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我、鉄路を拓かん
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我、鉄路を拓かんの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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梶よう子の新作のレビューである。梶よう子は、私が今年初めてその作品を手に取った作家であり、その最初に手に取った作品は「広重ぶるう」(新潮社)であったが、歌川広重がいきいきと描かれていて、読み応えがあり、☆5つと評価してレビューを書いた。その後、新旧作を幾冊か購入したが、梶よう子は多作の作家であって、読書がなかなか追いつかないため、積読(つんどく)になってしまっている。この「我、鉄路を拓かん」は、私が手にとった、梶よう子の2作品目である。 話は幕末から始まる。物語の主人公は、平野屋弥市だ。彼は土木請負を業にしており、巻末の参考文献をみると、実在の人物がモデルのようだ。弥市は神奈川台場の建設を請け負ったが、その台場の設計を行った勝麟太郎と知り合う。その勝が、アメリカから帰朝した際、弥市に「蒸気で走る鉄の車」があることを話す。そして、幕末の政治がいよいよ混乱し、土木建設の仕事が細るなかで、弥市は、日の本のための普請をしたい、いずれ、勝から聞いた蒸気で走る車の鉄路を作りたいと思うようになる。 そして、明治維新。弥市は、維新前に薩州屋敷に出入りしていたため、新政府から、東京ー横浜間の鉄道敷設の工事を請け負うことになる。しかし、鉄道敷設は初めてのことで、なおかつ架橋や海上を通す堤もあり、技術的な困難がある。また、政府内にも、線路を敷設する地域の住民からも、強い反対の声がある。また、請負業者も多数参加しており、一枚岩ではない。こうした困難を乗り越えて、いよいよ完成も近づくかというときに、弥市は北海道の函館ー札幌間の新道を作るため、北海道へ行くことを命じられてしまう。 あらすじは、このようなところであろうか。作者は、弥市を中心に、丁寧に、鉄道工事に携わる人々の気持ちを描き、物語を進めている。しかし、私は、弥市ひとりを主人公として描くことで、この小説に幾つか物足りなさを感じてしまった。一つ目は、弥市が北海道に行ってしまうので、この日本最初の鉄道建設の物語が、最後まで描ききれていない(物語が尻すぼみになっている)ということである。また、二つ目は、政府内にも鉄道敷設に賛否両論があったようだが、こうした政治過程も読者にはとても興味深いのだが、間接的にしか描かれていない。私は、主人公を複数にすることで、多焦点的に物語を作れば、この二つの物足りなさは解消したように思うのである。 そして、物足りなさの三つ目は、工事の技術的な難しさが、うまく描けていないと思う。当時の土木技術がどういうもので、それにどうイノベーションが起きたのか。全く書かれていないわけではないのだが、あまりすっきりしないのである。 このような感想を抱いてしまったのは、やはり、昨年、東京の地下鉄建設を描いた、門井慶喜「地中の星」(新潮社)という優れた作品を読んでしまっているからである。だから、この作品は「標準点」としての☆3つと評価した。 なお、いまこのレビューを書いている時点で、東京ステーションギャラリーにおいて「鉄道と美術の150年」という展覧会が行われている(2023年1月9日まで)。この展覧会に、勝海舟が描いた「蒸気車運転絵」や、小林清親が高輪築堤を描いた版画「高輪牛町朧月景」という作品が出展されている。梶よう子の小説を読んだ後、この展覧会を訪れたら、とても興味深く感じることだろう。これは、私の書いた51番目のレビューである。2022年11月11日読了。 | ||||
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