(アンソロジー)

世界傑作推理12選&ONE



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初公開日(参考)1986年11月
分類

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世界傑作推理12選&ONE (光文社文庫)

1986年11月20日 世界傑作推理12選&ONE (光文社文庫)

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世界傑作推理12選&ONEの総合評価:7.00/10点レビュー 1件。-ランク


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No.1:
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温故知新とはまさにこのこと!

クイーンはいくつものアンソロジーを編んでおり、その中に『黄金の12』というものがあるが、本書はなんと日本読者のために編まれた新たな12編に自身の短編1編を加えたものだ。これだけで生前のクイーンがいかに親日家だったかが推し量れる。

そして恐らくは来日したときに交流した日本ミステリ界の関係者たちとの歓談から日本人読者が古今東西のミステリを満遍なく楽しむ気質であることを察したのであろう、本書は古典から編まれた1977年当時の現代ミステリまで、更にアメリカのみならず西欧のミステリも対象に幅広く短編が選出されている。

まず開巻一番の作品はエドナ・セント・ヴィンセント・ミレーの「『魚捕り猫』亭の殺人」だが、これは『犯罪文学傑作選』に選出された「『シャ・キ・ペーシュ』亭の殺人」という短編で、既読済みなので敢えてここでは触れないでおく。

その題名はこの作家よりも別の作家の雄名作を想起するのではないか。「世にも危険なゲーム」はギャビン・ライアルの長編ではなくリチャード・コンルの短編だ。
マンハント物は今でも数多く書かれており、様々な趣向が凝らされてはいるものの、だいたい生き残りを賭けた鬼気迫る戦いであったり、強者どもが一堂に会してバトルを繰り広げるゼロサムゲームであったりと概ね構成は似ている。本作も全く以てその域を出ていないが、なんと本作が書かれたのは1925年なのだ。前掲のライアルの近似題名作が刊行されたのが1963年となんと40年弱も先んじている。つまり本作はこのサバイバルゲーム物の源流なのだ。
まさに命を懸けたチェスゲームが繰り広げられる。その内容は長編ネタといっていいほど濃いもので短い話の中に凝縮されており実に面白い。
最後の結末も洒落ており、今なお鑑賞に値する傑作だ。

アガサ・クリスティは英国ミステリの女王だが、本書収録の「うぐいす荘」は本格ミステリではなく、サスペンス物だ。
クリスティによる青ひげ譚。
奇妙な余韻が残る作品だ。

次の2編は題名のみかなり前から知っていた作品だ。

今なお現代作家がその真相を解き明かそうと数々の著作が出されている切り裂きジャック事件をモチーフにしたのがトマス・バークの「オッターモール氏の手」だ。
これは明らかに切り裂きジャック事件をモチーフにしているというよりも作者なりの切り裂きジャック事件の犯人の推理の披露ではないか。今に通ずるサイコパスの怖さを思い知らされる1編だ。

そしてヒュー・ウォールポールの「銀の仮面」は1933年に書かれた古典ではあるが、その内容は現代に通ずる怖さを持っている。
そう、これはアカデミー賞を受賞したある有名な作品そのものだ。このモチーフは荒木飛呂彦氏もマンガで扱っていた。本当の悪党は微笑みながらやってくる。そして善人はいつの時代も悪人たちの餌食にされるのだということをまざまざと描く。

ドロシー・L・セイヤーズといえばピーター卿シリーズだが、本書収録の「疑惑」はノンシリーズの1編だ。
イギリスの古典には毒殺物が多い。それはかつて毒殺魔と呼ばれる稀代の殺人鬼、しかも医師だったり、婦人だったりと、とても殺人を犯しそうにない人物が行っていたセンセーションなギャップがよほどミステリ作家陣にも受けたのではないだろうか。
本作もまたその毒殺魔、いや毒殺婦の系譜に連なる作品になる。少ない登場人物で繰り広げられる疑惑劇だが、今ならば特に意外な展開ではないオーソドックスな作品だ。

