そして、遺骸が嘶く ―死者たちの手紙―
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過去にあれやこれやと新人賞受賞作品なるものを読んで来たのだけど、その中に「背伸びした文体」で書かれた作品というのを見掛ける事は珍しくない。要するに簡素な表現で済ませられる所を妙に持って回った修辞であったり、ひどく見慣れない漢語表現を使ってみせたりするアレの事である。 せっかく賞に応募するのだから選者の目に付く文体に仕立てたい、新人作家だと侮られない文章を書きたいという思いが作者自身が普段使い慣れていない表現に走らせてしまうのかも知れないが、読む側にしてみればそういった作家の気負いばかりが前に立った文章を前に「なんだかなあ」と苦笑させられる事の方が多いのではないだろうか? 「そして、遺骸(ゆいがい)が嘶(いなな)く」とわざわざルビ振らなきゃならないタイトルを冠した本作品。手にした時点で「また作者の気負いが伝わってくる作品だなあ」と思わされたのだが、読んでみたらそれ以上だった、とだけ最初に申し上げておく。 物語の方は森鉄戦争と呼ばれる戦争で勝利を収めたペリドット国なる国で戦死した兵士の遺品を身内に返す旅を続ける一人の兵士の姿を追う形で描かれる。「キャスケット」という明らかな偽名を名乗って遺品を届ける元狙撃兵はかつての仲間の身内に遺品を届けて回るのだけど、彼らは一様に何らかの事情を抱えた人々で…… 全体的には「シリアスな雰囲気でいこう」という作者なりの想いは伝わってくる。実際、序盤から中盤にかけては医者になりたかった兄を戦地に送り自分は故郷に残ってしまった「妹」の後悔であったり、気優しい楽器職人だった幼馴染の身を案じながら娼婦として生きる女性の不安であったりと銃後に残されて待つ以外に無い人々の群像を描く連作短編という趣でそれなりには読める作品であった。 案の定というか初っ端から「死神(貴方がた)」だの「黒猫(アバズレ)」だのといったルビ芸の嵐なのだけど、これ自体は大昔の「ルナ・ヴァルガー」あたりにも見られたライトノベルでは珍しくない表現なので許容範囲内。ただ、この作品のクセはこれだけに留まらないのである。 序盤から気になったのは登場人物名から感じられる世界観の統一感の無さだろうか?主人公は自分を「キャスケット」と名乗っているのだけど、これ自体はフランス語「casquette」である。だから何だと思われるかもしれないが、これが上官の名前となると今度は「フリッツ・ベーゼ(Fritz・Böse?)」とモロにドイツ語由来となり、主人公の顔見知りの軍医はブルースター(Bluestar?)と途端に英語由来となるので正直「なんやこれ?」と目を白黒させる羽目に。 架空の世界だから何でもありだろ、と言われてしまえばそれまでなのだけど語源に統一性を持たせないと世界観が頭の中に統一された像として浮かんでこない。せめて由来を統一してくれれば背景に描かれるであろう町の風景なんかも浮かんでくるのだけど、こうゴタ混ぜとあっては「なんとなくヨーロッパ風」ぐらいのボンヤリしたイメージとしてしか浮かんでこない。 その辺りはまだ我慢して読み進めるべき要素なのかもしれないが、読み進めると次に気になってくるのは地の文での説明の多さである。架空の世界を描くのだから独特の風習なんかを説明する部分が出てくるのは仕方の無い所なのだけど、その説明をスマートにする工夫は欲しい所。作中に「解明者」なる独特の職業が登場するのだけど、 解明者とは「世界を解し明らかにする者」という意味だ。それは主に三つに分けられる。一つに科学者で、彼らは自然科学の研究という視点から世界を解剖する。二つに信望者で、彼らは神の存在や伝承・神話から世界を解釈する。三つに哲学者で、彼らは智を愛し全ての物事の根源を思考する事で世界を解説する。