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つながれた山羊
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つながれた山羊の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.33pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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無知をさらけ出すようで恥ずかしいのだが、ハードボイルド小説自体をもともと読んだ事のない門外漢である。 主人公ジョン・カディは年齢設定からして著者ジェレマイア・ヒーリー(1948-2014)と同じく、1940年代後半に生まれたのではないかと推測するが、ベトナム戦争で「この世のほかの地獄」を体験し、そして1980年代後半では私立探偵として、惨殺された戦友の死に復讐を…という展開だが、彼の生きている世界はザラザラした手触りで、それでいて中年男性の女性との関わりと、人生のいくつも段階を越えてきた人間が、それと逃げることなく、ただし、社会の歯車としてのしんどさにまつわりつかれながらのいがらっぽさをかもし出していた。 日本なら私小説になるような中年男性の悲哀ではないかと思うが(もっともそれでは大した話にはなりそうもないけれども)、それを犯罪とベトナム戦争という歴史や社会性の中で展開していくのがアメリカ文化というものか。 ガツンと来る一節がある。 165頁「私が共感し、そのためなら死んでもいいと思った大統領が、われわれをある国の戦争に投げ込んだ。我々の一人として、共感もしていなければ、そんな所で死ぬべきではない国の戦争にだ」 日本で冷戦後期に生まれた筆者は、アメリカ人が自国の歴史の中の戦争にこのような感慨を持っていることを知らなかった。ベトナム戦争に対しての結論や要約、国家元首に対しての端的な論理的批判を表明していることは明快な気分にさせられる。 日本は爽快で無自覚にこうした異議申し立てが言える点検作業を、第二次世界大戦について、それが二世代を経過した後ですらきちんと出来ているとは言いがたい。 アメリカは戦争をし続けている国であるから、そうしなければアメリカは「次の戦争」に取り掛かる事も出来ないかもしれない。(そうでなければ、自国民を他国の戦場に送り出す大義名分が立たないので) ベトナム戦争が影を落としているこの作品は、米軍内部で起きている腐敗や、ベトナム人の妻を持ったペンタゴン勤務の軍人など、多彩で多様な米国社会の複雑系を舞台に、かといって変に深刻に社会派を気取ることなく、女性を愛し、戦友の死に復讐し、過去の戦争の記憶と直面する、きわめてまっとうな(ただし一匹狼タイプの)アメリカン・ヒーローの物語だった。 彼は過去も現在も、全力で駆け抜けている。それは古今東西、人類なら誰でも共感する真摯さだと思う。 それが誰に喝采される訳でもない所が、さらにアメリカンであり、かつ、ハードボイルドでもあるのだろうけれども。 読んで酩酊するような重たい香気があった。 人生の重たさを知った後の方なら、けっこう共感できるのではないかと思う。 少年がこれを読んでも重苦しいばかりで不可解かもしれない(と筆者はかつての自分自身の感覚を思い出しつつ思うのだが)ハードボイルドは、中年の文学かも・・・という訳で、日本風に言えば厄年を越えたあたりの方々、どないだす。おすすめです。 | ||||
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ベトナム戦争中の親友だったアル・サックスが何者かに惨殺された。ボストンの私立探偵ジョン・カディは親友の仇を討つべく独自の調査を始めた。アルを殺したのは誰なのか? アルの敵は何者なのか? 残虐な殺しの手口から相手は尋常ではない人間に思える。手掛かりはアルのベトナム戦争時代を洗い直すこと。しかし、それはカディ自身も振り返りたくない過去を見つめさせることになる。カディはペンタゴンに赴き、戦争時代の軍事資料を読み直す。そのファイルに登場する人名を想い起こしていくカディ。だが、カディ自身も思わぬ敵から命を狙われていく。 ベトナム後遺症を持つ探偵の姿を全面的に描いたハードボイルドの傑作。この作品によってジョン・カディ・シリーズはリアルな秀作ハードボイルドのシリーズとなった。ベトナム戦争の恐ろしいエピソードは強烈だ。親友の仇を討つ為に、計画的殺人という手段を選んだ探偵。この設定も異色で興味深いテーマだ。日常生活の非常に丹念な描き方は、他のハードボイルドよりも群を抜いている。克明な作品だ。 | ||||
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ベトナム帰りの中年私立探偵。「私」の一人称。 ジョン・カディのシリーズに目新しい要素は何もありませんが、作者は敗北者の悲しみ、生きていくことの辛さを、真正面から描ききるだけの筆力がある人です。 ほんのチョイ役にいたるまで印象的な人物が配置されているのはその表れでしょう。 複数の同時進行する事件の処理も上手いです。 ミステリでは、「実は二つの事件は繋がっていた!」というお約束に陥ることが多いのですが、ヒーリイはテーマを深く掘り下げるために、両事件を合わせ鏡のように対比させています。 この処置がラストをより一層感慨深いものにしています。 | ||||
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