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トーテム



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トーテムの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

これが完全版?

本作は一度1979年に出版されたが改稿と短縮を余儀なくされたものであり、それを1994年にリライトされた完全版である。

一作目がヴァイオレンス・アクション小説ならば二作目の本書はパニック・ホラー小説と趣をがらりと変えている。

かつて鉱山町として栄えた人口二万人ほどの町、そこにはかつてヒッピーたちと村人との間に死者が出るという忌まわしい過去があった。そして町の人々から信頼を得ている警察署長、そんな町に起こった雄牛が血の一滴も残すことないまま切り裂かれる怪事が起こる。やがて同種の被害が住民たちの間にも起こっていく。

とまあ、典型的なハリウッド映画的パニック物語である。
デビュー作『一人だけの軍隊』も実際に『ランボー』として映画化されたが、マレルという作家は実に映画向きの題材を扱う。

狂犬病と思しき症状を呈した犬が見つかり、そして野獣のようになった少年が現れ、それを皮切りに襲われた人々が同じような病に侵され、徐々に恐怖が町全体を覆っていく。奮闘するのはデトロイトから来た警察署長ネイサン・スローター。

そこに絡むのが編集長の命令で過去を回顧する記事を題材を訪ねに来たしがないアル中の雑誌記者ゴードン・ダンラップ。

そしてポッターフィールドを長く統治する市長パーソンズ。

街の治安を守ろうと孤軍奮闘する者と、落ちぶれた雑誌記者から何かスクープを手に入れて再起を図るジャーナリストと1970年代に起きたヒッピーとの抗争という忌まわしき過去を吹っ切り、安定を維持しようとする者。
それぞれがそれぞれの事情を抱えながら、彼ら3人を中心に物語は進行する。

そんな物語にサブストーリーとして加わるのが1960年代のフラワームーヴメント。ヒッピーのリーダー、クイラーが1970年にポッターフィールドの山奥に50エーカーもの広大な土地を購入して理想郷を築く。
彼らはしかし村人たちに厭われ、次第に忘れられていく。このサブストーリーが物語の終盤に大きくかかわっていく。

さてフラワームーヴメントに翳を落とすのはやはりヴェトナム戦争だ。デビュー作『一人だけの軍隊』もまたヴェトナム戦争帰りの軍人の物語。マレルはヴェトナム戦争を自身の小説のテーマとしているようだ。
この辺は彼の作品を読み進むうちにおいおい判ってくることだろう。

さて元々1979年発表の作品だが、その頃の小説の特徴なのか物語の合間合間に挿入されるエピソードが実に色濃い。
それは端役にしか過ぎない登場人物がポッターフィールドという田舎町に住むようになった経緯の話だったり、その町の歴史だったり、町にある文化財にまつわる逸話、狂犬病に関する知識だったりと様々だ。しかもその内容が箸休め程度ではなく、突然に延々と10ページも割かれたり、はたまた1章を費やしたりとやたらに長い。しかしそれでも内容は濃いため、実に読ませる。まるでサーガを読んでいるような気分になる。
改稿と短縮を余儀なくされたのはこの辺のエピソードの数々だったのかもしれない。

特に作者の創作であろうポッターフィールドの成り立ちが非常に読ませる。恐らくどこにでも存在するアメリカの僻地の旧鉱山町がモデルになっているのだろうが、マレルはその歴史を克明に描く。恰も実在の町であるかのごとく詳細に書く。

そういえば『一人だけの軍隊』の舞台もアメリカのマディソン郡にある片田舎の閉鎖的な町が舞台だった。そんな排他的な土地に紛れ込んだヒッピーという得体のしれない存在は何も危害を加えなくとも住民たちにとっては脅威だった。
そんな相互理解が及ばない状況だったからこそ起きた殺戮の幕開け。つまりマレルは閉鎖的な町も物語の主要因として考えているのだろう。だからこそできる限り詳細に描くのか。

本作で印象的なのは主人公の警察署長スローターだ。“屠殺者”という意味のラストネームで、大柄な体躯を持ち、デトロイト警察を引退して牧場を開こうとポッターフィールドに引っ越し、結局警察職に復帰した男。射撃の腕前は一流で、部下の信頼も厚い。いわゆる理想の上司なのだが、彼が臆病であることをひたすら隠しているところに興味を惹かれた。
彼はある事件(コンビニ強盗を働いた少年に散弾銃で撃たれ、瀕死の重傷を負った)で恐怖心を抱き、実は警察稼業を辞めて山奥で牧場でもやろうかと逃げてきた男だったのだ。しかし警察官しかしたことのない男には畜産業は無理で、周囲に求められるがままに警官に復帰したのだった。そんな彼の本当の姿を知られずに今までタフで理解ある、部下からの信望の厚い警察署長を務めてきたのだった。
つまりこのようなパニック小説で主役を張る人物が全て万能ではないのだということをマレルなりに皮肉っているのかもしれない。

さて町を恐怖のどん底に陥れた未知の狂犬病。その発祥の源はヒッピーのリーダー、クイラーが築いた理想郷のさらに奥、昔鉱山町だった跡地にあった。一念発起した住民たちはそこを一掃しようと乗り出していく。さらに途中にリーダーシップを放っていたスローターは市長パーソンズの策略で留置場に入れられてしまう、となかなか面白い展開を見せる。

(以下ネタバレへ)


▼以下、ネタバレ感想

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