失踪者
評判
失踪者の評価:
4.31/5点 レビュー 16件。 A ランク
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
故郷を追放された17歳のドイツ青年カール・ロスマンが遍歴する異国アメリカ。そのアメリカを、カフカ自身は生涯訪れることはなかったようだ。ここでアメリカとは、高度に発達した資本主義とそれを実体化して駆動させているヴェーバー的な意味での巨大で無機質で目的合理的なだけの官僚機構の網の目が行き渡った、及びそうした資本主義を可能にする即物的匿名的な殆ど暴力と云ってよい感性が充満し切った、20世紀初頭の近代化した「大都市」の隠喩であろう。そこでは、人間の人間性は、肉体も思考も労働力として商品化され消費され廃棄されるだけである。『失踪者』には、そんな「大都市」の様相がそこここに描写されている。
それらは、ヴァルター・ベンヤミンがゲルハルト・ショーレム宛の『カフカについての手紙』の中で次のように記しているのと符合する「ぼくにいわせれば、この現実はすでに、<個人>にとって経験可能な限界を、ほとんど越えてしまっている」。
本作品は未完であるとされている。しかし、如何なる結末で以てこの青年の遍歴にピリオドを打つことができるのだろうか。破滅によって? それはただの現実そのものであって小説とするに値しない。救済によって? それは繕う気の無い出来の悪いハリボテの如き欺瞞だ。結末など無いのだ、結末など不可能なのだ。「オクラホマ劇場」が登場する最後の30ページほどの断片部分は、確かにそれまでの水銀のような空気の鈍重さを感じさせることはない。それまでとは明らかに物語の雰囲気を異にしている。そこにはどこか「天使」に手をとられて導かれた理想世界を思わせるところがある。しかしこの「オクラホマ劇場」というものが何物であるのか、どこかチグハグで――資本主義社会機構の戯画を思わせる採用窓口――、どこまでも漠然としていて――「世界で一番大きな劇場よ」――、そしてついぞ明確に語られることはない。語ることができないのだ、語ることができてしまってはいけないのだ、語られた途端それは語ろうとしていた当の何かと決定的に断絶してしまうのだ。
なぜなら、20世紀という時代精神にあっては、希望は、それに対する諦めが倦怠へと擦り切れてしまったような遣り切れなさの不安を予感させることによってしか、その「冷気」を暗示することによってしか、語ることができなくなってしまったのだから。帰るべき「故郷」など、既に失ってしまっているのだ、予め存在しないのだ。
よって本作品は、未完であるよりほかに在りようが無かった。