(短編集)
中禅寺湖心中事件
- 日光 (27)
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本書は、1997年5月に飛天文庫から出版されたものです。この初出版は、1972年1月にサンケイ新聞社出版局です。それは「歪んだ空白」含めた6編の短編集だったのですが、この飛天文庫版には、それは含まれていません。サンケイ新聞社出版局のものは、現在、入手不可能のようです。 「中禅寺湖心中事件」 タイトルは心中事件となっているが、この話は、女が信頼していた男の裏切りに対して殺意を抱いた話です。旧姓、尾杉紀美子は毎年、同月同日に中禅寺湖畔のKホテルに宿泊していた。その目的は、ある男と再会するためだった。10年前、紀美子は、林幹彦と恋に落ちた。彼は、日本人離れした身長で鼻筋が通り、顔立ちが整っていた。林は、終戦後に母親が親しくなったA国兵の間に生まれた子供だった。当時は、世間からは混血とか言われ、排除されている時代で、旧家の尾杉家は紀美子と林の結婚など許さない。二人は絶望し、生きていく希望を捨て、中禅寺湖畔で心中を計画する。ところが、これから死のうとするのに、林は売店で帰りのための弁当と飲み物を買った。あいにく二人の心中は失敗に終わる。だが紀美子は、林の考えが分かった。大量の睡眠薬を紀美子に飲ませ、自分だけ生きようとした事を。林は、家族を連れて、昔の女との記憶の場所へ旅行に来た。そこで、林は、紀美子と再会する。林は、その後家庭を持ったが、一緒にいるだけで辟易する妻との生活だった。今も美しい紀美子と、家族に隠れ二人で話しているうちに林は、失った紀美子がどれだけ大切だったかを、思い知るのである。林は、家庭を捨てて紀美子ともう一度やり直したいと都合の良いことを考える。帰りの日、フロントから林に紀美子のメッセージが届けられた。メッセージには「残念ですけど、これから帰ります。いろは坂を下って」と書いてあった。林は、慌てて追いかける。早朝、路面も凍る急坂で、スピードを上げ運転する林の車は、急カーブを曲がりきれず、ガードレールを突き破って、谷底に落ちた。その時、紀美子は、林が事故を起こした場所とは、正反対の場所にいたのだ。紀美子は、知っていた、林が猛スピードで追いかけて来るだろうと。自分を裏切った男への復讐なのだ。この事故は、あくまでも事故として扱われた。 「失われた岩壁」 北アルプスは、夏の最盛期になると日本中の登山者が集まってくる。G岳は、北アルプスの南端に位置する、アルプス屈指の高峰である。そのG岳山荘は、唯一登山者の宿で圧倒的な人数の登山者が訪れる。満員だからと言って断ることはしない。断れば人命に関わるからだ。山荘とは言っても、最大で2000人を収容できる巨大な山荘だ。北アルプスの登山口、長野県O町で村木英二は飲食店(ラーメン店)を経営していた。村木は盗品の密売や詐欺で10年間、刑務所で暮らした。地元へ帰ってラーメン店を始めたのだ。仕事をしながら一つの考えが浮かんだ。村木は、前橋刑務所のムショ仲間だった、強盗犯の川瀬達男と杉浦兵馬を、身元引受人として受け入れた。田舎に連れて来られた、川瀬と杉浦は、早く大都会へ戻って大きな稼ぎをしたかった。そんな頃を見計らって、タイミング良く、二人に大きな計画を打ち明けた。それは、G岳山荘の一週間分の売上金を強盗しようと言うものだ。山荘では、一週間に一度、犬と共に大金を持って下山して来る。そこには護衛などいない事を、村木は知っていた。村木は地元の生まれだから、登山の経験はある。ところが川瀬と杉浦にはない。それから三人の奇妙な特訓が始まった。高度差30メートル程の小さな岩壁で、懸垂下降(アップザイレン)やハーケンの技術およびザイルの使い方などを必死に訓練したのだ。三人は、とうとう売上金が搬送される気配を悟った。しかし、山は、彼ら三人を全く受け付けなかった。 「殺意中心世帯」 人間は一度、猜疑心を持ち始めると夫婦といえども全て悪い方向へ解釈するようになってしまうものだ。宮地は就寝中、少し大きな地震がきた時、放っておいてもすぐに収まるだろうと思った。ところが結婚祝いに貰った重さ6キロもある青銅の壺が棚から落ちてきた。また別の日、入浴中湯船で気を失ってしまった。危うく命は助かったが調べると浴室の煙突にすずめの巣ができたため、ガスが不完全燃焼したことが分かった。何でもない事故だが宮地は妻の弓子が、自分に殺意を持っているのではないかと猜疑心で一杯になる。会社へ出勤する振りをして妻の平日の行動を探ってみる。するとすぐ、宮地が出勤してから同じ団地に住む50才を超える井野という男の部屋に行っている事が分かった。なんとか妻の尻尾を掴んでやろうと計画するが、なかなかその現場を押さえることが出来ずに苦悶の日々が続く。その後は、何も無く平穏な日を過ごせた。ところが、なんと弓子が妊娠し出産した。人間の赤ちゃんなんて、みんな生まれた時は猿みたいな顔をしているものだ。ところが宮地は、それは井野の子供だと確信してしまう。