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パラレル



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【この小説が収録されている参考書籍】
パラレル
パラレル (文春文庫)

パラレルの評価: 4.33/5点 レビュー 24件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.33pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全21件 1~20 1/2ページ
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No.21:
(5pt)

ゆるめの純文学

ゆるめの純文学だがそこがいい。昨今の純文学はポリコレだらけで嫌気がさしていたが、ちょっと昔の純文学はこういう作品もあるのでいいなと思う。繰り返し読みたい。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.20:
(5pt)

断片的なイメージと記憶

どういえばいいのだろうこの小説。『パラレル』はある意味で実験的でもあり野心的な作品といえるのではないか。この作家特有の文体といえばそれまでだが、なんでもない日常的な時間が大きな起伏もなくとりとめもなくつづくスタイルはこの時代の感覚をみごとに浮き彫りにする。だが、本編ではそこに奇妙な仕掛けを施しているような気がするのだ。何故なら、ここでは今・大学時代・離婚前後といった三つの時系列における出来事やそれぞれのエピソードがパラレルに進行するように描かれているからだ。

今、といっても8月末から12月までの僅か4か月の物語にすぎないことではあるが、そこに大学時代と離婚前後の状況とエピソードが断片的に織り込まれ、すべてが同期するように措定されている。
そのことが、さらに読者の個人的な体験とかさなりあうように記憶を刺激し読むことの経験を更新し感覚を覚醒させる、という実験的なカラクリになっているように思えるのだ。
つまり、ここではそれぞれの出来事やエピソードを構築して一つの物語として固定的な世界を表すのではなく、断片的に提示されているだけで固定されたイメージが提供されるのではない。流動的とはいわないまでも、あえて読者の体験や記憶とかさねられるように考えられているのではないか。
たとえば、今の僕はこのように描写されている。

「またこういうゲームを作らないんですか」うん、なかなか難しくてね。そうですか、大変ですものね。きっと。
本当は、もうゲーム制作に携わりたくなかった。僕以外にも新作を発表しなくなったフリーのゲームデザイナーを何人かしっている。理由は様々だろう。売れないからと決めつけられて好きな作品を作らせてもらえない、労働に対してギャラが少ないなど。
「わがままいっているだけでしょう」リメイクの仕事をやめたと告げたとき、妻には手厳しくいわれたものだ。(本文p104)

大体が人は一日に三時間も働けば十分だとぼくは思っている。する事も特にないのに数あわせでいる奴は帰ったほうがましだし、何時間も集中力を持続できるはずがない。
携帯電話やメールに触れ、その便利さを実感する毎に思う。これで楽になって浮いた時間の分は、働かない方向に費やされればいいのに、世界は一向にそうならない。空いた時間を詰めて次の仕事を入れるようになっていくだけだ。
いつか三時間労働説を唱えたら津田は目を丸くして
「うん、おまえはそれが正しい」といった。僕の正しさと津田の正しさとあるということか。
そのころ津田もまさに幾晩もの寝泊りを繰り返していた。会社に三年休まずに勤め、胃に穴をあけて入院したりしていた。(本文p108)

別れてもなお連絡がきて往き来したりする元妻、そして新しい恋人・・・、いくつかのエピソードと相談ごとがあり何気ない時間が流れていく。
一方、顔面至上主義のプレイボーイ津田の日常はどうかといえば、いろいろな女の子とパラで付き合い、会社を立ち上げたり倒産したり、それなりに充実した生活ぶりなのだ。

「ラブか、ラブはもういい」津田は弱気にいうと焼き魚を箸でほぐしはじめた。
「最近は、ラブよりも弟子にあこがれる」とつづけた。弟子?そう、弟子。津田は持論を披露しはじめた。
「師匠と弟子は、世にあるあらゆる関係の中で、今やもっとも珍重すべきものだ。恋人は裏切るし、夫婦は干からびるし、家族だって持ち重りが過ぎる。部下だって上司だって、扱いってものがある。バイトやパートはすぐに帰ってしまうし、美人秘書にはべらぼうな高給を払わないといけないだろう」
「まあ、美人はおしなべてそうだね」だろう、というように頷くと津田はおかわりのつもりで空のジョッキを持ち上げた。(本文p112)

