久隅平八は生薬売りに変装し、「市歩」と称して京都内の情報収集と探索に当たっている折り、深い傷を負った若い男を助けたものの、途方に暮れているお民に呼び止められる。

五山の送り火の二日後、菊太郎は姉小路大宮で襤褸をまとい、力なく歩く四十男を見かける。

「地蔵さまがわしに笑いかけはったんどす。

古手問屋の隠居・九郎右衛門は愛妻・お民を亡くした悲しみを趣味の骨董蒐集で癒す日々。

泥鰌売りをして細々と独り身の生計を立てている岩三郎は、篠突く雨に打たれて長屋の木戸門にもたれかかる若い女を助ける。

同心組頭の兄・田村菊太郎は公事宿(訴訟人専用旅籠)の居候。

立花平七郎は懇意の酒屋での聞き酒会の最中、巾着切りの少年を捕らえた。

ごめんくださいまし──。宝永七年の初夏、下野北見藩・元作事方組頭の家に声が響いた。

乳飲み子とお定を残して忽然と姿を消した又七。