶道具、陶磁器など、各作品ごとに主題となるジャンルは異なるものの、いずれも贋作作りの手法と騙しのテクニックをユーモラスに、しかもリアリティ豊かに描いている。贋作と分かっていて素人に売るのは恥だが、同業者に売るのは構わない、騙された方が笑い者になるという世界の物語は、実に魅力的。犯罪と言えば犯罪なのだが、殺人も暴力場面も出て来ないので読後感は爽やかである。登場人物たちの関西人らしい振る舞い、大阪弁の軽やかさも作品のテイストにぴったり合っている。
黒川ファンはもちろん、コンゲームもののファンにはぜひ読んでいただきたい傑作である。
黒川博行:文福茶釜 (徳間文庫)
黒川博行文福茶釜 についてのレビュー
No.324
(8pt)

卑劣な世界では、法の正義は自らの手で実現する

2019年のMWA最優秀長編賞(エドガー賞 長編賞)受賞作。元警官のニューヨークの私立探偵・オリヴァーが警察の腐敗を追及することで自分を再生させようとする、正統派のハードボイルド作品である。
十数年前、NY市警の刑事だったジョー・オリヴァーはハニートラップに引っ掛かって市警を首になり、妻には愛想を尽かされ、しがない私立探偵として漫然と日々を送っていたのだが、ある日、かつてオリヴァーにハニートラップを仕掛けた女性から手紙が届き、事件を謝罪し、彼の無罪を証明するために証言台に立つと言われた。その直後、2名の警官を射殺したとして死刑を宣告された黒人活動家の無実を証明して欲しいという依頼人が現われた。まったく無関係な二つの出来事だが、その背後には権力の陰謀があると考えたオリヴァーは自分自身の誇りを回復するためにも、巨大な悪に立ち向かうことを決心した・・・。
美女に弱く、古いジャズを愛好し、高校生の愛娘を溺愛する主人公・オリヴァーの人物設定が成功している。ヒーローには似つかわしくない様相なのだが、警察に愛着を持ち、しかも黒人としてのアイデンティティを深く持っており、正義感が強い。さらに信義や他人に平等に接する態度を大事にしてきたことで、陰に陽に協力してくれる人物にも恵まれ、孤独な戦いの過程で多彩な援軍が現われて来る。無力に見えた男が巨悪に挑戦し、苦しい戦いの中でプライドを取り戻して行く、まさにハードボイルドの王道を行く作品で、物語が進展するに連れてどんどんサスペンスが高まって来る。そして迎えたクライマックス。読後の余韻も心地よい。
ハードボイルド・ファンには絶対のオススメだ。
ウォルター・モズリイ:流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
No.323
(8pt)

密室トリックに大阪府警の軽みを振りかけて

大阪府警シリーズの第6作。しかし、他の作品と異なり本格的な密室の謎解きが中心になった警察ミステリーである。
「ブンと総長」と呼ばれる府警捜査一課の文田巡査部長と総田部長刑事が担当することになったのは、頭部が腐乱し、脚部はミイラ化した不思議なバラバラ死体事件だった。死体発見の数日後、マンションでの心中事件現場からバラバラ事件の記事の大量の切り抜きが見つかった。二つの事件を関連させて捜査することになり、ブンと総長コンビに京都育ちの新入り五十嵐刑事を加えたチームは、それぞれの関係者の背景を洗い出すうちに、心中事件の二人も殺害されたのではないかと疑うようになった・・・。
大阪府警シリーズではあるが、警察の内部事情や刑事たちの個性的な言動より、密室殺人の謎を解く本格ミステリーの色合いが濃い。事件の様相や捜査の進展具合なども本格ミステリーに則っており、読者は作者との知恵比べが楽しめる。もちろん、大阪弁でのとぼけた会話の面白さは健在で、一冊で二度楽しめる作品である。
大阪府警シリーズのファンはもちろん、黒川博行ワールドのファン、さらには本格ミステリーのファンにもオススメする。
黒川博行:ドアの向こうに (角川文庫)
黒川博行ドアの向こうに についてのレビュー
No.322
(8pt)

映画化してもらいたい、傑作青春ロードノベル

独特の小説世界を築いて人気があるボストン・テランの2018年の作品。19世紀後半、南北戦争前のアメリカを舞台に、12歳の少年がニューヨークからミズリーまで一人で旅し、様々な戦いの中でアイデンティティを確立していく傑作ロードノベルである。
詐欺師の父親と12歳の少年・チャーリーはニューヨークで、奴隷制度廃止のための資金を南部の活動家に届けるという名目で大金を巻き上げた。金を持って逃げようとした父子だったが、大金を狙う悪党2人に襲われ、父が殺されてしまう。辛くも悪党から逃げられたチャーリーは、それまでの自らの悪行を償うために、一人で約束通り金を届けようと決心する。執拗に追いかけて来る悪党から逃げながら、奴隷解放をめぐって騒然としたアメリカ南部をたった一人で旅する少年は、様々な人々の助けを得て自らが課した任務を全うするべく戦うのだった・・・。
基本的には、悪党に追われる少年の逃避行がメインのロードノベルかつ犯罪小説だが、詐欺を働いていた自分を変えたいという贖罪の物語でもあり、少年が青年へと変わる成長物語でもある。さらに、暴力や犯罪を描いた傑作を発表してきたボストン・テランらしく残酷なまでの現実を描いた社会派ミステリーでもあり、少年の成長が感動的だが、単に清々しい成長物語だけでは終わっていない。ストーリーは波乱に富み、登場人物も多士多彩で飽きることが無い。ぜひとも映画化してもらいたい作品である。
ミステリーの枠に収まらない傑作青春ロードノベルとして、多くの人々にオススメしたい。

ボストン・テラン:ひとり旅立つ少年よ (文春文庫)
ボストン・テランひとり旅立つ少年よ についてのレビュー