稲荷町グルメロード2 Summer has come
※タグの編集はログイン後行えます
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
稲荷町グルメロード2 Summer has comeの総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
市町村合併と大型ショッピングモールの登場で「ゾンビロード」とまで呼ばれるほどに衰退した商店街を4年間1億円の大型契約で請け負った青年の再生計画を追うシリーズ第二弾。 表紙に描かれる浴衣姿の二人に「あ、今回も前巻と同じコンビが活躍するのだな」と思った貴方、既に作者の罠に嵌っています。何とこの第2巻、商店街再生計画を担うクリスの相方と語り手を務めた1巻の実質的主役女子大生・幸菜はほぼ全編に渡って部外者扱い。幕間で就職活動中の姿を見せるに留まる限定的な役回り。 物語の方は前巻から1年後。クリスが請け負った4年計画の2年目が描かれ、語り手もクリス自身に交代。幸菜は女子大生であり商店街再生計画においては見習いみたいな身であって掛けられるプレッシャーも限られていたのだけど、語り手が責任者のクリスに変わった事で商店街再生計画に対する厳しい風当たりなんかもゴリゴリに描かれる。 特にクリスの後見役であり、事業を立ち上げた女性市長は孤立した存在であって守旧派である市役所の内部に敵を抱えその剥き出しの敵意がクリス自身に容赦なくぶつけられる様が描かれるので物語の雰囲気も前巻と比べると若干暗めになっている。 とはいえ、クリスが向き合うのは商店街に招かれた新規出店者や、あるいは寂れた商店街で細々と営業を続けてきた店舗の主たちである事は間違いない。今回も描かれるのは高級路線を貫こうとするラーメン屋とそれとは対照的に鷹揚に構えるうどん屋、何十年も営業してきたスナックのベテランママさんに前回も登場したイタリアンレストランの女性店長の元夫であるイタリア男と実に多様で、この巻に収録された短編3本をバラエティ豊かなものにしている。 ただ、彼らの背景自体は非常に多様であるのだけど共通して描かれている部分が非常にはっきりとしているのもこの第二巻の特徴。そこには紛れもなく長年に渡る付き合いを続けながらも時代の流れに押し流されて掛け替えの無いものを失う哀しみが漂っている。思い出の詰まった場を失う事による身を切られる様な痛みと称しても良いかも知れない。 第一章で描かれるうどん屋の主人はラーメンマニアが高じて立ち上げた高級志向のラーメン屋の主と違い、地元の人間の好みに応じて自分の育った讃岐の味を変える事にも鷹揚に応じる人物として描かれている。だが、その上で祖母の死によって失われかけた味を守りたいが故にうどん屋になったのだという彼自身が気付かなかった想いがあった事に気付くまでが描かれている。 これだけならばまだお優しい話なのだが、第二章以降この巻は牙を剥く。クリスが進めてきた東京時代の知己を頼った有名店の誘致を妨害する老人の「お前はこの街を俺から奪うつもりなのか」という憎悪は商店街の再生の明るい部分だけを描いてきたこの作品の暗い部分を容赦なく描き出している。 環境の変化で放っておけばゾンビどころか本当に死体に変わってしまいそうな商店街を再生するというのは紛れもなく再開発であり、古い物を片付けて新しい物に置き換えるという「置き換え」を避けられない。だが、この巻で作者は読者に対して古いから・放っておけば滅ぶだけの代物だからというだけでそれは果たして簡単に新しい物に置き換えて良い物なのかという問いを投げ掛けている。 古くて寂れた商店街や飲食店ではあっても、そこには長い時間の中で人々の交わりがあり、諸々の出来事を経て関わってきた人たちの思い出が詰まった場である事は間違いない。そしてそんな空間を新しい物に置き換えるというのは彼らの過去には維持する様な価値など無いのだと宣言するに等しい。 クリスに対して剥き出しの敵意を隠そうともしない老人の姿を見て思い出したのが33年前に公開された「機動警察パトレイバー劇場版」である。バブル期の再開発ブームと失われていく東京の下町を対比しながら描き、その失われていく街で育った天才プログラマーが誇らしげに建つ高層ビルを見上げながら募らせていった言葉にならない憂悶を描いた物語である。 劇中で後藤隊長と松井刑事が「この町では過去になんて一文の価値も認めて貰えない」とぼやく場面があるのだけれども、事件の黒幕である帆場瑛一が騒動を起こしてでも見せ付けたかった物はまさにそこじゃないのかと思う。そしてその過去に価値を認めないという姿勢はクリスの商店街再生事業にも間違いなく絡んでしまうのである。 放っておけば死んでしまう街であっても、それを否定し長年そこにあった風景を奪う事はそこに思い出や愛情が詰め込まれた思い出を持つ人々を否定する事なのだと、作者はそんな事を訴えかけている様に思われた。第三章で描かれるイタリア男が何としてでも守ろうとした亡き母の作っていたティラミスの味も含めて守ろうとしなければいつか失われていくモノの儚さ……そんな哀しみが本作の主題だったのでは無いだろうか? 一巻の無邪気な善意に包まれた商店街再生にも光の部分もあれば影となる部分もあるのだと訴えかけ、このシリーズの中心となる計画をまた違った角度から切り取った第二巻。相変わらず念入りな下調べによるディテール部分の細かさとそれが齎す効果としての圧倒的リアリティ、人物造形の多用さ・深さ、テーマの掘り下げ、全てにおいて群を抜く完成度を見せたシリーズ第二巻であった。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 1件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|