帝都つくもがたり
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どうしても表紙イラストでストーリーを推測しがちで。きっと若者向けのなんだろなぁと、買うのをためらっていましたが、50代の私でもなかなか楽しめるものでした。それぞれは短編なんだけど、登場人物の思考背景がつながっていて。思わずくすっとする会話もあり、楽しい。お気に入りは陸話です。続編も購入します。 | ||||
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百物語にせよ、七不思議にせよ、人は怪談を集めたがる生き物であって、いずれ死に物狂いになるのでしょうか? 明治、大正、昭和、平成、そして令和。 日本の近現代史も五つの御世を数えましたが、過去を振り返るにモダンやロマンの彩り、香りを感じ取って愛好される方の多いこと、多いこと、もちろん私もその一人。 型板ガラスの向こう越しに想像を膨らませた時代から、ひとつ、ふたつ。 今は、もう、ガラスの向こう越しに文字を綴り、世に届けるそんな御時勢ですが、本作の元はカドカワ主催のWEB小説投稿サイト「カクヨム」発のものであったりと。文字通り、隔世の感を感じていただければ、幸いです。 舞台は昭和初期、帝都「東京」を焼き払った大震災からいくばくかの時を経た昭和初期のことです。 はじまりは、好きあらば酒を飲もうとする、流行ってない作家「大久保純」のところへ悪友の新聞記者「関信二」が怪談の企画を持ち込むところから。 さも表紙からは、このふたりが群がる怪異、幽霊妖怪魑魅魍魎をちぎっては投げちぎっては投げ――な、快刀乱麻の活躍をご期待される読者の方も多かろうなものですが、そんなことは全くないのですね、これが。 時に、わたくしは「怪異」という言葉を誰が言い出したのかは不勉強なもので存じておりません。 けれども講談の敵役に妖怪変化、怪談の介添に幽霊、山の怪、海の怪に魑魅魍魎といささか限定して考えてしまうと、都市に属してかつ限定しない「怪異」という言葉は実に便宜を図っていてよろしい。 えらそうなことを言ってしまいました。 人口に上がるとしても「都市伝説」というほど形をなさず、またその言葉もその頃はなかったのです。 面白おかしく紙面に上りはしても真相は当事者の心の中にしまわれる、そんな幽冥の譚をご覧あれ。 七不思議で終わるには長いけど、きっと百には届くまい――そんな八と二つのものがたり。 壱話「赤子をよぼう」 連作短編の最初を飾るのは、乙女に籠った赤子の怪異です。 最初に断っておくべきでしょうが、本作はホラーですが、比較的軽めで男二人の軽妙なやり取りを楽しむキャラクター小説としての側面も強いのです。 精神的なリアクションを期待された大久保と、時折肉体的なアクションを起こす関の二人で、怖くなり過ぎないように読者の体感を調節してくれるので、怖がりな方にも比較的安心だと思いますよ。 この短編について触れておくとするなら、ままならぬ話です。ちょいとした引っ掛けもあったりしましたが、アンフェアとまでは行かず騙す騙されるはイーブンと言ったところでしょうか。 弐話「みなもの子供」 子供の「供」という字が「供儀」を連想させられるから避けようというのは何の迷信か、けれども私たちは臭いものに蓋をして生きていきたいのでしょうね。 統一感のある章題が美しいですが、それはそれと大久保がちょっと酷い目に遭います。 危険性という意味で言えば、大人に対しては寸足らずで子供には尺余りという怪異なのですが。やはり水は怖い。それ以上に何も成せない自身が怖い。 前章もそうですが、WEB投稿時と比べ、彼の内面や過去、半生についてのエピソードが加筆されているので内面が揺らぐ危うさが良く出ていると思います。 参話「雨宿りのひと」 こちらは同じ水でも天空から降り注ぐ雨、きっと穢れを洗い流す水であり、同時にすべてを溶かし去る。 これぞ王道というべき幽冥譚であります。 彼岸と此岸を挟んで、見えているのに見えていない人という美しい話、だけどもこれが雨の話でなければきっと流されていたのかもしれません。 向こう側の住人に対していささか感受性が高すぎる大久保とそれを引き止める関という関係性はここから先へつながっていきます 肆話「とおい本棚」 大久保の担当編集である「菱田君」の初登場回、作家を志す全ての方にとっての夢であり、きっとなってしまえば悪夢でしょうね、原稿を巡るやり取りは。 そして、本好きの方には最も恐ろしい話かもしれません。なにせ本を読んでいるという時点で、読者に対して一定の共感は約束されているのですから。 読む・集める・書く、本を取り巻く方向性は様々ですが、マヨヒガというには禍々しくも愛おしすぎる本の坩堝を前に抗し切れるか、少なくとも私には自信がありません。 同時にこの怪異の罠は「思い出」という側面も持っているからなおさらです。 過去を振り切って前に進んでいこうという意志は痛々しくも尊いと知っていても。 伍話「ひとがたの部屋」 「人形」、文字通り人の形を成したるもの。