このように時代の気分は二人の感覚をとおしてみごとに描写され読者の記憶と交差する。まさしく、長嶋ワールド特有のスタイルといえそうだ。
だが、完成された1つの作品でさえ引用の対象とされブリコラージュされることをおもえば、この作品はたしかに読者の記憶や体験をとおして成り立つ不定形ともいうべき自由度をもつことを視野に入れた作品ともいえる。これほど魅惑的な試みがあるだろうか。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
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No.19:
(4pt)

折り合いをつけていく中年ライフ

中年になるということは、いろんなことに折り合いとつけることなのだと思う。もちろん、精力的にガンガンバリバリわが道をいく人はいる。しかし、大方のおっさんというものは、諦めに近いものを秘めたまま、周囲に調子を合せながら生きているような気がする。

長嶋有『パラレル』の主役、僕=向井七郎をみていると、あらためてそんな事を思い知らされる。

若い頃、ゲームデザイナーとして成功をおさめた向井は、今は第一線を退いている。妻に浮気をされ離婚を余儀なくされた向井は、私生活でも仕事でも力強さを感じない。流されているわけではないが、強い意志を表明することもない。大学時代の友人で会社社長 顔面至上主義の津田との交流は、そんな向井のひょろひょろとした生き方を際立たせる。

上昇志向が強くプレイボーイの津田を前に、男として嫉妬すらしない向井。向井は、自分を捨てた妻に対しても、やんわりとした愛着を持っていつつも、言葉にすることができない。

本作品は、そんな向井と中心に、向井の(元)妻、津田、津田と仲良しのキャバ嬢サオリらのある意味ゆるゆるの交流が描かれている。91年向井と津田の大学での出会いから、向井と妻の別離、その後が時制を前後して語られていく。過去からの積み重ねではなく、時がいったり来たりすることで、肩の力が抜けてしまうから不思議である。深刻さを胸にしまい込み、事実を受け止めてそれに折り合いをつけていく様は、あるべきおっさんライフとでも言おうか。うっとおしくならない距離感での友情は、うらやましくさえある。

そんな中、向井が元妻の身体を気遣い涙するシーンは良い。

「「生きててよかったよ、本当によかった」僕はぼろぼろ泣いていた。心から、出てきた言葉をいった。・・・生きていたことの安堵感と、僕のせいではなかったことの解放感とがない交ぜになった。」

思いのたけがポロっと出てしまうそんな瞬間である。

さて、本作品では、顔面至上主義の津田がキャバ嬢を口説くときのテクニックが披露されている。顔を褒めずに、靴を褒めると話がはずむそうなのだが、はたして如何だろうか。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.18:
(4pt)

確かな物を求めるのは

何かにつけて『確証』を求めてしまうのは人間の性、だけど、それが中々得られないのも現実。曖昧な感情から生まれる曖昧な人間関係を肯定も否定もしない、それを第三者的な視線で眺め、観察し続ける主人公の態度、というか心の有り様の描写が面白い。物語を象徴する『結婚式』は、確証にはなり得ないけれど曖昧な人間達にとっては必要なのかと思う。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.17:
(4pt)

読んで疲れないのがいいです

えーと。

なんていうか、淡々とするすると。

主人公の友人のモットーは、「なべてこの世はラブとジョブ」

でも、主人公はそんなパワーのかけらもなく。

結構どろどろしている世界のはずなのに、とにかく淡々としてるんですよねー

私もジョブはとにかく、ラブはもうお腹一杯なので、

これくらい淡々としているがいいです(笑

まあ、文庫で読んでも損はない本と思います。

とにかく、読んで疲れないのがいいです。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.16:
(5pt)

一番好きな長嶋作品

長嶋作品がいろいろな賞をとったり映画になったりしていろいろ読みましたが、一番好きです。
女からすると、実際にあんなことされたら(パラに走らされたり、いろいろ)許せん!と思うものの、そんな生き方うらやましくて、ページが進みました。出てくる本人たちは全然そんなふうには思ってないのでしょーが。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.15:
(5pt)

ゲームから人生を教わった人向け

これまでも著者のファンでしたが
本作はすこし違ったテイストです。
(離婚絡みなのはいつもと同じ)