一方ベン・ヘクトの「情熱なき犯罪」は完全犯罪がほんの些細なことで崩れるという典型的な話だが、こちらは捻りが実に効いている。
いやあ、完全犯罪がもろくも崩れ去る小説をこれまでいくつも読んできたが、最後にそれが自分を容疑のど真ん中に陥るという反転の鮮やかさは技巧の冴えを感じる。

次のウィルバー・D・スティールの「人殺しの青」は曰く付きの馬を手に入れた牧場一家に訪れた悲劇を扱った作品だ。
人を殺して手に入れた馬は実は人を襲う荒くれ馬だという反転からさらに作者はもう1つ反転を仕掛ける。田舎の閉鎖された空間では何でもないことが狂気を生み出すということだろうか。

まさかこの作品が読めようとは思わなかった。世評高いスタンリー・エリンの「特別料理」はいわゆる乱歩が称した「奇妙な味」の代表作だ。
実に上手い短編である。正直題名からどんな結末か解るような内容だが、エリンはそれを状況を仄めかせ、そして敢えて書かないことで読者に行間を読ませ、「特別料理」の正体がなんであるかを悟らせる。エリンはこの作品でエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジンのコンテストで最優秀処女作特別賞を獲ったとのことだが、まさにそれに相応しい1編だ。

シャーロット・アームストロングの「敵」は『黄金の13/現代篇』で既読済みなので感想は割愛する。

どちらかというと私立探偵小説作家の色合いが強いジョー・ゴアーズだが、クイーンのお眼鏡に適ったのが「ダール アイ ラブ ユ」だ。
1962年の作品のため、パソコン通信やインターネットがない時代であるため、情報のやり取りの手段はごく一部の機関にあったテレタイプであるが、本作の内容は現代に通ずるものだ。
突然夜中に一通の入電があり、それは彼のことを慕う女性からの物。思わず浮き立つチャーリーは相手の気を引こうとなんと上司を失脚させる暴挙に出る。
それが原因で上司が散弾銃で自殺すると彼女の居場所を必死になって突き止めるが・・・。
ある意味当時の時代を考えれば本作は意外な結末を持ったSFだろう。
う~ん、この内容はSNSや出会い系サイトなどが発展した今こそ実に身に染みる作品ではないだろうか。

『サイコ』で有名なロバート・ブロックの「ごらん、あの走りっぷりを」はある脚本家の手記で語られる作品だ。彼は統合失調症なのか被害妄想の気がある。彼は精神科医のカウンセリングを受けているが自分が不当に虐げられていると思ってやまない。また彼は女優の妻を持っているが、彼女のことも疑っている。脚本家とは結び付きそうもない奇妙な題名は彼が思い出した童謡『三匹のめくらねずみ』の中の歌詞の一節である。
今となっては特に珍しくない狂える男の末路である。

最後のエラリイ・クイーン自身の短編「三人の未亡人」は『クイーン検察局』所収の「三人の寡婦」で既読済みなのでここでは感想は省くことにする。


エラリー・クイーンが―というよりも既に片割れのマンフレッド・リーは鬼籍に入っていたため、正しくはフレデリック・ダネイだが―来日して日本のミステリ作家と交流を持ち、親日家になったことは有名で、その後3冊もの日本のミステリ作家の作品で傑作選を刊行するまでになった。
幸いにして私はそれを読むことが叶ったが、更に日本の読者のために海外ミステリ作家の12選を編んだことは偶然古本屋で見かけるまで知らなかった。調べてみると日本のために組んだ独自のアンソロジーは『日本文芸推理12選&ONE』と『新世界傑作推理12選』があるようだ。

パズラー作家のイメージがあるクイーンだが、本書では本格ミステリに拘泥せず、スリラー、ホラー、奇妙な味系と多種多彩な作品が収録されており、クイーンのアンソロジストとしての腕前を存分に披露する形となっている。

更に年代も幅広く、古くは1923年の物から新しいもので1973年と50年に亘る作品群の中からセレクトされている。

但しここに収録されている作家はどちらかと云えばクイーンの数あるアンソロジーでは常連ともいうべき作家が多く、クリスティ、セイヤーズ、ベン・ヘクト、エリン、アームストロング、ゴアーズ、ロバート・ブロックがそれに当たる。また全てが初選出作ではなく、3作が私にとって既読の作品であった。