そもそも、人とすれ違えば相手が思わず振り向いてしまうほど美貌な弓子が、平凡で何でもない宮地と一回の見合いで結婚した理由も怪しく思うようになってくる。森村氏は、数々宮地が抱いた猜疑の気持ちの謎解きをしてくれます。そんな事で美貌の妻を疑っていたのかと思える結末です。 「獣の償い」 フーテンの寅さんが登場する日本の名映画があるが、森村氏が書いた、都内最大の繁華街に集まる“フーテン”は、映画とはほど遠い人間たちの集まりでした。希望を抱いて集団就職で上京した竹田伸二は、ベルトコンベヤーを見つめて暮らす仕事が不満だった。もっと他に自分の能力を発揮できる職場があるはずだと思い転職する。自分を高く評価してくれる会社が有るだろうと面接を繰り返すが、思う様にいかない。結局は、現在より低いところへ行くのだ。その後は、お決まりのコースで、どんどん低い方へ流れていく。竹田は、低い方へ流れ流れ、大都会の最大級の繁華街で立派なフーテンになってしまった。大都会にはフーテンが多い。その中には組織(派閥)があるのだ。竹田は、この繁華街でフーテンとなった時に、見知らぬ男から一本のタバコを貰った。その男は、この繁華街で最大の派閥のリーダー服部だった。好き嫌いも無しに竹田は、服部のグループの一員として構成されてしまった。フーテン生活をしていると、ある時、服部グループの福田が、一台のポンコツ車を何処からかもってきた。服部は、その車でガールハントしようと言うのだ。しかし、車もポンコツで見てくれの悪い男たちに女性たちは鼻もかけない。収穫の無いまま帰る途中に、エンジントラブルで立ち往生している女性と遭遇する。車を修理する様に装い、服部は、その女性を強姦しようと提案する。人目も有るので服部は竹田に見張り役を命じる。服部は用が済んだら、竹田に「おい代わってやる。お前も行け」と言う。森村氏も、かなりおぞましい話にしたものだ。 「結婚株式会社」 現在では、カタカナのお洒落な名前の会社ばかりだが、当時、それらの会社は結婚相談所と呼ばれていた。さらに、民間だけでなく行政までが、そう言った窓口を持つほどだった。本作を読んで今も変わらないなあと思うことは“サクラ”の存在である。その上、売春の温床になっているからタチが悪い。この業界で多数乱立する結婚相談所の中で、トップの位置にいる“東都結婚サロン”の社長、重富好雄のところへ鈴木京子と名乗る妙なお客が来た。結婚相談所とは表看板で、実は、高級コールガールの斡旋を主にしていた重富は、その依頼に驚いた。京子の希望する、男の条件が全く重富と同じだったからだ。重富は既婚で正子という妻がいる。その結びつきも奇妙なものだった。正子には好きな男がいるが、恋人がいて見向きもしてくれない。なんとか、その二人を別れさせて欲しいと言うのだ。そんな事は、重富にとって、お安い御用だ。人相の悪い人間を雇って、女のヒモを装い男を脅した。男は震えあがり、女と別れた。正子の注文は、果たしたが、正子と男は結び付かなかった。それどころか、正子は重富に興味を抱き始めた。それが切掛けとなり交際が始まり、結婚へとゴールしたのだ。暫くして、別れさせた女が自殺した事を知が、別に罪の意識は無い。初めて京子が会社に来た時、何処かで会った気がした。京子の履歴を聞くと、莫大な資産が有った。それは5000万円ほどの株券と杉並区に有る土地と合わせて3億円ほどの資産だったのだ。重富は、多くの男女カップルを繋ぎ合わせ、自らも男女の恋愛にも豊富な経験があった。だが、京子の魅力に取り付かれてしまった。そこで邪魔になったのが、妻、正子だ。この時は、まだ、重富の策略によって自殺させられた女の妹だという事を知らない。復讐の物語が始まる。 | ||||
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タイトルとカバー絵の美しい女性に惹かれて手にとったもの。 表題作の他、『失われた岩壁』『殺意中心世帯』『獣の代償』『結婚株式会社』の四編を収めた短編集。 1997年発行だが、作品はかなり古いものかと思う。雑誌に発表のまま単行本化されなかったものかも知れない。 しかし文章は彫琢された端正なもので、忙しい流行作家がやっつけで書きなぐったようなスカスカのものとは違う、好感が持てる良心的な文章である。 タイトル作を読むとよく取材されているようで、自分が日光周辺を一緒に歩いているような錯覚さえ覚える。登場人物が乗った車の車種などが指定されていないので、今日読んでも最新作のような印象を受けるが、よく読むと時代的にずいぶん前に書かれたようで、それはほかの作にも言えるもの。 風俗を明確に書かなかったために時間の風化に耐えて、今読んでも古臭い印象がなく面白く読める。 時代背景としてわざと風俗的なものを取り入れる場合もあるが、本作は意図的にそれを避けることで古びることなく読者を楽しませてくれる短編集である。 | ||||
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