元禄5年、葉桜の季節。薩摩藩下屋敷の広大な谷地に、槍隊、弓隊を組織した百人の屈強な藩士が待ち構えていた。

水戸光圀公の影警護から一転、再び流浪の身となった大安寺一松。

木剣で叩き割られた頭蓋。だが、そこに鋭利な刃物でスパッと斬られたような痕があった。

「おれは侍になる！」父を殺され、江戸を放逐された中間の倅・一松は、3年間の流浪の果て、大安寺一松弾正と名を変えて江戸に舞い戻ってきた。

「密命も今回かぎりに御免被りとうございます」と、大岡越前の密偵役を辞退して半年。

長崎代官の季次家が抜け荷の罪を着せられ、とり潰しとなった。