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廃墟ホテル



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【この小説が収録されている参考書籍】
廃墟ホテル (ランダムハウス講談社文庫)

廃墟ホテルの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)

マレルの化け方に脱帽

バングラデシュの密林など世界の自然を舞台に冒険・スパイ小説を繰り広げていたマレルが21世紀に選んだ冒険の舞台はなんと廃墟。
資金難で打ち捨てられたホテルやオフィスビル、デパートに忍び込む。彼の行動は彼ら曰く「写真以外は何も取らない、足跡以外は何も残さない」。しかしそれは立派な不法侵入と云う犯罪。それ故彼らは自らの素性を語らない。従って紹介もファーストネームもしくはニックネームだけだ。

まさか廃墟探索がこれほどスリリングだとは思わなかった。
暗闇に巣食う動物たち。不衛生的な環境で育ったそれらは攻撃的でもあり、傷つけられると病原菌に感染してしまう。さらに長年風雨に曝され、老朽化が進み、床が突然抜けたり、階段が崩落したり、思いもかけない危難が待ち受けているのだ。そんな状況で機転を働かせて仲間の救出を行うところなど、手に汗握るスペクタクルになっている。機能を失った建物が未知なるジャングルの如き迷宮に見えてくる。

そんな危険を冒してまでも廃墟侵入を止めないのはそこに魅力があるからだ。当時の時間を体験することが出来るからだ。
原作者のあとがきによれば彼らのようなグループは世界中に実在するとのこと。いやあ、マレルは実に面白い題材を見つけたものだ。

そして挿入されるかつての宿泊客たちのエピソードも興味深い。
亡き夫と思い出のために訪れ、自殺する者。
ホテルに荷物を残して失踪したまま行方知れずになった者。
不治の病に侵され、最後の記念にホテルに泊まり、自害する者。

さらには各登場人物のエピソードも面白い。特に主人公のバレンジャーの軍隊時代の恐ろしい捕虜体験は読み応え十分。この辺はランボーの原作者たる所以か。

そして物語は暗闇の中の廃墟探索という冒険物から不測の訪問者である窃盗グループによる拘束を受けるというサスペンス物に変わり、さらに廃墟のホテルに住まう異常殺人鬼の登場で次々と仲間が殺されていくホラーへと転調していく。

『ダブルイメージ』ではあまりに物語の転調が激しく、読後はなんといったらいいか解らないほど戸惑いを覚えたが、本作では舞台設定が廃墟と固定されており、その不気味なムードが冒険、サスペンス、ホラーを包含しているため、上に書いた物語の転調が非常にスムーズで、逆に先の展開に好奇心が募る思いがした。

正直云って本書は私が今まで読んだマレル作品で一番面白い長編となった。作家生活30年以上も経って物語力の感じる作品を生みだす、まさに円熟味のなせる業か。
前回読んだ短編集『真夜中に捨てられる靴』でも感じたが、マレルは21世紀になって作風がガラリと、しかもいい方に変わった。これほど味が出るとは思わなかった。

こうなると近年発表されたマレルの作品が実に気になる。本書は2005年の作品。しかも版元のランダムハウス講談社は武田ランダムハウスジャパンに経営を移した後、本書は絶版の憂き目にあっている。
どこかマレルの未訳作を訳出してくれる寛大な出版社はないだろうか?


▼以下、ネタバレ感想

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