パラレルとは並行のことかな、と
さほど深く考えずに話を読み始めました。

主人公は元ゲームデザイナー
ITベンチャー、キャバクラ、浮気、
身近なような遠いような話
時間を行ったり来たりしながら
ゆっくりと進んでいきます。

結婚や倒産、妊娠、離婚、
人生上のイベントもどこかゲーム上の話のような、
自分もそうですが、30代くらいファミコン世代の
リアリティだと思います。

読み終わって、なんとなくタイトルが腑に落ちました。

「僕はもう頭の中でゲームの一場面にしてしまっていた」
ぼくもそうしてしまっていたようです。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.14:
(4pt)

つるっと読める

「猛スピードで母は」を読んで期待していたら、ちょっと肩すかしを食らった感じ。ちょっとふつうのエンタメっぽい。ただ、たいしたことも起こらない(わざとらしいことが起こらない)わりには最後まで面白く読めた。イタリア料理店での主人公の感想、「ラグーのパッパルデッレってなんだ」というつっこみは面白かった。でも全体になんか印象が残らなかったなあ。感じいいんだけど……。宙ぶらりんなアラウンド30の男子にはお勧めするけど、それ以外の人にはどうなんだろうなあ。よくわからん。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.13:
(5pt)

オトコ心を覗き見★

ナンセンスなのに切ない、だけど可笑しくてあったか〜い気持ちになりました。

☆笑っちゃいました・・・夜のお姉様とのラブスキルがあるオトコは、普通の人と上手く恋愛できないコンプレックスを持っていること。

☆理解しました・・・オトコがメールの返信しない訳。

☆やっぱり好きか・・・ゲームとF1。

☆泣けるよ・・・オトコの友情。

☆可愛いじゃん・・・ラブは純愛が一番?

☆みんなそうなのか・・・オンナ心を分かろうとしない!

序段あたりの結婚式の場面で、主人公の親友である津田が
「結婚によって自分たちを守る文化を築いていってください」
とナイスなスピーチを披露する。
ラスト、主人公の七郎が別の結婚式で行うスピーチのアンチョコ
「円満の秘訣は信じること。ただもう無闇に信じるのです。屁理屈も理屈、邪道も道、腐れ縁も縁。」
は津田のそれを肉付けしたものだ。

当たり前だけど、結婚するということは、相手と死ぬまで添い遂げる覚悟が必要。
無闇に信じ切るというのは、逆説的でありながらも、ある意味極論ですね。
長嶋作品のなかでは、群を抜いて面白いと思います!(拍手)
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.12:
(5pt)

30代後半男性は必読

時間軸が目まぐるしく変わり、物語に深みを与えていく。軽いんだか真面目なんだか解らない登場人物達。ちょうど30代後半になった我々の周りに「いた」、あるいはまだ「いる」人達の物語。バブルを学生時代に体験し、そんな恩恵にあずかったわけでなく、就職しようとするときには、バブルがはじけ、就職難。そんな時代に生きた僕たちに贈られた、中年に差し掛かる手前の物語。ハットする言葉が散りばめられていて、ちょっとだらしない私たちには、最高の物語です。本当に最高な物語なので「Hot-Dog PRESS」なんか読んでいて「試みの地平線」なんかに涙した人は必読です。そんなあなたの物語ですから。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.11:
(5pt)

30男

人間はそんなに変わらない。
根底で自分に満足している人間はなおさら。

変えたい部分があり、追い求める結果はある。
一つのことを追いすぎるとほかの事は一切手に入れられないかもしれないし、
何にも興味を示せなければ、手に入れたものの大きさにすら気付けない。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.10:
(4pt)

三十男の今

なぜかもてまくる、ということを除けば、恋愛および仕事で転換期を迎えるすべての三十代の男が感情移入しやすい会話と思い出のオンパレード。どう逃げたってある「責任」を追わなければならない年齢に達してしまった、かつての青年たち。

物語ではなくエピソードが時間を無視して想起される書き方と、軽妙な会話が、危ないくらいに気持ちいい。人間関係も自分自身の過去もどうしようもなく「パラレル」で、今の僕とは交差しようがないようなところで、愚直なくらい楽観的に何かを信じることが切ない。

「F1の川井ちゃん」と聞いてはっと気付く人は読むべし。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.9:
(4pt)

誰にでもあてはまる日常だけど面白い!