但し、本書はこれまでのアンソロジーの中でもかなりレベルの高さを誇った。従ってベスト選出には実に迷わされた。

例えばベン・ヘクトの「情熱なき犯罪」は殺人犯がある特性を活かして、偽装工作を細密にしていくのが面白いし、その工作が自分のミスで逆に自分の犯行動機を裏付ける証拠になってしまう反転が見事だ。

また世評高いスタンリー・エリンの「特別料理」も噂に違わぬ傑作だ。
今まで食べたこともない極上の「特別料理」の正体は、さすがに似たような作品が流布している現代では容易に想像できるが、エリンの優れたところは敢えて核心に触れず、周囲の状況を主人公2人の会話で仄めかせ、徐々に読者に悟らせていくところにある。まさに引き算が絶妙になされた作品なのだ。

そんな傑作ぞろいの中で選んだベストは2つ。リチャード・コンルの「世にも危険なゲーム」だ。もはや数多書かれたマンハント物だが、実は1925年に書かれた本作がそれらの源流なのだろう。そして原点である本作は今なお読むに値するほど趣向が凝らされている。

普通の狩りでは満足しなくなった狩猟狂の将軍が人間を狩ることに快感を覚え、わざと獲物が自分が所有する島に迷い込むように暗闇の灯火を照らして島の岸壁に激突させ、島に流れ着いた船員たちを捕えて、獲物にする。しかもその方法は3時間先に逃げさせ、将軍が彼らを追って狩るというもの。3日間逃げおおせたら自由を与えるが、将軍は切羽詰まると犬を放って探すなど、決して獲物を逃がそうとはしない。

そんな殺人ゲームに巻き込まれた冒険家の1対1の戦いはわずか40ページ足らずの作品で語るには読み応えのある内容で短編であるのが勿体ないくらいだ。
最後に対峙する二人の決闘シーンの結末の付け方も実に上手い省略の仕方で逆に勝負の行方が際立ち、カタルシスを感じる。作者のコンルは本作含め2作しかミステリーを書いていないというから驚きだ。

もう1作はヒュー・ウォールポールの「銀の仮面」だ。
まさにアカデミー賞を受賞した映画と同じような侵略譚が繰り広げられる。その入り込み方が実に巧みでマダムの人の良さに上手く付け入り、あれよあれよと取り入って監禁にまで至る様は実に恐ろしい。昨今問題になった洗脳事件を彷彿とさせる。

今なお脈々と続くマンハント物、ゼロサムゲーム物の原典を生み出した偉大なる先達と現代社会に今なお蔓延る侵食する一家の恐ろしさを生み出した先達に敬意を払ってこれら2作品をベストとする。

現在エラリー・クイーン作品の再評価が始まっており、これまでの作品の新訳が精力的に進んでいる。
角川文庫の国名シリーズの新訳版が表紙を美男子化されたクイーンを配することで購買層が広がり、そして今は早川書房がライツヴィルシリーズまでが新訳刊行されており、この私も長らく絶版で手に入らなかった作品を新訳で入手できる恩恵に預かっている。

一方アンソロジーも東京創元社が復刊フェアで折に触れ復刊しており、これまた恩恵に預かっている。
しかしこの光文社文庫で刊行されたクイーンのアンソロジーはそのような兆候は全く見えない。

本格ミステリ作家としてのクイーンの再評価が高まる今、アンソロジストとしてのクイーンにもスポットライトを当て、復刊してはどうだろうか?

クイーン自身の評価ではなく、彼が紹介した今でも読むに堪えうる傑作がこのまま埋もれていくことは何とも惜しいのだ。

ミステリの遺産を、文化を継承していくためにも節目節目で復刊活動はされなければならないだろう。

しばらくクイーンのアンソロジーからは離れていたが、本書を読むことでまた再燃してしまった。次はもう1つの『新世界傑作推理12選』にも可能であれば手を伸ばしたいと思う。

▼以下、ネタバレ感想

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