ペリドットではこれらを纏めて解明者と呼んで重宝し、優秀な解明者の家は末代まで金に困らないと言われる程儲かった。 ……うん、何が何だかよく分からない。架空の世界に存在する独特の職業に関する説明を入れてくれるのは良いんだけど、こうワーッと一気呵成に「もろに説明」としか呼びようがない説明を立て続けに語られても読者としては「はあ、そうなんですか」とシラケた受け止め方しかできないのである。もう少し登場人物間の会話に織り交ぜるとか「説明臭さ」を和らげる工夫が欲しかったのだが。しかもこの「解明者」なる設定、大してその後活かされるわけじゃなかったし。 それぐらい必死で「自分のオリジナル世界を構築して読者に届けよう」と説明文を入れてきてもそれ以外の部分では普通に銃弾のサイズで「ミリ数」みたいなメートル法が使われるなど拘りの無さが伝わってきてしまうので空回り感がヒドいwこれならまだ和製RPG風の「中世ヨーロッパ風味の世界観なので一つよろしく」ぐらいに済ませておいた方が読者としても「あ、世界観の方にはあまりこだわって無いのね」という感じで話の流れの方に集中できるという物で。 ただ、これだけ背伸びした文章を書こうと意気込むのは良いんだけど、その意気込みまくった文章の中でチョイチョイ「地の文体」みたいな物が見えてしまう辺りもなんだかなあ、という感じである。真面目腐った文章が喧嘩の場面に差し掛かると途端に「ステゴロ」なんていう単語が飛び込んできたり、もうちょっと文章に統一感を持たせてくれと言いたくなる。 中でも一番ヒドいのが主人公キャスケットが上空を飛ぶ戦闘機を仲間の兵士の肩を借りて撃ち落とそうとするクライマックスとでも称するべき場面。立った状態の仲間の肩に戦闘機すら落とせる大口径のライフルを載せて狙撃するという絵面事態もアレだが、そこはミリオタじゃ無いのだからとスルーするにしても「台」代わりになる仲間が自分の身体を「ムチムチボディ」と表現するに至っては「文章の統一感ってナニ?」と頭がクラクラしてきた。作者としては「重厚かつ陰惨な雰囲気の漂う物語のクライマックスをお届けしよう」と思っていても文中に「ムチムチボディ」が登場した瞬間に全ては吹っ飛んでいく。 ……いやー、過去に色んなクセを持つ文体で書かれた新人賞作品を読ませて頂いたけど「珍文体」という点では群を抜いている。恐ろしい事にこの驚異的なまでに統一感を欠いた文体のお陰で作品の中身とかがどうでもよくなってしまい読み終えた後で「えーと、結局自分はどういう話を読まされたのだろう?」と自分が読んだばかりの作品の中身を上手く思い出せないという珍現象が発生する始末である。新人さんの文体って奥が深いなあ、と思わされた珍奇極まる一冊であった。 | ||||
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戦争の「後」にフォーカスした、全編に渡って重苦しい作品。 舞台は架空の世界ではあるが、ファンタジーやSFの要素は特に見当たらない。 「読む人全ての心揺さぶる」の謳い文句に偽りはなく、文章、ストーリーともに質が高い。 多彩なキャラクターもそれぞれ深く描写されており、生き生きとしている。 難点は、内容に対してページ数が圧倒的に足りていないところ。 連作短編風で視点キャラが多数、かつ長編としても成り立っていて、回想シーンも多いのに描写は重い。 これでこの分量に収めるのはどう考えても無茶だろう。 割を食っているのは展開面で、web小説もかくやという勢いで話が畳まれていくのはかなり面食らう。 またエピソード単位、全体ともに伏線不足で、何の話をしたいのか分からなくなることが多々ある。 せめて連作短編か長編かどちらかにもっと寄せて欲しかった。他は文句の付けようもないだけに少し残念。 | ||||
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