無垢なる町

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無垢なる町の評価:

4.00/5点 レビュー 1件。 B ランク

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全1件 1〜1 1/1ページ
No.1
(4pt)

この世の美しさは豊かさの中にだけあるわけではない

バージニア州。州都リッチモンドから故郷の田舎町(ユーフォリア郡)に戻ってきた主人公、保安官補のウィル・シームズ。彼は焼け落ちた家の中から死体を発見するわけですが、その死体は彼の旧友でもあるトム・ジャンダーズでした。トムは刺殺されていて、何者かがそのことを隠蔽すべく放火したと判断されます。ウィルは上司のミルズ保安官と共に捜査にあたります。そして、容疑者を見つけ出しますが、それはウィルの昔からの知り合いであるジーク・ハソムでした。ウィルはジークが人を殺すはずがないと主張しますが受け入れられず、ミルズはジークを逮捕することになります。
 一方、その逮捕に納得できないトムの母親とジークの妻は黒人女性である私立探偵のベニコ・ワッツを雇い調査が開始されます。ウィルは、上司の意向を無視してそのベニコと共闘することになるわけですが・・・果たして。
 終始、登場人物たちの重苦しいダイアローグで語られていくバージニアの物語は、ミステリ的には<Who-Done-It>の体裁が取られていますが、そしてそれはそれなりに興味深いプロセスを辿ることになるわけですが、どちらかと言えばミステリというよりも米国南部、バージニアの南北戦争の頃から変わらない歴史と風土の裏側を描写しているように思えます。中盤、或る奇抜なアクションによって捜査が反転することになりますが、その手段は法を超えたところにあってかなり大胆なストーリー・テリングだと感じられます。それもまたこの作者の資質に根ざしているのかもしれません。その点、ヘンリー・ワイズはミステリ的なロジックにそれほど興味があるようには思えませんでした。
 そこには貧困が根付き、居場所を見失った多くの登場人物たちの罪悪感が継承されながら蠢いています。貧困によって、或いはその土地柄によって、ドラッグ、酒、性、暴力への依存へと逃げ出す登場人物たちの生き様が渾然一体となってその希望の無さ、弱さを象徴しています。
 最も興味深い登場人物は、実は主人公のウィルではなく、典型的なドラッグ依存症者でもあるサムの存在にあって、最も希望を見出すことができない登場人物の中にささやかな希望であり、心の良きものを見出すことが出来るというパラドックスが成立しています。
 1990年代前半、私はバージニアからウエスト・バージニアまでのドライブを敢行したことがありましたが、田舎町の裏寂れた光景の中で点在する廃屋の貧しさを思いながらも何故かその光景が原初の光景のように神々しく感じられたことを思い出しました。この世の美しさは豊かさの中にだけあるわけではありません。
 ▫️「無垢なる町 "Holy City"」(ヘンリー・ワイズ 早川書房) 2026/4/24。
無垢なる町 (ハヤカワ・ミステリ文庫) Amazon書評・レビュー: 無垢なる町 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
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