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グルジェフの残影



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【この小説が収録されている参考書籍】
グルジェフの残影 (文春文庫)

グルジェフの残影の評価: 1.00/10点 レビュー 1件。 Eランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点1.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(1pt)

趣味に走り過ぎて、背中も見えなくなってきている

本作は『神の子の密室』がイエス・キリストの復活の真相を探るミステリであったように、ロシアの神秘思想家ゲオルギイ・グルジェフの正体と彼と親交の深かった哲学者ピョートル・ウスペンスキーの関係を探る歴史ミステリである。
双方の作品に共通するのは現代から文献や資料を当って調査・推理するのではなく、その時代を舞台に当時生きていた人物、しかも実在の人物を主人公にして謎を探る趣向になっていることだ。

ただ本作は『神の子の密室』に比べるとかなりエンタテインメント性を排しており、かなり困難を強いる読書になった。
本作で取り上げられているウスペンスキーとグルジェフの2人はイエス・キリストよりも馴染みの薄い人物である事がそれに拍車を駆けていると云えよう。更にはそれを読者に理解させるために、ウスペンスキーがその著書『ターシャム・オルガスム』で提唱した高次元論から、グルジェフの思想である「三の法則」、「七の法則」、それを図象的に表した「エニアグラム」という考え方などなどの哲学の分野の専門知識が作中に横溢しており、小説というよりも小論文に近いものがあるがために、読者の側もそれ相応の知識と理解力を求められている事になっている。
特に16章などは単に時系列的に物事を列挙しただけで小説の体さえ成していない。

上記に述べた本書の内容から鑑みると、小森氏のミステリ創作姿勢はどうも他のミステリ作家と比べるといささか異なっているように感じられる。
概ねのミステリ作家は、あくまで根幹がミステリであることを前提にして、作品の肉付けとなる題材―それはしばしば作者が個人的に興味のある対象である事もあるが―を取材し、ミステリを創作するに対し、どうも小森氏は自身が教授でもあるせいか、自らの研究題材を調べていくうちにこれはミステリとしても創作できるのではないかという、自身の研究からミステリ作品を派生させているような節が感じられる。
したがって作品の主体は自身の研究発表の場のようで、ミステリは付属的なものとして捉えているようだ。

それを裏付けるように本作と趣向が似ているとして例を挙げた『神の子の密室』もそうであったし、本作においてミステリ的趣向である殺人事件はようやく物語も終盤になって起こる。
特に本作における事件は『神の子の密室』と比してもさらに添え物の感が際立っている。
山中の小屋で起きる発砲事に巻き込まれたかのようなある人物の死。しかしちょうどその時を目撃していた主人公オルロフは彼が撃たれたときには窓ガラスが割れていなかったことを気付いていたが、今ではその窓ガラスが割れ、恰も流れ弾に当って死んだかのように偽装されている。そこに居合わせた9人の人物はそれぞれ別の場所にいたという証言があるものの確たるアリバイがない。

この謎をグルジェフのエニアグラムで解き明かすという趣向でこの事件が本作に密接に関わり合いがあるかのように見せているが、本当にそれが元で真相を解明されたなら、かなり乱暴な謎解きだと思った。
が、作者もそれは感じていたようで、一応の論理的解決は成される。しかしそれは推理クイズの問題程度のレベルを脱しえず、本書のメインには全く成りえていない。

とどのつまり、本作におけるミステリとしての主眼は上述のように当時親交の深かった二大思想家ウスペンスキーとグルジェフがなぜ途中で袂を別ったかという謎を小森氏独自の調査で解き明かすところにある。
しかしなんとも観念的な話である。興味のない者については全くどうでもいいような話である。
さらに驚くのは本作は文藝春秋の「本格ミステリーマスターズ」叢書の1冊として刊行されたことである。これほどまでにエンタテインメント性を排した作品をこのシリーズで刊行した同社の担当者は商業性やシリーズの特性を全く無視して刊行したのではないかと勘ぐらざるを得ない。

また小森氏に関して云えば、自らの知的探求の愉悦に浸るがために作品を重ねるごとに読者を突き放す方向に突き進んでいるようにしか見えないのが気にかかる事だ。
とはいえ、それがこの作者の目指す道であり、ワン・アンド・オンリーとしてその道を更に深く追求するのならばあえて何も云うまい。ただ私は彼の作品から手を引くだけだ。


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Tetchy
WHOKS60S

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