幼児女児、子弟の友というだけには 収集と言えば趣がなく、蒐集と書けば鬼気迫る。 悠々とした暮らし向きの華族のご子息「中小路卿」へ迫りくるスペクタクル! 元女優の霊能者「深沢一天斎」女史の活躍! そしてまさかの力技! だけでは解決しないけどとりあえずの解決! といった趣と活劇を両立させた謎の怪にして回です。 ちなみに、こちらはカクヨム版と比べると構成話をいじくったこともあって感触が異なると思われます。 何はと言いませんが、引き分けな公平感がこれからに結ばれていくようで、双方増した不敵感が好きです。 陸話「炎のあわい」 水剋火。とはいえ、甲乙を比べ合う話ではないのです。 時に『帝都つくもがたり』は酒は飲んでも酔狂洒脱になり切れなかった大久保氏による一人称小説だったわけです。 水を介して大久保の内面を深め、切り込まれていったなら、次は怪しいブン屋にして意外と面倒見の良い悪友、関というわけで。 図らずも受け入れることで良縁を結び切ったそんな話です。ふたりの問題に踏み入る言葉は持てません。 けれど、語られずとも言外に想像を膨らませる「汚れたハンケチ」のくだりに思いを馳せても許されるかな、そうは思ってしまいました。 漆話「影絵のからす」 火に炙られたなら、闇夜にあっても影は姿を見せる。 黄昏時、逢魔ヶ時であるならなおのこととして。 しかし、生きている鴉の羽根は塗り潰したような「黒」の色とは限らなくて、「構造色」といいもっと複雑なものです。怪異とは複雑な心を持つと信じたい人間の延長にありつつも、もっと単純なものになり果ててしまったモノなのかもしれません。 「鳥」から一本の目を取り去った目潰しの鳥を「烏」というのなら、「空の巣」を置き去りにして飛び去った何物かは「からす」とも呼ぶのでしょう。 「心」だけで果ても歯止めもない暴挙を働いてしまった男の末路は実に空虚でした。 ちなみに菱田君の登場回でもありますが、いつも通りのなんともやりきれない顛末を迎える中、仮にも年長者である大久保の言葉が確かに響きます。 たとえ、それが「あきらめ」を勧めるであるとしても。 捌話「鏡のむこう」 怪談の小道具として「鏡」は欠かせないもののひとつであり、表紙でわかる通り、関もまたふたつの鏡を通して世界を見ています。 本書最後のお題は、鏡からは、己をみつめる己自身からは逃れられないのではないかという恐怖、満を持して「大久保純」自身に迫る怪異でした。 この物語における「怪異」とは、それに関わった者たちが専門的な視点を持っていたとは言えない都合もあったにせよ、学術的に分類できるような、無機質なルールに従ったとは言い辛く、そんな肉通った存在感と相反する儚さを錯覚させました。 同時に、決定的な断絶を忘れさせない、寂しい存在でもだったわけですが。 なんのかんので、関と大久保は友同士、ここまで本心を大ぴらにせずとも必要以上に隠し立てはしなかった彼らとここまで紡がれた人との縁が光ります。 ここで放たれたお為ごかしでない魂の言葉と拳の行方が熱かったです。 零話「つくもの始まり」 終話「ひとつの終わり」 図らずとも「令和」に読みが通じる「零話」からおなじみの「終話」へ。 仕舞いの挨拶に代えて、今までの八話分の「ものがたり」を挟んだはじまりとおわりの挨拶を紹介します。 やあやあとやって来たお馴染みの悪友でしたが、一夏から秋冬へまたがり、春の雪解けを迎え、ひととせを通し切りました。 辛く厳しいけれどいくつもの冒険を共にして「友情」を新たにしたのですよ。 果たして、百には少しばかり届かないけれど、それだけの時を越えて世に出た本書に、幽界と顕界のそれと似た趣を感じてしまった私です。 章題を拝むたびに、新たなる冒険の扉を開く感覚も覚えました。 彼らがあの時代を「生きた」という実感が今を「生きる」私に届いた、そんな気もしました。 きっと、いつ何時に生まれようと生きづらい人は生きづらい。 それでも、漠然とした寂しさと爆発的な賑やかさは自然と心のどこかを通り過ぎていく。 きっと、この書はそういうものなのでしょう。 | ||||
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第4回角川文庫キャラクター小説大賞の「読者賞」受賞作……らしい。どういう賞なのかよく分からんまま「恐らくライト文芸っぽいものだろう」と適当に当たりを付けて拝読してみた。 物語の舞台はあまり明確にはされていないが大正末期か昭和初期ぐらいの東京(関東大震災の数年後、らしい)。牛込にある自宅で三文文士として暮らしている大久保純を学友だったタブロイド紙「帝都読報」の記者、関信二が訪ねてくる所から物語は始まる。 帝都読報に載せる怪談を集めているという関は取材の手伝いとして同行して欲しいと大久保に持ち掛けるが、人一倍怖がりな大久保はしり込みする。怪異に遭遇した時に怖がりな大久保がいれば「良い反応」を見せてくれそうだという関にますます苛立つ大久保だったが、五年間無利息で貸してくれた「金三十円也」の証文を突き付けられて渋々関の取材に付き合う羽目になってしまう…… ……なるほど新人賞を与えられるだけの完成度はある、と認めざるを得ない。