僕らだって扉くらい開けられる
※タグの編集はログイン後行えます
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
僕らだって扉くらい開けられるの総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
グルメものからプロレスものまで題材の幅がやたらと広い作家、行成薫の過去作を漁っていたらタイトルに妙に惹かれるものを感じて手にしたのがこの一冊。 物語はとある田舎町の駅前で老夫婦が営む「三葉食堂」で事務機器販売会社に勤める若いサラリーマン今村がが一つ年上の先輩社員・北島と昼食を取っている場面から始まる。 店の名物であり自身も普段であればガツガツ掻き込んでいる筈の「スタミナ肉炒め定食」を前にした今村だがその日は箸が進まない。その日の午前中の外回りで取引先の頼みごとを一週間も放置していた事が発覚し、契約解除を通告された今村の頭を占めるのはパワハラ上等な課長が加えてくる罵倒の事であった。 北島相手に「死にたいです」と零す今村だったが北島の「会社にしてみればお前はまだまだ役立たずってことだ」という慰めだか追い討ちだか分からない言葉にますます落ち込む羽目に。そんな今村に食堂のオバちゃんが「そんなことないわよ、今村君は超能力者なんだし」と庇い立ての言葉を掛けてくる。 「超能力?」と半信半疑の北島の前で仕方なしに超能力を披露する事になった今村だったが、見せた能力は卓上の醬油差しを手を触れる事無く10センチばかり横に動かすというまことに細やかなもの。片手で動かせる程度の重さの物を右方向に10センチだけ動かせるという何の役に立つのかさっぱり分からない「超能力」に呆れる北島。 案の定、戻った職場で課長に罵倒の嵐を喰らいシュレッダー係を命じられた今村だったが、そんな切ない日々を送る今村に津田という見知らぬ老人が「貴方の超能力を見込んで頼みたい事がある」と話を持ち掛けてくるが…… なるほどこれは間違いなく行成薫の作品だなあ、というのが読み終えての第一印象。良くも悪くもご期待通りというか。市井の人々の人生模様をユーモアたっぷりに描くという点においてはハズレがほとんど無い職人肌の確かな仕事をしてくれる、と満足度は高い。 構成的には全6章から成る連作短編集。地方都市の駅前で営まれる食堂に集う人々を軸に毎章主人公を変えて描かれる「エスパーもの」。 「エスパーもの」というと派手な超能力を駆使する美形・美女が大活劇を演じて見せるジャンルだという印象があるが、本作に登場するエスパーたちはまことにしょっぱい。そのしょっぱさが上でご紹介させて頂いた第一話の主人公・今村の様に能力自体が「それ、何の役に立つの?」というしょっぱさだけで無い点がミソ。 手を触れる事無く小さい物を10センチだけ自分から向かって右方向にのみ動かせる念動力の使い手今村 手を握った相手を金縛りにして昏倒させられるが能力を使う度に髪が抜け若ハゲが進行してしまう金田 早期退職で完全な濡れ落ち葉族と化した夫にイライラさせられ続けた結果、発火能力に目覚めた亜希子 手で触れた物に残された残留思念を読み取るサイコメトリーだが酷い潔癖症でモノに触れられない彩子 小学校の教員だったが、目を合わせると思考が飛び込んで来る読心術で精神を病み退職に至ったサトル 能力の副作用、能力開花の経緯、能力と性格の不一致……能力がそれなりに強力でも彼らの人生がさっぱり輝かない理由がお分かり頂けただろうか?しょっぱいのは能力というよりも彼らの人生だと言っても良いかもしれない。この「人生の上手くいかなさ」こそが行成薫の作品においては絶妙のスパイスではあるのだけれども。 第一話で主人公を務める今村が陶芸家の老人・津田の頼みごとを通じて自分の「物を10センチだけ右に動かせる能力」が高校時代のサッカー部で迎えた最後の試合、試合終了間際に放ったシュートが「あと10センチだけ右に飛んでいれば」という悔いに何年も縛られていた事に気付かされる経緯などその象徴と言えるだろう。 他人から見れば「そんなちっぽけな事で何年もグジグジと」と思う様な事かもしれない。でもそんなちょっとした躓きで「自分はダメだ」「自分の人生はダメだ」と落ち込み、苛立ち、嘆く彼らの姿にこそ凡人が大半を占める読者は深い共感を抱くのでは無いだろうか? 各章で主人公を務めるエスパーたちはそんな上手くいかない人生に足踏みをしているのだけど、ちょっとした出会いや事件とも呼べない様な細やかなイベントとの遭遇で再び前へと進む姿にやっぱり上手くいかない人生を送っているであろう読者は励まされ、勇気づけられるのである。 第5章の元教員でありながら自らの読心術で対人恐怖症に陥り、引きこもり中年になってしまったサトルが堅気とは言えない男・剛田がかつての教え子である息子に向き合おうとするのを助ける事で止まっていた人生を再起動させるエピソードなど象徴的かもしれない。 そんなしょっぱい超能力者たちが一堂に会し、「役に立たない」と思い込んでいた自分たちの能力で本当に人助けをしてしまう最終章へと突入するのだけど……この構成はちょっと微妙かな、と。彼らは自分たちが主役を務める章で救われる事になるのだけど、最終章でそんな彼らが人助けまでしてしまうのはオマケが過ぎるというかハッピーにし過ぎという印象も受けた。 自分は何かの役に立っているんだろうか?自分は誰かの役に立てるような人間なんだろうか? そんな想いに囚われて落ち込む事もあるであろう凡人の人生に「役に立つかどうか微妙なレベルの超能力」を持つエスパーたちの悲喜こもごもを通じて前に進む勇気を与えてくれる短編集。人生に足踏みをしていると感じた時に読むと何か良い事があるかもしれない。 追記 それにしても行成薫の小説は読むと腹が減って困る。作中に出てくる「三葉食堂」の名物・スタミナ肉炒め定食のまあ何と旨そうな事か。飯が題材の作品という訳でも無いのに食い物の描写に引き込まれるのは困ったものである。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
微妙な超能力を持った人たちの、それぞれ短編と描き下ろし。 いろいろな超能力が出てきますが、本人の悩みと能力を使うことの葛藤が絶妙です。 そして、どれもほっこり&うるっとくるようなやさしいお話ばかりです。 とても楽しく、一気に読めてしまいました。 能力使うとハゲる設定にウケました(w | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 2件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|