レビュー一覧
absinthe さんのレビュー一覧
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どう書いても批判は必至のテーマともなれば、全力で下調べに取材を行ったに違いありませんし、そういった意気込みは伝わってはくるのですが、作品に生かしきれなかったようです。
世間の評は賛否両論のようで、反響の大きさをうかがわせますが、なぜ反響が大きいのか不思議に思いました。批判の多くはなぜか小説ではなく著者の政治姿勢に向いています。
本作を読んで戦争賛美だと解釈する人は、ちょっと読解力に難があるかまたは全部を読んでない人でしょう。
まぁ、これだけ心に響かない作品だとこれが右翼思想だろうと左翼思想だろうと、もうどっちだろうとかまわないと思いました。
absintheは、以下では小説としての問題だけ書いてみます。
小説としては、全くつまらないものだと思いました。
小説として駄目な点は、戦闘の体験者としての視点に全く臨場感が無いことです。
著者の書きたかった本来のストーリーは「戦争体験者の話を取材する、戦争を知らない若者の話」だったはずが、「戦争を知らない第三者に取材する、戦争を知らない若者の話」のような内容になっています。戦争体験者を登場させたなら、読者は「戦場で見たこと」を期待するでしょうに、当の経験者に「戦場で聞いたこと」と「戦後に調べた事」ばかりを語らせています。
戦場の体験談と称して戦後の読書体験ばかり語っているのですが、そうまでしてわざわざ記述された読書体験、ここで何人が死んで、何隻が沈んで・・と延々と書かれるあたりも、少し戦記物を読んだ経験のある人なら知っていることばかりです。しかも、戦争の始まりから終わりまでを無理にカヴァーしようとしたため、それぞれの戦闘の印象もますます薄められてしまっています。
パイロットの描写するゼロ戦が、外からみた目線でしかリアリティを感じないのも気になります。飛行甲板に立って着艦を見届ける話、飛行場から飛び立つ飛行隊を見送る話には少しリアリティがあって情景も浮かぶのに、操縦席に座った話になるととたんに情景が浮かばなくなっています。着艦が難しいというエピソードを一生懸命述べるのですが、飛行甲板からゼロ戦を見た目線にこだわってばかりで、操縦席からの目線を語りません。パイロットは操縦席に座り風防を通して戦場を見たはずなのですが、地図上を進む戦闘機を駒として見下すように語ります。
absintheは、大戦中の戦闘機パイロットの戦記を読んだことがあります。日英米独の書籍(の和訳)を最低1冊は読んでいるのですが、操縦者が書いただけあって操縦席の情景はさすがに臨場感があったのを覚えています。本作は小説で、ドラマチックにするためなら多少の創作が許される立場にありながら、淡々と描写された戦記に劣っているのです。これではわざわざ小説にした意味もわかりません。パイロットの目線ならもっと他に書くことがあったはずです。本書には、操縦席の居心地、操縦席の臭い、操縦席の寒さ、操縦桿やペダルの重さ、エンジンの騒音や振動、肩にかかる荷重といった、体験者ならではの話がありません。主人公の青年が取材したのはただの自称パイロットだというオチなのでは?と余計に勘繰ってしまいました。
坂井三郎さんの敵飛行場の宙返りのエピソードを始めとしてノンフィクション戦記の引用が多いのですが、それぞれのネタ元の著作では体験者が主観で描写しているエピソードを本作ではせっせと伝聞に置き換えて「これは聞いた話だが」と語ってしまうので、当然のことならがネタ元よりもずっと臨場感の乏しいものになっています。小説というメディアは聞いただけの話を見た話のように嘘をつくのが許されるメディアだったと思うのですが、本書ではわざわざ見た話を聞いた話に翻案しているのです。
どうしても集めたネタを列挙しただけような印象がぬぐい切れず、登場人物の語りに最後まで命がこもりませんでした。
逆に情景がリアルに感じられたのは、少佐と下士官が碁を打つあたりを描写した整備兵の話だったり、戦後の航空ショーで日米のパイロットが互いの勇気を讃えあった話など、戦闘とは関係ない話ばかりです。せっかく苦労して集めてきた素材を著者の中で消化できなかったようです。百田さんは、もう少し想像力をもって戦闘の様子を描写してほしかったですね。
映像作品はまだ見てないのです。でも主人公が操縦席に座っているシーンをコマーシャルで見ました。期待はしてないのですが、こっちはマシかもしれません。
▼以下、ネタバレ感想