おいしい季節がやってくる。
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べたべたなハートウォーミングストーリー 登場人物は誰もが善人で、誰かを愛し誰かから愛されている。予想どおりの展開で、期待どおりのハッピーエンド、どこかで読んだことのあるようなストーリー。 でもまぁ、ときにはこんなべたな小説もいいよね 社会問題を取りこんだ暗鬱とする作品や、最悪の展開を楽しむイヤミスが人気をよぶ昨今、息抜きに こうした作品を読むのも悪くないでしょう。 | ||||
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注:本作は単品でもお楽しみ頂けますが、集英社文庫から刊行されている同作者の「本日のメニューは。」および「できたてごはんを君に。」を読んでいるとよりお楽しみ頂けます モノを食べる喜びと食を通じて人と人が結ばれる幸せな「縁」を描いた行成薫の人気シリーズ、3年ぶりの刊行となった第三弾。地味にファンが多いのか3年ごとに刊行されるのだけどここまで収録された短編に一つもハズレが無いので今回も大いに期待しつつ拝読 収録作品は4作なのだけど、今回は趣向を凝らして各短編に「春夏秋冬」を割り当てている。 春のキッチンカーでのオムライス、夏の「海の家」での焼きそば、秋の野山の恵みとフランス料理、そして冬が来るたびに求められた豚汁……フランス料理を除けばどれもこれもありふれた料理ではあるのだけど行成薫が題材として用いればあら不思議。人と人を結び付け合う、縁の土台に生まれ変わっちゃうのだから面白い。 今回印象に残ったのは作者自身が本作を「シリーズの最新刊」として意識しているという部分。春を舞台にした短編である「YOLO」からしてその辺りは明らかでキッチンカーでロコモコを提供する綱木とその高校時代の友人・璃空のコンビが主役と聞けばファンとしては「お、またあの二人か」とニヤリとさせられると思うのだけど今回はそれだけじゃない。 シリーズの第一作「本日のメニューは。」に収録されていたフレンチのお店の最終営業日を描いた「或る洋食屋の一日」で主役を務めた老料理人・前沢永吾が再登場。彼がレシピに残したオムライスを再現する為にどこか適当な部分のある綱木が奮闘するというシリーズを追い続けて来たファンであれば短編の枠を飛び越えた繋がりに思わず「よしっ!」とガッツポーズを決めたくなる趣向となっている。 これは他の短編にも言える事で秋を舞台にした「サンクス・ギビング」で主役を務めるテレビ番組制作会社のAD・千秋の上司として登場する山本。料理人では無いけど「ん?」と思った貴方大正解。彼が地元で挨拶にいく「素人だと食べきれない量のメニューを提供する店は?」と尋ねられてお店の名前を答えられない方もいますまい。 もうね、新作が出るたびに3年待ち続ける甲斐があったというものですよ。しかもこの素敵な四作の短編の間で幕間劇の舞台となるのが「おむすびの店」なのだから堪らない。結女さんが作るおむすびを読み終えたばかりの短編の登場人物が訪ねるんだから作者のサービス精神が心憎いばかりである。 それじゃ目新しいものは何もないのかと言われれば……そんな筈は無い。夏を舞台にした「夏の鉄板前は地獄」では半ば友人に騙されるようにして海の家に連れてこられた大学生を主人公とした作品なのだけど、夏の間ずっとやきそばを作り続けて灼熱の鉄板前で干からびた彼の身体にビールが染みわたる際の描写、これが素晴らしかった。 「ビールは喉越しをたのしむもの」なんていう使い古された言い回しがあるけど、違います。ビールと言うのは喉どころか全身で味わう物だと改めて思い知らされた。確かにカラッカラになるまで汗を流し尽くした身体にビールを流し込んだ時の感動はこれだと首が千切れそうなくらい振りたくなる描写力、これは是非読んで確かめて頂きたい。 ……が、本作で一つ飛びぬけた作品を上げるなら冬を舞台にした「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」となるだろう。 海から帰ってこなかった夫を時代の変化とともに寂れていく港町で再婚もせずに待ち続けた女性の50年を振り返るこの短編は読み終えた瞬間に呆然として「これほどの作家だったのか、行成薫というのは」と言葉を失った。 誰に対して自己主張する訳でもなく親が決めた相手と結婚し人の身ではどうともならない天災でその結婚相手すら奪われて一人ぼっちになってしまった地味その物といった感じの女性である冬美がただ一つの取り得である豚汁作りで不思議な縁に導かれる様に決して孤独になる事無く、その時代ごとに求められた役目を果たし続ける……言い切ってしまえばただそれだけの作品なんである。 が、その冬美の作る豚汁が震災で痛めつけられ、復興し、しかし気候の変化で漁獲量が減って漁師も減るという抗えない変化を求められ続けて来た港町で間違いなく人と人を結ぶ縁を産み出し続け、見守るという役目を果たしてきたのだと語られるまでもなく読者に伝わってくる時代の移ろいの描き方そのものが秀逸なのである。 冬美の人生は自身の視点では「一人で生きて一人で死んだ何も残せない人生」だったのだろうけど、彼女が作り続けた豚汁が救い、産み出した縁でもって引き寄せられた人々が彼女の人生の持っていた意味を語り合う場面では恥ずかしながら涙を抑える事ができなかった。 メシの描写では(それは単なる味の描写に留まらず食べている人々を包み込む幸福感の描写も含むのだけど)トップクラスに巧いと常々語り続けている行成薫だけども、いよいよ完成の域に到達しつつあると思わされた一冊。本作から手を着けても構わないし、シリーズ第一作の「本日のメニューは。」から読み始められても構わない。だだ、この傑作群を一から楽しめる方々が羨ましくて仕方がない、そんな一冊。 | ||||
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