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失われた地平線



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【この小説が収録されている参考書籍】
失われた地平線 (新潮文庫)

失われた地平線の評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

永遠が約束された時、人はどんな選択をする?

『チップス先生さようなら』で有名なヒルトン。彼の作品は彼のミステリ『学校の殺人』を読んだのみだが、このたび久しぶりに新刊文庫にその名前を見つけたのが本書。
歴史的傑作冒険小説とまで云われているのに惹かれ、読んでみた。

本書は作家ラザフォードが学友コンウェイから船上で聞いた話を著した物語という体裁を取っている。
容姿端麗、学業優秀、おまけに運動神経も抜群で性格も明朗と絵に描いたような好青年でオックスフォードでも名を馳せていたコンウェイをラザフォードは中国の修道院で再会する。その彼の姿はかつての栄光はいずこかと思われるほど、憔悴したものだった。そのコンウェイを介抱し、快復してから日本を経由してサンフランシスコへ向かう汽船上でコンウェイが話した彼が体験した数奇な冒険の内容が本書の物語だ。

政情不安定な地を飛行機で脱出する際、パイロットが何者かに倒され、見知らぬ者が操縦する飛行機で連れてこられたのがチベットと思しき極寒の山中。近くにあるのは寺院シャングリ・ラ。そこでは誰もが年を取るのを忘れ、自らの欲する物を追求し、極めることの出来る楽園。チベットの山奥という環境ながらあらゆる作物が実る渓谷があり、時折訪れる中国からの運送屋から近代的な物も入ってくる。

好むと好まざるとに関らず、そんな辺境の地に連れてこられた4人の男女は当初は一刻も早い帰国を望んでいたが、次第にこの楽園を律する中庸という考え方とある程度の不便を我慢すれば、己の欲するところに心を向け、没頭でき、衣食住には困らず、悪人もいないシャングリ・ラに定住しようと心変わりしていく。

本書の主人公コンウェイは4人の中でもシャングリ・ラの最高位に当たる大ラマにも認められ、次期大ラマへと推挙されるほどになるのだが、同僚のマリンソンに説得され、考えを180度変え、シャングリ・ラを後にする決意をする。

いち早くシャングリ・ラの環境に適応し、魅了されていくコンウェイと、世俗の考えを捨てきれず、ひたすらにシャングリ・ラからの脱出を願う若きマリンソン。
本書の読みどころはこの対照的な2人の考え方がぶつかり合うところだと云っていいだろう。

先に書いたが、そういう意味ではこれは冒険小説ではなく、思想小説の類に近いのではないだろうか。物語の導入部こそハイジャックされるというサスペンスがあるものの、物語の大半は楽園シャングリ・ラで繰り広げられる。
西洋人の面々が東洋の仏教の考えに直面し、次第に感化されていくさまは、作者ヒルトン自身の趣向が反映されているのかもしれないが、発表当時は斬新だっただろう。

この不思議な感覚の物語。読後の今、まだ自分の中で纏まらない想いがある。ちょっとしばらく考えてみよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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