バツ一男の日常の話。バツ一になるまでの色々とか

バツ一になってからの色々とかが、時間を今→昔→今って感じで

交差して(秩序だってはいない)書かれている。

男性からの視点で女性を見て描いているので読んでいて面白かった。

離婚前の妻への「お前が悪い悪い」(実際妻が不倫して

いたから悪いのだけど)みたいな気持ちとか女々しさが

男の人っぽいって思った。

ありきたりの日常なのに、これだけ退屈させないように

描けるってすごいって思う。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.8:
(4pt)

現代において上品であること

「ラブとジョブ」が主題、となればどうしても想起する小説がある。
’80年代のエネルギーが渦巻く村上龍の「テニスボーイの憂鬱」である。
村上は主人公にこんなようなモノローグをさせる。
「誰かを助けることも、誰かに助けられることもできはしない。できるのは
ただキラキラと輝くことだけだ」。
それから20年ほどが経ち、知りあいのキャバクラ嬢の結婚式でのスピーチとして、長島有は次のような地声を聴かせる。
「夫婦円満の秘訣は信じることです。信じるとは、なにか疑わしいことがないから信じるのではなくて、ただもう無闇に信じるのです」。
現代日本でもし上品に生きようと思ったら、長島の意見は傾聴すべきだ。上品さとはカッコいい話し方ができることではなく、ベンツはどの車種に限るといった商品情報に秀でていることではなく、ただ無闇に信じることができるというその一点において測られるべきだ。
時代の変化の(評者にとっては)好ましい変化を掬い取った意欲作である。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.7:
(5pt)

つぼにはまる。

これは、油断していると大変おもしろくて困りますよ。主人公の七郎は大変善良な感じがするが、長期別居の末離婚し、女に餓えていたりもする。その餓え方が小市民的で、女の自分も共感できる。
なべてこの世はラブとジョブ、というのが七郎の友人津田の言葉として出てくるが、七郎も津田も、少しずつラブともジョブともずれているところがいい。ラブとジョブといいながら、ラブでもジョブでもないライフがそこにあるような。でもそれこそがラブとジョブでもあるような。
 あと、北斗の拳とかテトリスとか出てくるので、1970年代生まれの人間は心くすぐられるかも。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.6:
(4pt)

男の結婚観

女が本音で語りだした時代、ガードが固かった男たちも、ぽつぽつと、語りだしたその奥底、相手のトランプをちょっと見ちゃったようで、「なあ~んだ、同じ物を待っているんだ」という男女のゲームへのテンションが、少し下がった読後感である。不倫して別れたはずの妻が復縁も匂わされるような近距離をうろうろされて、結局は「腐れ縁も縁のうち」というしめかたをしてしまった主人公、昔の男は、こんなに大人ではなかったような気もするが、とも思いつつ、時々、急所を刺されつつ、ところどころ撫であうような、妙に肌の感触のある、今後にさらなる期待を持たせる本だった。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.5:
(4pt)

孤独も傷心も、少しずつの再生も、パラレルで。

『ジャージの二人』のときは、じんわりくるおかしみより、妻に対する陰にこもった湿った感情が、いやに目について、どうもしっくりこなかったのですが、この『パラレル』は、とてもうまく、いろんな感情が消化されて描かれていると思いました。あるレベル以上の作品は、こちらが望まずともすうっと、作品の世界に引きこんでくれるような感じがします。
長嶋氏の持ち味である、ちょっととぼけたような雰囲気も、作品全体に行き渡っていて、決して明るい話ではないのに、深刻ぶらず、淡々と物事を受け止める主人公・七郎のようすが、丁寧に書き込まれています。友人の津田、元妻、キャバクラ嬢のサオリ、みんな、どこか醒めたような、それでいて人と繋がりたがっている感じ。サオリの孤独も、元妻の孤独も、七郎は感じているようですが、自分からは入り込んでいかないところなんか、七郎という人間をよく表していると思いました。
サオリの堕胎や、後の結婚。嫉妬に狂ったような赤い唇の女など、結構濃い描写もあるのですが、全体として、するするとした印象で、それなのに、人の様々な感情がこんなに伝わってくる作品は珍しいと感じました。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.4:
(5pt)

