(短編集)
桜島・狂い凧 兵隊小説集1
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この短編小説集は、以前に光人社から発売された単行本を文庫化したもの(ただし、既刊の『十一郎会事件-梅崎春生ミステリ短篇集』に収録された「失われた男」は割愛されている)。 総じて、作者の文章は歯切れよく明晰で読みやすい。 どこか達観したような冷徹な筆致による人間心理の洞察に長けており、のみならず、風景や人物も目に浮かぶようで映像的描写にも秀でたものがある。 本作品集に収められているのはすべて兵隊物であるが、高級士官ではなく、終戦間際に応召された老一兵卒の視点から戦争や人間を描いている。 単行本は読んでいたので再読ではあるが、初読時よりも面白く感じられた。 収録作品は以下の17編。 「桜島」 :戦争末期に暗号兵として鹿児島の桜島近郊に配属された主人公の、終戦までの軍隊生活を描いた中編小説で、特に大きな事件が起きるわけではないが、卓越した人間描写や情景描写による迫真性に引き込まれた。 虚無的でありながら無意味な死を迎えることに納得できない主人公を始め、日本の勝利を確信し敵軍上陸時は最期まで戦い抜くことを公言する兵曹長、敵機襲来の恐怖にさらされながら美しい死を望む見張り台の兵隊、片方の耳がなく主人公と行きずりの関係を結ぶ娼婦に至るまでが確固たる存在感を伴って作品世界に溶け込んでいる。 死を目前にして極限まで追いつめられたそれらの人物たちが、来るべき死に怯え、或いは覚悟を決めつつも懊悩し、同時に不条理な死へのやり場のない憤怒に駆られながら、もがき続ける姿が、桜島や丘や林などの美しい風物を背景に描かれている様は、異様で鮮烈な余韻を残す。 代表作と呼称されるにふさわしい渾身の一作。 「水兵帽の話」 :作者が海軍に入りたての頃に、列車の窓から水兵帽を線路に落としてしまった出来事の回想。 「万吉」 :万事が無気力で、何とかして兵役解除を企む兵隊の話。 「蟹」 :蟹のような風貌のため、「カニ」とあだ名されていた通信科の上等水兵の話。 「年齢」 :老兵にもかかわらず、入隊時期が遅いために若年兵にいびられた海軍生活の話。 「眼鏡の話」 :泥酔して不注意で眼鏡の片方を割ってしまったことが原因で、海軍士官にいじめられた出来事の回想。 「埋葬」 :利己的、冷淡、尊大、卑屈といった、作者が軍隊時代に感じた海軍気質の話。 「崖」 :30歳の頃の作者と、その同僚で10歳ほど年長の加納という老兵との、老兵同士の確執を描く。 規律に何かと反抗する加納と、なるべく波風立てないようにやり過ごそうとする作者とが克明に対比されている。 加納の心理への作者の分析、そして自分自身への内省、両方に対する偏執的なまでに怜悧で容赦ない批評性に圧倒される。 クライマックの崖のシーンのサスペンスも強烈で、読後は深い余韻を残す。 「ある失踪」 :ある上等水兵が失踪した事件の顛末。 「演習旅行」 :海軍で作られた通信専用の通信車の性能を試すための演習旅行の話。 「山伏兵長」 :たたき上げの兵長の下士官候補に対する歪んだ嫉妬の話。 「生活」 :終戦後に赴任地から引き揚げる際の列車の中の出来事。 「無名颱風」 :終戦後に赴任地から列車で引き揚げる際に、見知らぬ駅で下車せざるをえなくなる。 折しも大型台風が発生し、未知の街で経験する悪夢のような一夜。 台風による物質面・心理面に対する脅威が、洪水のごとく圧倒的な量で執拗なまでに活写され、ただただ圧倒される。 崩壊する街の姿や自然の情景の描き方もきわめて視覚的で、大迫力の力作。 「上里班長」 :空腹で飢えかかっている部下に陰湿な嫌がらせをする兵長の話。 「歯」 :幼少期の食生活が原因で若くしてガタガタになってしまった歯にまつわる戦争体験の話。 「赤い駱駝」 :軍隊生活になじめなかったにもかかわらず、終戦によって錯乱してしまう下士官の話。 「狂い凧」 :ほんとに代表作なのかなあ、というのが偽らざる感想。 双子の兄弟やその叔父などの人生を、過去と現代を交互に描きながら物語る。 戦時の過去と戦後の現代の描写が行ったり来たりするが、時制が混乱することはなかった。 また、会話文中心であるせいかスラスラと読み進むことができたが、その分、作品全体に濃密さが欠けているように思えた。 人間存在の不安定性や人生の不条理がテーマなら、梅崎作品には本作よりもっと面白い作品があるのになあと感じた。 私の読みが浅い可能性は否定できないが、これが今の正直な感想。 以上、17編。 すべてが兵隊物であることから非常に重厚かつ濃密な作品集で、大変読みごたえがありました。 | ||||
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