稲荷町グルメロード
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作者の著作はこれが二冊目。以前集英社文庫から刊行された「本日のメニューは」が気に入っていた事もあり拝読してみる事に。 物語は大学の三年目を迎えてそろそろ進路が気になり始めた女子大生・御名掛幸菜が就職先にアピールできそうな社会奉仕活動を探していた所「年収2500万円」という破格の求人を見付けた場面から始まる。その求人を出しているあおば市が父の郷里で馴染みのある場所であった事も手伝い幸菜は「商店街の再生プロジェクト」の担い手に応募する事に。 書類選考を奇跡的に通過しプロジェクトの主催者である市役所でのプレゼンに臨んだ幸菜だったが、居並ぶ参加者はプロのコンサルなどで自分の場違いさに困惑したまま、肝心の商店街を見てもいない事を女性市長に見抜かれるなど散々な目に。 落ち込みながらも自分が見ずに済ませようとした商店街に足を向けた幸菜だったが、「ゾンビロード」と呼ばれる商店街は予想以上の寂れ具合。ふと目にした一軒の喫茶店に入ってみると看板商品のブレンドコーヒーに「時価」の札が出ている事に驚かされる幸菜。頼んだ物かどうかと迷っていた幸菜だったが、一人の青年が声を掛けてくる。 声の主は市役所でのプレゼンで見事にアドバイザーの地位を手に入れた瀧山クリス。「ゾンビロード」を印象に残る飲食店を中心に再生させようというクリスは幸菜に自分の仕事を手伝ってくれないかと持ち掛けてくるが…… なんというか、読んでいると「ほっ」とする様な作品。以前読んだ「本日のメニューは」にも感じられた部分ではあるのだけど、市井に暮らす普通の人々の哀歓を丁寧に描いているというのが第一印象。社会や世界を揺るがす大騒動は起きないが、それでも山あり谷ありと一筋縄ではいかない人生を生きる人間の姿を生き生きと描いている。 物語の方は主人公の幸菜と商店街の再生を請け負った青年・クリスが出会うまでを描いた序章を含めて4章から構成される連作短編形式。各章では「ゾンビロード」とまで呼ばれる程に寂れてしまった商店街の住人たちを相手に「どこの馬の骨とも知れないアドバイザー」であるクリスと右も左も分からないままやる気だけで突っ走る幸菜の二人が時に住人たちの抱える個人的事情に踏み込みながら再起を図らせる、というのが主な流れ。 各章で登場する住人達はバリエーションに富んでおり、 「和菓子離れという現実を前に名門直系のプライドに縋る母親との対立の中で店を再建しようとする若い跡継ぎ」 「東京の名店で修行した確かな腕を持ちながら過去におこした娘との確執と江戸前への拘りを引きずる寿司職人」 「恩師に憧れて来日し、日本の中華料理を学びながらも地元の味を出せない現実に足踏みする四川出身の料理人」 クリスの「稲荷町グルメロード」計画故に飲食絡みの店ばかりではあるのだけど、その縛りがあるからこそ個々の人物が送って来た人生が際立つとも言える。 当然ながら世の中から見捨てられた様な厳しい現実に打ちのめされ続けた商店街の住人達は一筋縄ではいかず、「どうせ上手くいきっこない」「どうせ潰れるならジタバタしても無駄」と諦め気味で簡単には動いてくれない。そんな状況の中で主人公の幸菜が未熟ながらも、いや未熟だからこその体当たりで状況を開いていく姿が少しずつ住人の気持ちを解きほぐしていくというのが基本のパターン。 幸菜が踏み込んでいく事で、住人たちが認めようとしなかった厳しい現実や、わだかまりを引きずった家族との関係に向き合い、停止していた時間が動き始めるというのは多分にご都合主義な部分はあるにしても、諦観であったり捨て鉢な姿勢といったネガティブな部分をしっかりと描くからこそ状況が動き始めた時のカタルシスは大きく、その辺りの作劇の巧さは流石と言った所。 ただ、気になるポイントを挙げさせて頂くなら幸菜が壁にぶち当たった時に「こんな事もあろうかと」と助けてくれる切れ者のクリスが幕間でいかなる人物であるか語られるのだけど、これは幕間で片付けるよりは一エピソードとして独立させた方が良かったんじゃないかと(クリスの素性を知る人物の扱いが少々中途半端な印象を受けた) また、せっかく登場させながら掘り下げの不足した人物も散見されるのも気になる。冒頭で幸菜が面食らった「ブレンドコーヒー=時価」の喫茶店「カルペ・ディエム」やシングルマザーのイタリアン「トゥッティ・フラテッリ」、女子アナ出身の女性市長と陰険そうな課長あたりはまだまだ掘り下げられたと思うのだが……(ひょっとしたら続編が予定されているのかもしれないけれども) 特に第四章で登場する商店街のボスで冒頭では商店街再生計画に否定的な立場だった豆腐屋の主人があっさりとほだされるのはストーリーが走り気味という印象を受けた。この章だけちょっとページ数が少ないので配分を間違えたのかもしれないけど、全体の出来を上げようと思ったらここで盛り上げが欲しかった。 細かい不満点は幾つかあるけど、それでも「大袈裟な物語」では描かれない市井の人々にスポットライトを当てて丁寧に掘り下げていくという作者の一番の良さはしっかりと打ち出されていたし、その点においては何の不満も感じられない。出来れば上に挙げさせて頂いた人物についても掘り下げて欲しい「食べ足りなさ」があるので続刊を希望したい所なのだが…… | ||||
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商店街の復興を通して描くヒューマンドラマ。コミカルな掛け合いが多く爽快な読後感。 行成さんの作品はとにかくリズムが良くて、スッと入ってくる文章が読みやすいし、登場人物同士の距離感が心地良いんです。 | ||||
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