中年男のリアルな現実

芥川賞を受賞したときから、長嶋さんのことは気になっていたのですが、この「パラレル」で初めて著作を手にしました。
 そんなに期待しないで読み始めたのですが、すごく文章が巧くてびっくり。物語中、イベントらしいイベントは起こらないにも関わらず引き込まれてしまって読むのを止められませんでした。
 主人公は元ゲームクリエイターの七郎。×イチ、仕事無し。元妻からは何故か毎日メールが届く。声をかけてくれる知り合いはいるものの、仕事を再開する気にはまだなれない…。そんな冴えない中年男のリアルな生活が、七郎の一人称で淡々と語られます。
 過去と現在が交錯する構成で、学生時代からの友人・津田や元妻の恋愛も絡まりつつ…七郎は緩やかに緩やかに再生してゆく。その過程を見守っているのがとても心地よかったです。
 一番印象的だったのが、七郎が津田と、団地の屋上で朝を迎える場面。こうした局面を経験しながら、人は否応無しに大人に「ならされて」いくんだなぁ…としみじみしてしましました。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.3:
(5pt)

小さな宇宙で

主人公の名前がまず、いい。
「七郎」って聞くと、ある年齢以上の人は、深沢七郎を思い出すと思うけど、(実際、作中で本人も、父親はそこから名前をつけたって言ってるし)でも、深沢七郎を知らない人の方が多いと思うので、「七郎」って名前の響きは、なんだか大勢の兄弟の中の下のほうの、のんびりしたというか、どうでもいいっていうか、なんかそんな感じ。
七郎は、成り行きでなんとなくゲームディザイナーになって、
ある程度ヒットしたゲームをつくり、今はそのおかげで食っている無職の三十代の男。
会社をやめたのは、今の世の中の経済について批判的な思いがあったためだが、一昔前の時代の人とは違い、声高にその意見を主張したりしない。
ただひとりの親友は、対照的に、がむしゃらに経済的成功を追及し、一度は社員50人から抱える会社の社長になるが、ついには、倒産してしまう。
しかし、彼もまた、どこか深刻さに影がなく、飄々と時代を生きているような感じを受ける。
この二人を軸に、主人公の離婚した元妻や、親友の付き合っているキャバクラ嬢、そして弟子(この、弟子という言葉は、男の生き方について一つのテーマにもなっていて、この辺は女の私には絶対ない発想に思えて面白い)というべき存在の男たち。
彼らが絡みあい、交錯しつつ、でも淡々と物語が語られていく。
この語り口が作者独自の世界で、とてもいい。
脱力系というか、ちいさな宇宙観というか。
「神は細部に宿る」って諺もあるくらいだから、
人生の大事な部分は、こういう些細な生活のディテールにあるんだと、つくづく思わせてくれます。
「結婚は文化である」とか、「恋人でも、家族でも、友達でもない、弟子という存在」とか、
それぞれの登場人物が何気なく言う台詞は、読んだ人それぞれの自分の今の心境に、すとんと胸におちてくるものが、一杯つまってると思う。
しばらくして、読み返すと、今回とはまた違ったところでぐっと来るものがありそうだし。
きっとずっとそばに置きたくなる、お気に入りの一冊になると思います。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602
No.2:
(5pt)

金八先生がこの小説には登場します

妻と別れてぷらぷらしてる元ゲームデザイナーの向井七郎、向井の大学以来の友人で社長の津田。二人ともいい味の駄目人間である。その度合いは町田康と張るくらい。
いとおしくなる人々は沢山描かれている。また著者は男性なのだが、女性か男性か分らない。そのフラットな語り口で90年代以降ののっぺりとして滑稽な空間からこぼれてしまいそうな破片を拾いあげ、描き出す。
結婚と離婚、加害者意識と被害者意識etcそういったテーマも自然と見つかるだろうが、長嶋有さんの小説はもっと私たちに「ひっかかる」小物が散りばめられていて、大味な小説では表現されない、戸惑いやもどかしさを私たちにもたらしてくれる。
もし興味が湧いたらポプラ社のサイト内の「ポプラビーチ」の連載『電化製品列伝』を読んでみるといいかもしれません。長嶋さんの著書に登場する電化製品について、ときに作品と絡めて、ときに時代的なものを感じさせながら綴られています。バックナンバーも読めます。長嶋さんのエッセイとして、そして「電化製品」のアーカイヴとして機能していて、いろんな意味で貴重だと思います。
「パラレル」と並行して読むと楽しさもひとしおです。
パラレルAmazon書評・レビュー:パラレルより
4163230602

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