少なくともライトノベルやライト文芸の新人賞受賞作品にありがちな独りよがりの部分や文章力の稚拙さによる読み辛さというのは殆ど感じることなく読み終える事ができた。それだけでも大したものだと思うし、今後もプロとして活動できそうだという確信めいた物すら感じさせてくれる。 物語の方はいわゆる連作短編形式となっており、主人公の大久保と関が取材先で遭遇する怪異を描いた短編が8話ほど収録されている。各話は単独で完結しており、独立性が高く話相互の関連性と言った部分はあまりない。関と大久保が怪異の噂を聞き付けて取材に訪れた先で不可思議な出来事に巻き込まれる姿を30頁ほどの比較的短めの尺でまとめている。 本作を見る限り作者さんはそれほど「ストーリーテラー」というタイプではなく、各短編の造り自体は「大どんでん返し」が仕掛けてある様な起伏に富んだ構成にはなっておらず、比較的あっさりめというか淡々と始まって淡々と終わるという印象が強い。また、いわゆる怪異物を得意とする作家では昔で言えば荒俣宏だったり最近であれば峰守ひろかずの様な「資料で読者を殴り倒す」というタイプというわけでもなく、描かれる怪異もよくある怪談といった感じでそれほど「作り込まれている」という印象も受けなかった(妖怪というよりも幽霊絡みの話が多かったのはちょっとした特徴ではあるけれども) こう書くと「それじゃ新人にしては『売り」と呼べるものが無いのでは?」と不安になる方もいるかもしれないが、この作家さん、妙にキャラクターの造形は達者なんである。特に主役コンビである大久保と関の二人は中々面白い。文士と新聞記者の組み合わせと言う事で読む前は「たぶん新聞記者の方が狂言回しで文士の方が怪異のオーソリティー的な役回りなんだろうな」と思っていたら怪異への備えをしているのは記者である関の方で、作家である大久保は怪異に振り回される役回りとなっており見事に逆で意表を突かれた感がある。 怪異の正体の方は教師に二股を掛けられた女学生の情念が産んだ赤ん坊であったり、稀覯本を求める書痴を「代金は目玉一個」とたぶらかす怪しげな古本屋だったりと様々なのだけど、あくまでこれらの怪異は主役である関と大久保の「関係性」を掘り下げていくための材料と考えた方が良いかもしれない。 遭遇する様々な怪異への反応を通じて関と大久保の人となりが掘り下げられていくのだけど、皮肉屋で厚顔さも感じさせるけど、どこか人を求めつつ人を寄せ付けないという矛盾を感じさせる関、文士として孤独に生きているが事あるごとに酒に縋ろうとするなど「人としての弱さ」みたいなものを感じさせる大久保がどうして学校を出てからも付き合い続けているのか、二人はいったいどういう関係なのか?そんな「関係性」こそが作者が本作で最も描きたかったものではないのだろうか? 特に最終話で冬になると気鬱になり引きこもり生活に入ってしまう大久保が引き起こした騒動を通じて現実主義者の関がどこか世間から浮いた感じで、ともすればふと消えてしまいそうな大久保をどう見ていたかが明かされるのだけど、この終盤の展開には「なるほど、関が持ち掛けてきた怪談探しにはこんな意味があったのか」と頷かされるものがあった。そういう意味で本作は一冊丸ごとが主役二人の関係性を掘り下げる為に費やされていると言っても良いだろう。 勿論ストーリー自体のパンチの弱さや物語のキーとなる怪異の作り込みみたいな部分はこれからの作家生活を考える上で乗り越えるべき課題ではあるのだけど、少なくとも読者に「この作品はこれを見せたかったが為に書かれたのか」と伝わる位に「やりたかった事」が明確になっているのは悪くない……新人賞受賞作って「これは一体何が描きたかったの?」と頭を抱えたくなる作品も少なくないし。 「怪異探し」を通じて描かれる学生時代からの腐れ縁で繋がった主役コンビの不思議な友情を軸とした作品として読めば決して不出来な作品では無いし、十分水準には達している。尖ったものはないけれども、丁寧に主役を掘り下げた作品を読みたいという方であれば手に取る価値はある一冊かと。 追記 ただ……この表紙だけはどうにかならなかったんだろうか?酒に縋ったダメ文士という大久保にこういうアクティブなポーズを取らせるべきでは無いと思うのだけど……? | ||||
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短編集を重ねて一つの物語が編纂されています。装丁もなにもシンプルで、行間を読むのに最適な作りであるような構成です。 怪談を通じて描かれるバディ物ですが、1話ごとの字数が少なく内容も特に起伏が激しいわけではないので、行間を読んで読者それぞれの解釈を探して味わう作品かな?と思います。 ハデなバトル!作りこんだ設定!スカっとする構成!というような話ではなく、言葉になる前の柔らかな傷とも言えないささくれを怪異を通して共感させているような物語でした | ||||
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